近年はデジタル技術の発達をビジネスに活用するDXが叫ばれるようになっています。
化学業界においてもDXは各社の成長戦略に関わる一要素となっています。
しかし実際に化学メーカーが進めるデジタル改革とはどのようなものなのでしょうか。
DXとは
IoT、BigDate、AIといったデジタル技術は急速に発達しており、私たちの暮らしをより快適なものとしています。
近年、様々な企業が発展したデジタル技術を活用してビジネスの仕組みそのものを変革し、新たな価値を生み出すDX(デジタルトランスフォーメーション)に力を入れ始めています。
そして化学業界においても導入が検討されているのがMI(マテリアルズインフォマティクス)なのですが、MIにより開発期間の短縮やコストダウン、人智を超えた設計なども期待されているのです。
化学メーカーが導入するMIについて
そもそもMIとは何なのでしょうか。
MIとは、AI(人工知能)を用いて材料開発を効率化する取り組みのことを指します。
したがってまずAIから解説する必要がありますが、こちらは皆さまご存知の通りですでにAIは囲碁やチェスにおいて人類を凌駕しており、世界中に驚きを与えました。
そしてこのAIの発達を支えたのが機械学習なのです。
機械学習では膨大な量のデータをAIに学習させることで、データの中に自然なパターンを見つけ出します。
例えばAIにビッグデータとも呼ばれる大量のイチゴの写真を機械学習(インプット)させたとします。
するとAIはイチゴのパターンを学習したことでイチゴを判別できるようになり、甘みなどのパラメーターも同時に学習させることで、判別したイチゴの甘みを推測できるようになるイメージです。
AIの優れている点は得られたパターンをもとに未学習のデータについても予測できる点で、先ほどの例では、欲しいイチゴの情報を入力することで予想されるイチゴを導き出してくれるのです。
近年はデジタル技術の発達により膨大な量の情報を操れるスーパーコンピューターなどが台頭したことで、AI技術も飛躍的に発達しており、素材分野においてもこうした技術を応用することで、材料開発を効率化しようとする取り組みが加速しており、これがMIなのです。
特に素材分野はコンピューターにインプットする材料のデータベースが比較的整備しやすく、期待する特性も数値化してアウトプットできることなどがAIと相性が良いようです。
加えて従来の素材開発は熟練研究者の経験や勘による見込みと試行錯誤の繰り返しにより進められていましたが、近年は製品のライフサイクルが短縮化、顧客ニーズも多様化、高度化しているため激化するスピード競争に勝ち抜くためにもMIを活用した素材開発が不可欠になると推測されているのです。
したがって最近はデータ科学と材料知識の両方を持つ人材の育成が必要とされ始めており、三井化学は2025年度までに165人、住友化学は2024年度までに専門人材を330人程度まで増やすと公表するなど、実はMIにおける競争も激化しているのです。
MIによる材料開発スキーム
具体的にMIによる材料開発の設計プロセスを見ていきましょう。
材料開発では、ある要求性能をクリアした化合物の設計が求められます。
例えば市場でもっと熱特性や電気特性を改良した素材のニーズが高まり、それを受けて研究者が素材開発に着手するような感じです。
化合物の性能は、その分子構造や結晶構造、材料組成などで変わるため、従来の材料開発では、研究者の専門的知見に基づき目的の化合物の構造を予測し、設計が進められていました。
一方でMIでは、この予想を予測モデルが行うのです。
この流れを一つずつ解説して行きます。
まずはじめに、化学構造と物性値の相関といった材料のデータを用意します。
科学論文・特許・社内文書といった様々な情報をコンピューターが取り扱える形で準備する必要があります。
そうして得られたデータをインプットし、より精度の高い機械学習モデルを構築、得られた予測モデルに対して、目的とする化合物の情報を入力することで、その構造が予測されるのです。
精度高く予想されることで材料開発の大幅な効率化やコストダウンが期待されるほか、AIは膨大な数のデータを先入観がない状態で学習するため、人知では辿り着けない新規な発見の可能性も秘めているのです。
こうしたMIの適用範囲は広く、機械学習を使った超高速のバーチャルスクリーニング、合成経路逆探索、ベイズ最適化による高効率な実験計画などが挙げられます。
しかし人智だけではたどり着けない可能性を秘めたMIにも、その運用には多くの課題があるのです。
MIの課題
実際のMIによる材料開発では予測モデルの予想が百発百中するようなことはなく、機械学習だけで目的化合物の構造を予測することは困難な場合が多いようです。
精度の高い予測が得られるほどデータが多くないことが一つの原因であり、実際にMIの運用で最も時間がかかる工程がデータ収集とクレンジング(選別作業)と言われているのです。
属人化した煩雑なデータや部署ごとに表記の違うデータなどがデータベース作成の足かせとなっており、組織の風土改革などから進めなければならないことも少なくありません。
また材料開発においては、今までのデータにない新規な性能を有する化合物が求められることが多く、AIはこうした既存のデータ外の予測を苦手としています。
加えてデータの特性によりアルゴリズムや条件等を厳密に設定しておかないと、非現実的な予測ばかり出てきてしまい、効率的ではなくなってしまうこともあるのです。
このようにMIの導入・運用は一朝一夕にできるものではない上に、研究データ管理の効率化や専門人材の育成などに多大なコストも避けられないのです。