業界の動向

2025年の化学業界を読み解く:将来性と注意点

今回は、2025年の化学業界における注目点と注意点を解説していきます。

ここ数年、化学メーカーは激変する外部環境の中で、生き残りに注力してきました。

そして2025年は、大手化学メーカーの成長性を見極める年となります。

今年はどんな変化が訪れるのか、注目される技術や市場動向について、視聴者の皆様からのコメントも交えながらお話ししていきます。

それではどうぞ。

注目点

まず注目点は、新中期経営計画。

2025年は、大手化学メーカーが新中計を打ち出す年。

つまり中長期的な視点で進むべき方向を模索する年となります。

特に注目したいのは、現状厳しいの事業環境を受けて、どのように軌道修正するのか。

やはり現中計が策定された2022年と比べると、今の事業環境はベリーハード。

中国の不動産不況に、基礎化学品のオーバーキャパシティ問題、さらにAI除くエレクトロニクス市場の停滞に、脱炭素へのプレッシャーがさらに重くのしかかります。

どうぶつの森をプレイしてたのに、気づいたらAPEXに切り替わっていた、くらいゲームが変わってきているのです。

なので各社がこの環境変化にどう対応し、経営方針を軌道修正していくのかが見どころです。

特に、石化再編や構造改革が前倒しで進められているので、資本効率の改善が期待されます。

さらに、新中計では 株主還元方針 にも注目です。

化学メーカーのPBR(株価純資産倍率)は低位安定みたいなところがあり。

これをテコ入れする新たな施策が期待されます。

各社の中計は都度解説していきますので、本年もよろしくお願いします。

注意点

じゃあ注意点はなんなの、といえば、先行きの不透明感。

2025年はアメリカの一番偉い人や、日米の中央銀行がどれだけ本気を出してくるのか、

それを受けた世界経済の成長性、国内も賃上げや個人消費の動向、さらに為替リスクなど、まだまだ手探りで不透明感が強い状況です。

こうも流れが読みにくいと、化学メーカーも強気な目標を出しにくくなります。

実際に昨年の中間決算では、慎重な見通しが目立ち、2025年度の通期予想も保守的な数字になる可能性があります。

この辺りは市場の期待と乖離が生じる懸念があり、注意しておきましょう。

ただ株価に関していえば、悪材料が出尽くせば期待で上がると考えられますので、

こうした潮目の変化をとらえていきたいですね。

視聴者参加型企画

続いては、2025年の化学業界の注目ポイントを、皆様と一緒にみていく視聴者参加型企画です。

全体アンケートの結果では、石化再編と半導体材料がほぼ同率で拮抗。

やはり今年も、この2大テーマは業界を左右する重要なトピックと言えそうです。

さらに個別のコメントからもエネルギー、自動車関連、先端技術の研究など、多様な意見が寄せられました。

ここからは、頂いたコメントをピックアップして深堀していきます。

ペロブスカイト太陽電池関連

政府による実用化の後押しを背景に、昨年末から注目度が急上昇しているペロブスカイト太陽電池。

次世代太陽電池の代表選手として、積水化学工業はフィルム型、

パナソニックはガラス型、カネカはタンデム型と、それぞれ独自の強みを活かした開発を進めています。

従来のシリコン型太陽電池に迫る変換効率に加え、薄くて軽くて柔軟と言う特徴を持つため、
外壁や耐荷重の少ない屋根、湾曲した柱にも設置可能となります

なかでも積水化学のフィルム型は、他国に対して優位性をもち、政府の支援を受けて量産化を目指しています。

この期待感から積水化学の株価は上場来高値を更新するほど評価されました。

またペロブスカイト太陽電池の素材サプライヤーも注目を浴びています。

例えば、ヨウ素サプライヤーの伊勢化学は、2024年でもっともパフォーマンスが良かった化学メーカーの一つです。

ただ株価の高さがネックで、手が出ませんね。

ペロブスカイト太陽電池関連銘柄は引き続き注目で、

さらに政府支援の下で注目される技術はいくつかあります。

水素関連やCCUS関連、電池関連にケミカルリサイクルなどなど、

この辺りで優位性を持つ企業も注目でしょうか。

自動車回り関連

コメントでも触れられているように、自動車業界は化学メーカーにとって大口の需要家です。

例えばバンパーやインパネ、自動車部品に用いられる各種プラスチック、

タイヤやベルトに塗料、接着剤など様々な化学製品が使用されています。

ここ数年は電気自動車の市場が急拡大したことで、電池材料の需要も旺盛でしたね。

車一台当たり、重量比で10パーセント、体積比で50パーセント程度のプラスチックが使用されています。

なので化学業界にいると、自動車メーカーには頭が上がらないことも多いです。

が、足元では自動車材料の雲行きはよろしくありません。

日系自動車メーカーでは生産台数が落ち込み、自動車材料も需要減退が想定され、

電池材料も中国勢の攻勢に加え、EV市場も成長鈍化するなど苦しい状況です。

さらにアメリカのあの人は、メキシコにも関税をかけるなど、短期的な先行きも不透明です。

それでも中長期的には、自動車における化学製品の存在感は高まると期待されます。

というのも、カーボンニュートラルから自動車の軽量化は根強いニーズで、

EV市場が再び拡大するようであれば、電池材料の高度化需要も高まるとみられます。

自動車向け樹脂に強みをもつ三井化学、導電助剤での成長を目指すartience、

硫化物系全固体電池の電解質でトヨタと協業する出光興産など、各社の戦略には注目です。

なお日産とホンダの経営統合について、その是非は置いておくとして、

基本的に川下のユーザーが強化されれば、化学メーカーにとってもチャンスになり得ます。

また旭化成はホンダと、カナダでセパレーターの合弁会社を新設する予定で、

日産との統合により、セパレーターの需要増加につながる可能性があります。

石化再編と中国韓国

国内石化業界の再編については、これまで解説してきた通りですが、

周辺国である韓国や中国の動向も押さえておきましょう。

まず台風の目である中国はどうか。

マクロ経済は底打ちの兆しがみえたものの、不動産不況は長期化の様相を呈しています。

このような状況下、新増設が相次ぐ基礎化学品市況は停滞を脱することができず、

2024年上期、中国の石油・化学系企業の赤字合計で約5兆円に達します。

あほみたいな数字をたたき出していますが、本当にすごいのはこれからで、

基礎化学品については、依然として設備投資が旺盛、

つまり根本的な課題である過剰供給には拍車がかかる気配があります。

中国と言うのは、先に箱を作ってから売り先を考えるようなところがあり、

投資判断も撤退も早いのですが、崩壊した需給バランスの正常化には時間がかかりそうです。

その結果、中国内で飽和した化学品は輸出され、安価な中国品がアジアに出回り

そのあおりを受けているのが日本や韓国というわけですね。

で、韓国の石化については、日本以上に厳しい状況です。

というのは、基礎化学品の輸出割合は日本が4割に対して、韓国はなんと6割、

つまり韓国石化メーカーは輸出前提で設備を構えており、中国での能力過剰は致命的なのです。

石油化学産業のトランジション推進に向けて

したがって韓国の石化メーカーも赤字運転、今後も需給の改善は見込めず、

日本と同様に、再編による能力削減は不可欠なのです。

ただ財閥経済の韓国では、ロッテケミカルやLGケミカルといった化学メーカーも財閥意識が強く、

大手企業の協業が進みにくく、再編は難航しています。

政府も見かねたのか、昨年末に石化事業の構造改革に3兆ウォンの支援が決定しています。

日本でも政府の支援が欲しいところですね。

なお日本・中国・韓国に共通して言えるのはスペシャリティシフト。

今後はこの分野も、競争が激化していくかもしれませんね。

個別のトピックス

化学メーカーのビジネスは非常に裾野が広く、研究開発の対象は実に多岐にわたります。

平たく言えば、社会的要請が高まる脱炭素・エネルギー関連、

市場拡大が期待されるエレクトロニクス関連、ヘルスケア関連に分類できるかと思います。

で、その中にはさらに細分化されたテーマが広がっており、

資源循環、ケミカルリサイクル、脱プラ、バイオマスプラ、生分解プラ、

CCUS、DAC、バイオリファイナリー、

次世代原子炉、核融合、次世代型太陽電池、洋上風力発電

水素エネルギー、水素キャリア、燃料電池、水電解装置、水素アンモニア専焼、

再生医療、医療用ロボット、ウェアラブルデバイス

AI半導体、パッケージング技術、5G、次世代電池、仮想現実、

CASE、自動運転、EV、バッテリーリサイクル、MaaS、空飛ぶ車、

DX、MI、スマートファクトリー、デジタルツイン、量子コンピューター、

M&A、石化再編撤退、スマート物流、スマート農業、インフラ老朽化、スマート養殖、Meattech

こうした広がりを持つ中で、さらに個別に素材やプロセスの研究がなされているわけです。

今回はコメント頂いた内容を二つピックアップし、深掘りしていきましょう。

ケミカルリサイクル

例えば、プラスチックを再び石油に戻すような技術で、

三菱ケミカルGやENEOSらの施設が立ち上がる頃かと思います。

言ってしまえばごみから石油が採れるわけで、日本が産油国になるような夢の技術です。

三菱ケミカルが掲げるグリーンケミカルの土台の一つになるとみられますが、

コメントでも指摘のあったように、技術的には可能でも、経済的に成立するのかがポイントです。

量子コンピューター

量子コンピューターは、従来のコンピューターとは全く異なる原理で、圧倒的な計算力を持ちます。

アンサーストーカーを会得した高峰清麻呂くらい次元が違います。

化学や製薬の分野では、分子シミュレーションなど、研究開発の効率化が期待されています。

現時点では研究段階だったと思いますが、三菱ケミカルグループはその活用研究を進めていますね。

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Youtubeのコミュニティに寄せられたコメントをテーマに取り上げ、化学業界を見通してみる企画です。

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