世界的な環境意識の高まりから、脱炭素化の流れは加速しています。
脱炭素社会を達成する技術の一つとして着目されているのが"水素"です。
しかし水素はその製造方式により様々な種類分けがなされており、環境への負荷も異なります。
今回は水素の製造方法と、その環境への影響について解説します。
1.なぜ水素が着目されてるのか
二酸化炭素の排出量を部門別に見ると、エネルギー転換(発電等)や産業、運輸の占める割合が大きいことがわかります。
石油などの化石燃料からエネルギーを取り出す際に二酸化炭素が発生するためであり、環境負荷の低い新たな燃料が必要とされています。
そこで着目されているのが水素です。水素は石油などの化石燃料と異なり、燃焼させても水しか生じず、二酸化炭素は発生しません。
そんな環境に優しいエネルギー源として着目されている水素ですが、どのように生産されているのでしょうか。
2.水素の工業的な製法について
水素は天然には存在しないため、人工的に作らなければなりません。
原料には炭化水素(CnHm)や水(H2O)といった水素原子を含む化合物が用いられ、電気や熱といったエネルギーを加え水素として分離する必要があります。
現在商業化された一般的な水素生産法は"水蒸気改質法"で、メタンなどの炭化水素と水蒸気に熱を加えて水素を作ります。
国内のほとんどの水素がこの方法で作られているようです。スキームを下に示します。
水蒸気改質法 CH4 + H2O → CO + 3H2
高温条件(500 - 1100 ℃)において金属触媒が存在すると、水蒸気とメタンが反応し、一酸化炭素と水素が得られることを利用しています。
しかし高温条件のため、その熱源として化石資源を利用することになります。
また原料に化石資源であるメタン(天然ガス)を用いており、反応後に一酸化炭素も生じてしまいます。
このように水素自体は二酸化炭素を排出しない環境に優しいエネルギーである一方で、水素を製造するために二酸化炭素を排出してしまうのです。
このような理由から、上記製法で作られた水素はグレー水素と呼ばれます。
商用で使われる水素は、もともと化石資源なのです。
3.環境に優しい水素とカラーバリエーション
水素には様々な製法があり、環境に優しい水素の製造方法も研究されています。
もっとも環境に優しいと考えられる水素の製造方法は、水の電気分解です。
原料は水で、副生成物は酸素のみとなります。
水の電気分解 H2O → H2 + 1/2O2
特に再生可能エネルギーを電力に用いて生産された水素は製造過程でも二酸化炭素を排出しないため、もっとも環境負荷が少ないグリーン水素と呼ばれます。
水の電気分解法は、電気代の高い日本では産業化されていませんが、エジプト、カナダなど水力発電による電気の安い国では商業プラントが稼動しているそうです。
一方同じ水の電気分解法でも、電力に原子力発電を用いた場合、環境面への配慮から生成する水素はイエロー水素と呼ばれます。
原料に化石燃料を用いつつ、環境負荷を減らした製法もあります。
例えばグレー水素と同じ製法ですが、排出する二酸化炭素を回収することで、二酸化炭素の排出量を実質ゼロとする取り組みが進められています。
これは従来の水素製造と、二酸化炭素の分離・回収・貯留技術(CCUS)を組み合わせた技術で、この方法で製造される水素はブルー水素と呼ばれます。
ブルー水素は二酸化炭素を排出しない分、グレー水素よりも環境負荷が小さいとされています。
また同じく原料にメタンを用いますが、電力は再生可能エネルギーを用い、発生する炭素を固体として回収する方法が検討されています。
この製法で得られる水素はターコイズ水素と呼ばれ、三菱重工や、戸田工業・エアウォーターなどが検討しています。
戸田工業・エアウォーターの取り組みでは、メタンの水蒸気改質ではなく、直接改質に取り組んでいます。
直接改質法 CH4 → C + 2H2
このとき副生する炭素を、なんとカーボンナノチューブとして取り出そうとしています。
カーボンナノチューブと合わせて水素を販売することで、水素の販売コスト削減にもつながります。
ちなみにターコイズはブルーよりも緑に近い青色です。よりグリーン水素に近いという意味でターコイズ水素と名付けられたと思われます。
他にも石炭から水素を生産するブラウン水素(グレー水素と同じ時もあります)や、副反応で得られるホワイト水素(苛性ソーダの製造など一部)等が存在します。
環境面で考えるとグリーン水素がもっとも優れますが、グリーン水素はグレー水素やブルー水素よりもコストが高いことがネックとなります。
水の電気分解よりも、天然ガスを用いたほうが大幅に低いコストで水素に変換できるためです。
したがって現状、環境に優しい水素としては、天然ガスを原料として二酸化炭素は回収するブルー水素が増えると予想されます。
水素を使用する側としても、本当に環境に優しい水素なのか見極める必要が出てきそうですね。
消費者が環境に優しい水素を選択することが、持続可能社会を実現する上で大切です。