今回は信越化学工業をはじめ、化学セクターの決算速報です。
長らく低位安定が続いてきた化学セクターですが、今期は回復軌道への回帰が期待されています。
そんな注目の第一四半期決算、なんとさっそくロケットスタートを決める企業も出てきています。
上振れも下振れもあり得る状況なのですが、解説してきます。
第一四半期決算速報
まず、昨日決算を公表した化学メーカーの速報について。
低空飛行が続いた化学メーカーですが、かなり良い数字も飛び出しました。
例えばトクヤマの第一四半期決算をみると、売上高は微減の825億円ながらも、営業利益は46%増益の75億円、
日東電工は売上高2493億円、営業利益は507億円と、前年同期比で2.3倍の大幅な増益となります。
日東電工は営業利益の通期予想も3割上方修正し、前年比で26.6%の増益予想となったほか、
東京応化工業も決算に先立って上方修正を発表、上期の利益予想を2割増としています。
第1四半期から快調な滑り出しも、いったいどうして、これほどまでに調子が良いのか。
それぞれ得意分野が全く異なるので、要因も違ってくるのですが、
例えばトクヤマは分かりやすく、原燃料となる石炭価格の下落が大幅増益につながりました。
トクヤマは石炭火力発電を胆とした高効率な生産拠点を強みとしており、石炭価格は生命線なのですね。
対して日東電工や東京応化工業、これら2社は電子材料に強く、原燃料要因はトクヤマほど大きくありません。
これら2社のポイントは大きく2つあり、1つ目は、為替影響。
例えば日東電工の利益増減をみてみると、為替影響により113億円の増益となっています。
日東電工も東京応化も海外売上比率が8割を超えるグローバル企業なため、円換算利益が増える円安は追い風なわけですね。
2つ目のポイントが生成AI。
生成AIの台頭からデータセンター向けの高容量HDD需要が急増、日東電工が手掛ける回路材料も好調だったようです。
この回路材料、昨年度はHDD需要の停滞から足を引っ張っていたものの、
今年度は生成AI需要から利益を牽引しており、今回の上方修正にもつながったとみられます。
また東京応化工業は、フォトレジスト専業メーカーなのですが、
こちらも生成AIに欠かせないHMBメモリー向けに、各フォトレジストの採用が増えているとみられます。
このようにAIが普及拡大期を迎えるにあたって、AI関連需要の強さが垣間見え、
こうした先端領域を得意とする化学メーカーの業績も好調と言えます。
今回紹介した3社は決算発表後に株価をぶち上げており、特に日東電工はPTSで10%増となるなど、
今後の化学メーカーの決算発表にも期待が募りますね。
信越化学工業の決算
では、みんな大好き信越化学の決算はどうか。
化学業界に身を置くものとしては、シリコーンか何かを売ってる会社といった印象ですが、
もはや化学業界での認知度以上に、投資家界隈で有名な企業ですね。
信越化学は、会社の価値を表す時価総額が10兆円を超えと、国内の化学業界では断トツの首位、
どうやら世界の化学メーカーでみても4位にランクインしているようです。
では早速、信越化学の第一四半期決算から見てみましょう。
売上高は5979億円、営業利益は1910億円、営業利益率にしてなんと31.8%、
稼ぐ効率を表すROIC19.1%、ROE13.2%、ROA16.8%と、
くだけて言えば、だれがどう見てもめっちゃ稼いでますやん。という決算内容です。
この第1四半期の業績を前年同期と比較するとおおむね同じくらいの水準も、
前回の決算で公表した弱気な業績予想と比べると、かなり上振れる結果となりましたね。
つまり数値だけ見れば、まずまずの立ち上がりを見せたわけなのですが、
ただ今期は去年の4~6月より20円くらい円安ブーストがかかっている点は留意が必要です。
さて、では今期の信越化学はどうなのか、という話です。
今回の決算でようやく公開した通期予想は、前年比で増収増益予想、売上高2兆5000億円、本業の利益を表す営業利益は7350億円、
そしてその他もろもろの損益も含む経常利益は、過去2番目の水準となる8200億円の予想となります。
過去最高利益の23年3月期は追い風参考記録的なところもあるので、今の信越化学の地力は8000億円前後といえるのかもしれません。
これは化け物ですね。
問題なく利益成長を続けているということで、配当金は6円増配を予定、
もっと株主還元強化してくれ、という思いは胸にしまっておきますが、
配当性向は高すぎず低すぎず、最高にちょうどよい40%となります。
財務も進捗率も問題なし、今期も元気に通常運転、また次回の決算でお会いしましょう、
と締めたいものの、懸念事項もいくつかあります。
まず通期予想は増収増益ながらも、コンセンサス予想、つまりはプロのアナリストの予想は下回っていたのです。
PTSはブリブリ上げていたので、株式市場は今回の決算をポジティブにとらえていそうですが、
実際のところ信越の置かれた状況はどうなのか。
これは上振れも下振れもあり得る、ということになります。
順に解説しますが、みなさまご存じ信越化学の特徴は、シリコンウエハーと塩化ビニル樹脂の二刀流、
これら2事業で利益のほとんどを生み出しています。
ただ第1四半期をみると、塩ビが中心の生活環境基盤材料は減収減益、
対してシリコンウエハー含む電子材料事業は増収増益と、それぞれ状況が異なることが分かります。
塩ビ
まず低調であった塩ビですが、これはパイプなど建材に多く使われるため、
その需要はインフラや住宅の着工件数との相関が強い特徴があります。
ただ信越化学の主戦場である北米では、長引くインフレや高金利から住宅需要が抑制され、
また塩ビのアジア市況も、中国経済の停滞から余剰玉が流れるなど、下落していました。
塩ビはコモディティなので、こうした需給の影響も大きく受けてしまうのですが、
北米住宅市場はFRBの利下げ次第で、信越化学は秋以降に住宅需要が回復するとみているようです。
今年の夏に稼働予定だった北米の塩ビ新工場も、年末へ後ろ倒しとなっているのですが、
信越化学の塩ビ事業については、年後半の北米金利や住宅需要の動向に加えて、
新工場の稼働が吉と出るか凶と出るか、が焦点となりそうです。
シリコンウエハー
対して好調であったシリコンウエハー含む電子材料事業ですが、こちらは先端AI向け需要がけん引しているようです。
やっぱり先端AI向けかい、という話にはなるのですが、
信越化学が得意とし、先端半導体の製造に使う大口径の300ミリウエハーは堅調で、
第一四半期については上振れ、今後も徐々に上がっていく見立てをしています。
高い水準が続いた顧客の在庫も徐々に下がってきているようですので、
この辺りの改善効果がどれくらい数字に表れるかも注目点ですね。
ただ先端AI向けは堅調も、それ以外の半導体需要には注視が必要です。
つまりPC、スマホ、データサーバーといったボリュームゾーンでは、底を打ったものの戻りが弱い状況もみられ、
下期に見込まれた本格回復にも遅れが生じる可能性もあります。
回復基調にあるとはいえ、まだまだ予断を許さない状況が続きますので、信越化学の経営手腕が問われますね。
最後に
以上、化学セクターの決算速報でした。
化学セクターは全体的として回復へ向かっており、これから発表される化学メーカーの決算にも注目が集まります。
とはいえまだまだ回復の道半ばであり、足元の為替や生成AIによるブーストには留意が必要かもしれません。
特に為替はどうしようもないところがあり、海外売上比率の高い大手化学を中心に、円安の方がメリットが大きいものの、
今後さらに円高に振れた場合は、業績予想の修正も余儀なくされます。
ただ短期的な浮き沈みだけでなく、中長期での構造改革にも注目が集まり、
レゾナックは石化事業分離を着々と進めるなど、今後も大きな発表が相次ぐとみられます。
今後も情報が更新され次第、取り上げていきたいと思います。