業界の動向

化学業界の重要領域、半導体材料市場を考察

何かと注目される半導体、化学メーカーにとっても成長領域であることは間違いないものの、

複雑怪奇で実態は良く分からないよ、という方も多いかと思います。

今回はそんな半導体材料市場の全体感をつかめるよう、解説していきます。

それではどうぞ。

半導体とは

まず初めに、半導体とは何か、そしてその市場や取り巻く環境を解説します。

化学業界からは少し遠い話になりますが、背景を知ることで後半解説する材料への理解も深まるかと思います。

では、そもそもみなさま、半導体とは何かご存じでしょうか。

実物はお手持ちのスマホをたたき割ることで、見て取ることができるかもしれませんが、

この黒い物体がそれで、中にICチップが入っています。

半導体はある電気的な性質もつ材料を指しますが、
半導体を材料に用いたICなども慣用的に半導体と呼ばれます
出典

半導体は情報の記憶、数値計算や論理演算などの知的な情報処理機能を持っており、

スマホやPCのほか家電、自動車含め、あらゆる電子機器や装置の基幹部品として重要な役割を果たしているのです。

半導体の用途
出典 Semi journal

ちなみに半導体は用途によってさらに、記憶装置のメモリー、演算処理を行うロジックなどに分類されるほか、

最先端の半導体はスマホへ、レガシーと呼ばれる成熟した世代の半導体は自動車や産業機器に用いられやすいです。

例えばiPhone 15は、最先端の3 nmプロセスにて製造される、ロジック半導体を搭載しており、

半導体の進化はスマートフォンの性能向上にも大きく寄与していますね。

そんな半導体を製造する半導体業界ですが、

WTST(世界半導体市場統計)によると、2023年における世界半導体市場はなんと5240億ドル(およそ73兆円)。

今後もあらゆる産業の成長が半導体にかかっており、近年でも生成AIといった技術が勃興するなど、

半導体需要は今後も飛躍的に増加すると期待されており、将来的に市場は100兆円を超えるともされています。

WTST2023年秋季半導体市場予測について

その市場規模の大きさと高い成長性から、株式市場を大きく動かす半導体ですが、

こうした成長機会を取り込める企業はどこなのか、皆様気になるところではないでしょうか。

半導体デバイスに関しては、現在はアメリカのIntelや韓国サムスンといったメーカーが強みを持っています。

ただ近年は、半導体の設計と製造を分離する動きも活発で、

半導体の設計は行わず、製造に特化して受注生産を行うファウンドリーでは台湾のTSMCが覇者となります。

Appleなどもiphoneやmac bookのICを設計していますが、
自社工場は持たず製造はメーカーに外注しています。

半導体はチップ上に描かれる電子回路が微細化するほど、動作速度や電力効率が上がり高性能になるのですが、

台湾は最先端のロジック半導体に強く、9 nm以下の世界生産の6割以上が台湾に集中しているのです。

半導体・デジタル産業戦略(経済産業省)

日本企業もメモリーやイメージセンサ、パワー半導体などで一定のシェアを有していますが

半導体市場全体でみると10%以下のシェアと、やや存在感が薄い状況となります。

半導体・デジタル産業戦略(経済産業省)

最後に、半導体は株式市場だけでなく、国家安全保障をも左右するとされています。

というのも、半導体はその重要性から国際競争力にかかわる戦略物資としての側面も強まっており、

各国で自国のサプライチェーン構築を目指す動きがみられているのです。

アメリカは最先端半導体に関連して、中国への輸出を禁止するなど封じ込め策も繰り出しており、

長期化が想定される米中対立への備えも意識しなければなりませんね。

日本に関しても、近年はファウンドリー最大手の台湾TSMCを熊本に誘致し、

北海道には、国産の次世代半導体の開発を目指す新企業ラピダスが発足するなど

国内で半導体製造を加速する動きも進められています。

半導体材料について

ここまで半導体業界の概要について紹介しました。

続いては化学業界が関係する、半導体材料について解説します。

前述の通り半導体は回路を設計することで性能が発揮されるのですが、

その生産プロセスには多くの化学製品が使われています。

化学メーカーは半導体を製造するメーカーへ、これら半導体材料を供給しており、

こと半導体材料に関しては日本勢が世界シェアの半数程度と、日本の化学メーカーのお家芸ともいえる分野なのです。

半導体・デジタル産業戦略(経済産業省)

そんな半導体材料の世界市場は、富士経済によると22年は513億ドル(およそ6.6兆円)、

今後も半導体デバイスの需要に合わせて材料市場も拡大する見込みで

27年には14.2%増586億ドル、およそ8兆円にまで拡大するとされていますね。

このように日本勢が強みを持ち、しかも今後の市場拡大までも期待される半導体材料、

では具体的に、どの企業がどのような製品を手掛けているのでしょうか。

今回は半導体の製造プロセスに沿って、半導体材料や手掛ける化学メーカーを紹介し、

最後には今後の注目ポイントなども取り上げます。

プロセスの全体像

まず半導体製造プロセスの全体像について。

大まかに分けると、回路を設計する工程、シリコンウエハーに微細な回路を形成する前工程、

そしてウエハーから切り出したチップを実装する後工程の三つに分けることができます。

半導体材料が使用されるのは主に前工程と後工程で、23年の半導体材料市場(見込み)をみると、

前工程材料は334億ドル、後工程材料は131億ドルと、前工程の方が規模は大きくなります。

ではこれら半導体の生産プロセスに使用される材料を、川上から解説していきます。

回路設計 フォトマスクの作成

半導体用フォトマスク(TOPPAN HPより)

まず回路の設計ですが、ここではフォトマスクの作成工程を解説します。

用途に合わせ、半導体メーカーやファブレス企業が半導体チップに配置する回路を設計するのですが、

回路は原板となるガラス板に描画され、これがフォトマスクと呼ばれます。

フォトマスクの役割
(TOPPAN HPより)

フォトマスクは半導体チップに回路を転写する役割を担い、よく写真のネガに相当するといわれますね。

フォトマスクは最先端品を中心に半導体メーカーが内製する傾向にあるのですが、

フォトマスクの外販ではDNPやTOPPANら印刷2社が高いシェアを有しています。

またフォトマスクの原料であるフォトマスクブランクスは、HOYAが世界首位とみられます。

2021年度市場シェア
(オプティカル)
2021年度市場シェア
(EUV)
HOYA HPより

フォトマスクブランクスでは、AGCや信越化学らも積極投資により、シェア拡大を図っていますね。

前工程

いよいよウエハーに回路を作りこむ、前工程と呼ばれるプロセスです。

塗布、露光、現像、エッチング、平坦化など一連のプロセスで作られており、

半導体製造用ガス、洗浄剤、CMPスラリーなど、工程ごとにさまざまな材料が使用されることになります。

前工程は複雑なのですが、おおまかに解説すると、シリコンウエハーにフォトレジストを塗布し、

先に作成したフォトマスクの回路を転写、なんやかんやすることで回路が作りこまれることになります。

今回は代表的な材料である、シリコンウエハー、フォトレジストについて取り上げます。

シリコンウエハー

まず回路の基盤となるがシリコンウエハー。この上に回路が形成され、チップの形で切り出されます。

シリコンウエハーは単結晶のシリコンで、フリスビーくらいの円盤サイズが主流、

200 mmと300 mmなどの径のものがある
SUMCO HPより

元となるシリコンインゴットを1 mm幅程度にスライスし、その後研磨・洗浄することで作られます。

SUMCO HPより

メーカーはみなさまご存じ信越化学工業がトップ、2位はSUMCOと日本勢でおよそ6割のシェアを持ちます。

SEMI NETより

SUMCOは聞き馴染みがないかもしれませんが、三菱マテリアルズシリコン、住友金属工業シリコン、コマツ電子金属らの

合併や買収から生まれた、いわば信越半導体のライバル3社の連合軍とも言えます。

またシリコンウエハーの原料となる多結晶シリコンは99.999999999%と極めて高い純度が求められ、

こうした高純度多結晶シリコンではトクヤマが高いシェアを誇ります。

トクヤマは過去記事で解説しています

フォトレジスト

続いて紹介するのはフォトレジスト。フォトレジストは光と反応して変化する感光性材料です。

フォトレジストは光が当たった部分だけ反応するので、フォトマスクで覆いながら露光することで

パターンを形成することができ、半導体の回路形成に欠かせない基幹材料となります。

フォトレジストはJSR、東京応化、信越化学、住友化学、富士フィルムらが手掛けており、

なんと日系5社で世界シェアのほとんど牛耳る日本の独壇場なのです。

なおフォトレジストは感光剤やベース樹脂、溶剤などから構成される混ぜ物で、

露光波長に最適なベース樹脂や感光剤といった材料を選択する必要があります。

電子線を用いたEUVリソグラフィの加工性能評価方法の確立 保坂勇志

こうしたフォトレジストの原材料も日本のメーカーが強みを持ち、

ベース樹脂では丸善石油化学や群栄化学工業などが挙げられ、感光剤では東洋合成工業が5割以上のシェアを誇る世界大手です。

ただ市場規模に対してプレーヤーが多すぎるという、日本の半導体材料メーカーの課題を抱える市場でもあります。

また今回紹介できませんでしたが、前工程にはほかにも、半導体製造の30~40%ともされる洗浄工程に使用される洗浄剤、

回路を平坦化する工程で使用されるCMPスラリーといったプロセスケミカルも、日本勢が強い分野ですね。

後工程材料

半導体 後工程
(菅製作所HPより)

最後は後工程と呼ばれる、ウエハーから切り出したチップを実装するプロセスです。

前工程で処理したウエハーを切り分け、フレームに接合、検査する工程で、材料としては

封止材で住友ベークライトが世界首位、三菱ガス化学は積層板となるBTレジンで世界シェア4割とみられます。

三菱ガス化学
Corporate Reportより

またレゾナックは後工程に限れば、売上高で2位以下を大きく引き離す首位、

前工程も含めても、半導体材料分野の売上高ランキングでトップ3に入っています。

メディアラウンドテーブルより

レゾナックの前身となる昭和電工は高純度ガスといった川上領域の半導体材料を得意としていたのですが、

川下に強みを持つ日立化成を取り込んだことで情報電子分野のバリューチェーンを広げ、競争力を強化しています。

これまで後工程は、前工程ほど着目されてこなかったのですが、

半導体の進化を牽引してきた微細化が限界に近づく中、後工程のパッケージング技術が注目されています。

今後のポイント

半導体材料の概要について解説しました。

今後のポイントとしては、

・停滞する半導体業界の復活時期はいつか。

・半導体材料の再編の行方は

・半導体微細化技術の限界

・九州のTSMCやラピダスが与える影響とは

などが挙げられるのではないでしょうか。

今後もこの辺りについて考察していきたいと思います。

おすすめ記事

1

今回は総合化学メーカーと呼ばれる三菱ケミカルG、住友化学、三井化学、加えて旭化成、東ソーの5社を解説します。 事業内容も比較していますので、就活、転職、株式投資のご参考に良ければ最後までご覧ください。

2

Youtubeのコミュニティに寄せられたコメントをテーマに取り上げ、化学業界を見通してみる企画です。

-業界の動向
-,