昨年12月に化成品事業の売却と従業員の転籍が報じられたブリヂストン。
今回はまずブリヂストンについて解説しまして、なぜ事業売却を行なったのかを説明し、そして2022年8月に発表された長期経営方針から今後の動向を読み解きたいと思います。
ブリヂストンについて
創業
まずブリヂストンについてですが、世界恐慌まっただ中の1930年に日本足袋のタイヤ部門として発足しています。
今でこそ巨大企業のブリヂストンですが、当初はゴム靴を手掛ける会社の1部門でしかなかったのです。
翌年の1931年には分社独立、社名は創業者である石橋氏の名前を英訳したブリッヂストンタイヤとしており、これは当時タイヤの世界的ブランドであったファイアストンのような企業になりたいという思いも込められていたようです。
社内でも反対のあったタイヤ事業ですが、石橋氏の「最高の品質で社会に貢献」という考えのもと順調に成長を続け、リコール問題で業績の悪化したファイアストンを買収するなどして世界のブリヂストンへと成長しました。
現在のブリヂストン
それでは現在のブリヂストンを解説しますと、21年12月期の売上は3兆2460億円、営業利益3768億円と日本を代表する巨大企業なのです。
タイヤメーカーの売上ランキングにおいてブリヂストンは国内タイヤメーカーで圧倒的首位、昨年はトップを譲っていますが世界でも2位のシェアを有しフランスのミシュランと双璧を成しているのです。
そんなブリヂストンのコア事業はやはりタイヤ部門であり、ECOPIAやREGNOなどのブランドで有名ですが、乗用車からトラック、建設用車両など幅広い種類のタイヤを扱っています。
タイヤはゴムを主原料にカーボンブラックなどの配合剤を加え混合・成形・加硫により作られる化学製品であり、タイヤメーカーは川上に位置する企業から原料を購入し自動車会社等に販売する川下企業に当たるわけですね。
なおゴム消費量のおよそ8割がタイヤとされており、合成ゴム工業にも大きな影響を与えています。
そしてブリヂストンのもう一つの事業が多角化部門です。
売上高構成比では2割に満たないものの、タイヤ以外にベルトやホース、免震ゴムなどの化成品を扱っています。
これら2事業は半分近くをアメリカで売り上げており、国内売上は2割程度となるなど、海外売上比率の高いタイヤ業界の中でもブリヂストンは海外展開が進むグローバルメーカーなのです。
コロナ禍では流石に落ち込んだものの、タイヤ市場は今後も年平均4%で成長するとされており、成長が期待されています。
事業売却について
ブリヂストンは昨年末に防振ゴムと自動車シートパッドなど3事業で構成する化成品事業の売却を発表しており、これら事業の売上収益は1000億円を超え、従業員8000人に転籍を求める大規模なリストラ(人員整理)を断行しています。
この背景にはいくつかの要因があるのですが、一つは中国勢など新興タイヤメーカーの追い上げです。
2006年にはブリヂストン、ミシュラン、グッドイヤーの上位3社でシェアの半数を握っていたのですが、新興タイヤメーカーの増産でシェアが4割以下へ低下、競争に激しさが増しているのです。
ブリヂストンの売上高の推移を見ても、ここ数年は横ばいで推移しているのに対して利益率はじわじわと減少しており、タイヤ部門の採算が悪化し始めていたのです。
ブリヂストンも稼ぐ力の再構築を推進しているのですが、そこで槍玉に上がったのが多角化事業です。
ブリヂストンの多角化事業は2020年には5000億円近く売り上げてはいたのですが、利益率では2%を切っており、加工品事業は大幅赤字となるなど苦しい状況が続いていました。
収益体質の強化を掲げるブリヂストンにとって低収益な多角化事業の売却はもはややむを得なかったのです。
また他の理由として、自動車のEVシフトも影響を与えたと考えられます。
自動車などの運輸部門は年間2億トン、国内全体のおよそ15%の温室効果ガスを排出しており、脱炭素社会を実現するため自動車の電動化が必須とされ、今は100年に1度の大変革期とも呼ばれているのです。
タイヤ自体はEV化の影響を大きく受けないとされていますが、EVではエンジンを搭載しなくなるため、防振ゴムやホースの需要が減少、または使用されなくなる製品も出てくると予想されているのです。
こうした情勢から将来性の低い防振ゴムなど売却し、タイヤ事業に専念する選択と集中を進めたと見られますが、今回の事業売却で従業員の転籍も求めており、痛みを伴う選択であったことは間違いありません。
長期成長戦略について
このように向かい風の状況が進むブリヂストンですが、今後はどのように成長していくのでしょうか。
ブリヂストンは2022年8月に2030年までの長期戦略を発表しており、これは変化が常態化する社会で生き抜くため、創業100周年となる2031年までの道筋を示したものとなります。
数値目標を見てみると2030年には売上収益を5兆円強レベルへ、営業利益は現在の2倍近い8000億円強レベル、調整後営業利益率でみると15%と規模と稼ぐ力の両方を大きく拡大します。
具体的な成長戦略については、プレミアムタイヤ事業とソリューション事業の2事業を伸ばす方針のようで、それぞれについて解説していきたいと思います。
まずプレミアムタイヤでは需要が伸長する高インチタイヤに続く新たな成長ドライバーとして、環境性能と運動性能を両立したタイヤ技術エンライトンを中核に新たなプレミアムの創出を狙います。
汎用なタイヤは新興メーカーとの競争が激しいため、ブリヂストンは長年培ったタイヤ技術を活かして、高付加価値な製品に注力していく方針のようですね。
加えて設計開発においてBCMA技術を導入することで競争力の強化も図ります。
タイヤは骨格となるカーカス、ベルト、路面と接するトレッドといった部材からなるのですが、BCMA技術ではこのうちカーカスとベルトを商品間で共有・シンプル化することで生産性を向上させます。
またエンライトン技術を活用し、地面と接するトレッドの性能をカスタマイズすることで、顧客のニーズに合わせた商品を提供、顧客満足度の向上を図るとしています。
通常このような品種統合によるコストダウンと顧客ニーズへの対応は相反する傾向にあるのですが、ブリヂストンはシンプルな仕組みとカスタマイズ性を活用してその両立を目指すようです。
続いてソリューション事業ですが、これはタイヤの摩耗予測や車両運行管理などタイヤ使用の効率化を提供するもので、先ほどのプレミアタイヤにデジタル技術や循環ビジネスを連動させることで多様なソリューション事業を展開、シナジーを追求しながら戦略的に投資することで、2030年には現状の約2倍となる2兆円レベルの収益を目指しています。
他にも精密な複合化により強度を2.5倍に高めたダブルネットワークゴムや、F1等で培った知見を活かして使用環境を再現するデジタルツインの構築など、興味深い技術開発も進めています。
加えて環境目標としてもCO2排出量の50%減(11年比)、2050年にはカーボンニュートラル化を掲げており、グリーン&スマート工場への投資も拡大、23年までに再生可能エネルギー比率を50%まで引き上げます。
他にも電気加硫という独自技術の実用化や、工場内で発生したCO2をメタン化してエネルギー源として再活用する技術の確立など、業界のリーディングカンパニーとしてCNにも貢献していくようですね。
ブリヂストンは戦略投資・経費として30年までに2兆8000億円を想定しており、このうちサステナビリティ関連投資は7200億円を見込んでいます。
創業100周年を迎え、生まれ変わるブリヂストンに期待しましょう。