近年化学メーカーによる構想改革が進んでいますが、今後の主役となるのがスペシャリティと呼ばれる高付加価値製品です。
その中でも成長が期待される、ヘルスケア分野に強みを持つ企業をシリーズで紹介したいと思います。
今回取り上げる企業は帝人です。
帝人
今回紹介する企業は帝人です。
帝人は日本で初めて化学繊維であるレーヨンの製造を確立した企業であり、繊維を祖業としていますが、
汎用な繊維はコスト競争力に優れる中国が台頭してきたため事業転換を進めてきた歴史があり、今では炭素繊維やヘルスケア、ITなど事業を多角化しています。
実は電子コミックのめちゃコミックも帝人のIT事業の一部であり、DAKE JA NAI テイジンのCMはご存知かもしれませんが、繊維以外にも幅広く手がけていることを表しています。
そんな帝人のヘルスケア事業の歴史は古く、1970年ごろから医薬品や医療機器の開発を始めています。
2021年のセグメント別売上高では主力であるマテリアル、ヘルスケア、繊維の三部門がバランスよく稼いでいますが、営業利益で見るとヘルスケアとITが大きく稼いでいるような状態です。
21年度は原料高や生産休止などで繊維やマテリアル事業は苦戦しているようですが、そのような中でもヘルスケアは好調に成長しており、市場の強さを感じさせます。
では帝人はヘルスケア分野において、どのような事業を手がけているのでしょうか。
帝人のヘルスケア部門
そんな帝人のヘルスケア部門は、在宅医療と医薬に強みを持ちます。
在宅医療では患者が家でも使用できる酸素療法や睡眠療法などの医療装置を取り扱っており、さらにこれら機器より得られた情報を医療機関と共有し、指導や管理に活かすサービスも提供しています。
医療機器とITを掛けあわせる事業は富士フイルムと似ていますが、在宅医療においても患者を24時間365日サポートするサービス体制や、長年培ってきた医療従事者や患者とのネットワークが帝人の在宅医療の強みとなります。
医薬についてはバイオ医薬品に力を入れる富士フイルムに対して、帝人は合成化学の知見を活かした低分子医薬品に注力しており主力の痛風治療薬に加えて、21年4月に武田薬品から購入した糖尿病治療薬も好調です。
さらに医薬品で培った知見や分析技術を活かして機能性食品事業にも進出しており、スーパー大麦やわさび由来栄養成分など機能性食品で健康志向の高まりを取り込もうとしています。
なお武田薬品の糖尿病治療薬を獲得するために1300億円を越える資金を投入していますが、糖尿病治療薬は競争が激しく、入手した薬剤も成長のピークは過ぎているとの見方が大勢を占めています。
しかしそれでも購入を行なった理由があり、主力の痛風治療薬の特許切れを乗り越える目的や帝人が得意とする代謝・循環器系の領域を強化する狙いに加えて、帝人が目指す、ある野望が関わっています。
その野望こそが、地域密着型総合ヘルスケアサービスプロバイダーです
地域密着型総合ヘルスケアサービスプロバイダーとは
これは従来の保険領域を超えたサービスを提供するものです。
医療においては治療だけでなく、予防や介護も含めたケアサイクル全体において患者をサポートする必要がありますが、そのためには幅広い職種の人々が患者の情報を共有し、連携するシステムの構築が不可欠です。
そこで帝人は医薬や在宅医療で培った技術や医療関係者とのネットワーク、機能性食品による予防効果、さらに他社の製品も組み合わせることで、地域密着型の総合ヘルスケアサービスの提供を目指しているのです。
そしてその足がかりとして選定したのが糖尿病と考えられます。
糖尿病も治療だけでなく、食事指導や重症化予防などの包括的なケアが必要な疾患であり、武田薬品から獲得した糖尿病治療薬をベースとしながら、得意とする治療機器で合併症のケアやさらには強化している機能性食品による健康促進も合わせて、帝人が培った医療現場や患者との信頼関係を組み合わせることで総合的なソリューション提案を目指しているのです。
帝人の強みをフルに活かして地域社会に貢献する取り組みであり、これまでの化学メーカーとしての役割を超越した新たなサービスの提供が期待され、今後の収益化へ向けた仕組みの構築が待たれますね。