決算解説

【25/3月期 最新版】信越化学の決算分析。無風も油断できない理由とは

いよいよ中間決算シーズンが始まりましたね。

トップバッターは恒例の信越化学。堅調も、懸念材料も見えてきました。

後続の化学メーカーもアップを始めており、今回の決算の注目ポイントも解説していきます。

信越化学の決算速報

では早速、信越化学の決算を解説していきます。

結論から言えば、申し分ないんだけど逆にパッとしない、出木杉君みたいな決算でした。

信越化学は投資系YouTuberが総出でこすっているため、もはや知らない方はいないと思います。

弊チャンネルもご多分に漏れず取り上げるわけですが、私は化学業界の大谷翔平と称しており、

塩化ビニル樹脂とシリコンウエハーの二刀流で、規模と利益を両立した化学セクターの怪物企業、

時価総額では世界の化学メーカーでもトップグループです。

ちなみに来週の幕張メッセの展示会にも出展予定なので、お時間のある方はぜひお立ち寄りください。

出所:高機能素材Week

話を戻して、決算の内容を解説したいと思います。

4〜9月期の売上高は1兆2664億円、営業利益は4057億円、営業利益率は32%、

ROIC、ROE、ROAいずれも優良と言われる水準を振り切っており、規格外たる所以を感じさせる内容です。

出所:信越化学工業 決算短信
2025年3月期 第2四半期決算短信

前年同期比でも6%前後の増収増益で着地、進捗率は営業利益で55%と、

信越化学は毎度毎度、判に押したように目標通りの数字をたたき出してきますね。

もう少し中身を見てみると、塩ビがメインの生活環境基盤材料は前年比8%の減益も、

シリコンウエハー含む電子材料が前年比20%増と上振れており、苦戦する塩ビを電子材料が補う形でした。

この塩ビが苦戦する構図と言うのは、ここ1年くらい変わっていないものの、

AI向けシリコンウエハーの需要や三益半導体の完全子会社化による効果で、電子材料が想像より好調でしたね。

つまりは不安定な情勢をものともしない、圧倒的な力強さを見せつけてくれた、ということです。

今後についても先行きは不透明ながら、堅調に利益を積み上げ、

目標通り過去二番目の利益水準をたたき出してくれることでしょう。

出所:信越化学工業 決算短信
2025年3月期 第2四半期決算短信

以上、信越化学の決算解説でした。

では、また次回の動画でお会いしましょう。ご安全に!

で、終わりしても良いのですが、内容が薄味なので、今回は少し辛めのコメントも添えたいと思います。

というのも今回の決算は、期待どおりも想像は超えてこない、という評価があるのも事実なのです。

例えば、今年に入ってからの信越化学の株価チャートはよこよこで冴えないところもあり、

信越化学株価チャート
出所:株探

実は2024年度に入ってからであれば、住友化学の方がパフォーマンスが良かったりもします。

信越化学株価チャート
出所:株探

これは出木杉君よりも、のび太君の方が見直しが入りやすいという話ではあるものの、

信越ホルダーからすると、今回の決算で停滞を振り払う一発が欲しかったのも事実でしょう。

つまり今回の決算を大谷翔平で表せば、

ホームランを期待していたのに二塁打だったような、賞賛と焦燥感が入り混じる状況でした。

ただ、言ってしまえばハードルが上がりすぎているだけで実態は特に問題なし、

そもそも株価についても、昨今の相場を考えると仕方のない面もあるかと思います。

ということで、むしろここからがポイントで、これからの信越化学はどうなのか。

個人的な意見としては、まだ過度に期待する状況ではなく、慎重にみておいた方が良いかなと思います。

というのも、信越化学の主力である、塩ビとシリコンウエハーの回復は遅れている印象なのです。

まず苦戦が続く塩ビですが、そもそもの原因はアジアを中心とした値崩れです。

塩ビは建材に多く用いられるため、住宅需要と強い相関があることが知られています。

ところが昨年ごろから、中国の不動産不況で塩ビの需給が緩み、

アジア域内には行き場を失った中国からの余剰玉が蔓延、

豊作だとキャベツ価格が安くなるように、塩ビもアジア市況が低迷しているのです。

信越化学の主戦場であるアメリカでも、金利高で住宅需要が抑制されており、

こうした米中を中心とする建築関連需要の不調により、塩ビ事業は苦戦が続いているわけです。

生活環境基盤材料
出所:信越化学工業 決算短信
2025年3月期 第2四半期決算短信

で、今後の見通しについてですが、まずアジア地域での値崩れについては、

中国の不動産不況が根本的な原因であることから、回復には時間がかかるのではないかと考えられます。

なので、当面はアメリカの塩ビ需要がカギを握ると考えられますが、今は季節要因もあり、力強さに欠ける状況です。

出所:みんかぶ

ただ幸いなことにアメリカでは利下げにより、住宅需要が顕在化しやすい方向にあります。

今後は米国での利下げペースや、住宅着工件数がどこまで回復するかが焦点となりそうです。

もう一つの主力事業である電子材料、シリコンウエハーも懸念はあります。

というのも、今はAI関連需要こそ強いものの、

半導体のボリュームのあるスマホやパソコン、データセンターや車載向けは弱含んでいます。

それでも信越化学が堅調なのは、得意とする最先端半導体向け300ミリウエハーの長期契約率が高いため。

長期契約は市況に左右されにくく、需給が軟化する局面において高い下方硬直性が発揮されるのです。

ただ顧客在庫も依然として高い水準とみられ、信越化学も数量を増やせないため、これ以上利益率を上げるのは難しい状況です。

エレクトロニクス市場の回復も遅れに遅れているので、シリコンウエハーが勢いづくのはまだ先かという印象です。

ゆえに、信越化学が期待を越えてくるのはもう少し先かと思います。

とはいえ、本来ボラティリティの大きな塩ビとシリコンウエハーで、

これほど高い水準で業績を安定させているのはさすがの一言。

信越化学は、マーケットを見定め価格水準の維持に努め、

とにかく売り切ることに専念することで、収益悪化を最小限にとどめているのです。

のび太君のように上振れ下振れが少ない分、エンターテイメントには欠けるのかもしれませんが、

先行き不透明な情勢においても、悪い方向に振れないと思えるのが、信越化学の強さですね。

今後も潤沢なキャッシュを元手に、投資から着実に地力を増していく方向性かと思われますので、

もう少し相場が落ち着いて、米国の状況などがはっきりしてくれば、評価しやすくなりそうです。

動き出す大手化学

最後に、中間決算における化学セクターの注目企業を押さえておきましょう。

ポイントから言えば構造改革、もしくはAI関連でしょうか。

まず現状のおさらいですが、

化学業界は販売数量の回復や石化の環境改善などから、収益も改善方向にあり、

実際に1Q決算は予想を超えて好調、今期は落ち込んだ前期から増益となる見通しです。

一方で株価チャートは、割にぱっとしません。

株探 化学の株価チャート

理由を平たく言えば、不透明感が強いから。

急激に変動する為替、混沌とする大統領選挙戦、中東の紛争激化、

中国経済の停滞に経済的な分断などがリスク要因として挙げられ、

世界を取り巻く情勢は不透明感を増しています。

パワプロ君でいえば、調子は良いけど全身に爆弾がついているようなもの。

投資家としても回復の兆しこそ見えているものの、とにかく相場がいやらしすぎるので、

景気敏感銘柄に数えられる化学セクターは手を出しがたい状況と言えます。

ゆえに、ポイントは構造改革。

外部環境は不透明感が強いながらも、内部努力により収益改善の成果を上げた企業は評価が高まります。

これはパワプロ君でいえば、ダイジョーブ博士に成功するようなイメージで、

実際に住友化学は構造改革で打てる手を打ってきたことで、見直しが進んできました。

メンバーシップの方で、化学メーカーはザリガニのようなものという話もしましたが、

企業の成長には、新陳代謝が欠かせないわけですね。

ほかにも、成長三領域のポテンシャルに定評のある三井化学、

石化に止まらず、あらゆる事業製品で組み換えを進める旭化成、

新社長体制のもと、改革に期待される三菱ケミカルグループのほか、

今は石化再編に先駆けて手を打つことが、株式市場では前向きに評価される局面かと思いますので、

今回の決算では大手化学に注目が集まりますね。

以前の動画でも解説した通り、今期は化学業界のターニングポイントになる可能性があり、

潮目がグイっと変わる、その予兆を機敏に察知していきましょう。

また、もう一つの注目はAI関連。

後工程大手のレゾナックや、フォトレジストに強い東京応化、感光材トップの東洋合成、

ほかにも超純過酸化水素で首位の三菱ガス化学、反射防止膜といったニッチ分野に強い日産化学など、

独自の材料に強みを持つ企業には注目していきたいところです。

不安定な情勢が続きますので、みなさまご安全に。

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今回は総合化学メーカーと呼ばれる三菱ケミカルG、住友化学、三井化学、加えて旭化成、東ソーの5社を解説します。 事業内容も比較していますので、就活、転職、株式投資のご参考に良ければ最後までご覧ください。

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Youtubeのコミュニティに寄せられたコメントをテーマに取り上げ、化学業界を見通してみる企画です。

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