業界の動向

化学メーカーによるバイオ医薬品開発・製造受注(CDMO)

 医薬品の中でも特に成長が見込まれているバイオ医薬品。

 医薬品を生産するのは製薬メーカーですが、化学メーカーがその製造や開発に投資を活発に行っています。

 そもそもバイオ医薬品とは何者で、化学メーカーはバイオ医薬品のどこに商機を見出しているのでしょうか。

1.バイオ医薬品って何?

 一般的な薬は、化学反応により合成される低分子化合物です。

 解熱鎮痛剤であるアセトアミノフェンなどがそうですね。
 (解熱鎮痛剤についてはこちらの記事でまとめています)

 一方でバイオ医薬品は、遺伝子組み換え技術や細胞培養技術を用いて製造したタンパク質を有効成分とする医薬品です。

 バイオ医薬品では体内で不足したタンパク質を補ったり、人口的な抗体を作成し医薬品とすることができます。

 実際に糖尿病治療薬のインスリン製剤や、関節リウマチの治療、新型コロナウイルスワクチンなどに用いられています。
 (新型コロナのmRNAワクチンについてはこちらの記事にまとめています)

バイオ医薬品低分子医薬品
製造方法細胞で培養化学合成
分子量数千-15万500以下
剤型注射錠剤など
バイオ医薬品と低分子医薬品

 

 ちなみにタンパク質であるバイオ医薬品は、経口摂取すると分解吸収されてしまいます。
 したがって注射器等で投与することが一般的です。

 バイオ医薬品市場は年率8-9%で伸びると予想されており、さらに新型コロナウイルス感染拡大に伴う検査薬・ワクチン・治療薬の特需も取り込む、医薬品の中でも特に成長分野なのです。

バイオ医薬品は薬効が高く適用範囲も広いと考えられていますが、大量生産が難しいことが課題です。

2.医薬品開発・製造受注(CDMO)とは

 では、医薬品開発・製造受注(CDMO)とはどういうことでしょう。

 まず医薬品の生産過程には、大まかに分けて創薬・製剤開発・臨床・製造・販売の流れがあります。

 創薬の段階では、まず薬効がありそうな新しい物質を見つけ権利化します。その物質の安全性や有効性を、研究室で動物などを使って確認することになります。

 安全性が確認できたら、患者が飲みやすく、体内の狙った場所に薬を確実に届けられるかたちに仕上げます(製剤・治験薬開発)。

 そうして人に投与できる形になってから臨床試験を行い、承認が得られれば製造・販売を行うこととなります。

 新薬の研究開発には莫大な資金と時間が必要であり、製薬会社は経営リソースを創薬や臨床開発など医薬品の研究開発に集中させたいと考えていました。

医薬品ができるまでの流れ

 その思惑に思惑に応える形で産まれたのが、製造・開発(製剤研究や治験薬製造)を受託するサービスであるCDMOなのです。

 化学メーカーはこのCDMO分野への参入を図っているのです。

 というのも、薬の有効成分を目的の場所まで届ける製剤には化学技術が使われています

 実は医薬品の中に入っている有効成分は微量であり、でんぷんなどを加えて扱いやすい量に増やし、服用しやすい形状にしています。

 さらに、錠剤やカプセル剤の形状や大きさ、コーティングなども、体内で狙い通りに機能し、品質を維持できるように設計されているのです。

 また製剤研究の段階では、製品である医薬品を円滑に大量生産できるように設計しておく必要があります。

 つまり、製剤研究と医薬品の製造は同じ企業が行った方がスムーズに進むのです

医薬品の製造におけるCDMO

 創薬研究と製剤製造では業態の特徴が異なることもあり、またバイオ医薬品は開発が難しく、製剤製造を外注する動きが増えているのです

 開発と製造を別の会社が役割分担して、リスク軽減する狙いもあります。

製剤分野では、化学メーカーも技術を活かすことが出来ます。

3.化学業界によるバイオ医薬品開発・製造受注への投資が活発に

 バイオ医薬品は大きな伸びが予想されており、英国調査会社の試算によると世界市場は2024年に352億ドルに達し、およそ100億ドル(約1兆円)の成長が見込まれています。

 そんなバイオ医薬品のCDMOへの外注比率は現状15%にとどまっていると見られています。

 低分子医薬品のCDMOは60%まで成長が続いたため、バイオCDMOの潜在的な成長は幅は高いとの見方が強いです。

 日本でも、バイオ技術を有する化学企業がバイオCDMOを重点事業に位置付けています。

 富士フィルムは2020年度にバイオCDMO事業で1000億円を超える売上を達成しており、世界的に見ても2位グループの規模を誇っています

 今後も1000億円近い大型設備投資を行い、2025年には売上2000億円を掲げています。

 同じくバイオCDMO事業大手のAGCも受注件数を伸ばしており、日米欧で培養・分離・精製に集中するようです。

 他にもカネカはワクチン中間体の受注製造を伸ばしており、JSRも米国、スイスと生産能力を増強しています。
 JSRの近年の動向についてはこちらの記事にまとめていますので、よければご参照ください。

 バイオ医薬品分野は今後もメーカーによる投資が活発になると予想され、注視したい業界ですね。

バイオ医薬品に強みを持つか否かが、企業の将来性を見分ける指標になるかもしれません。

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