コラム、その他

海洋プラスチック問題 マイクロプラスチックによるベクター効果とは

 世界的な経済成長や人口増加により、廃棄物量は年々増加しており、海へ流出するプラスチック廃棄物が国際的な問題となっています。

 海に流出するプラスチックごみの量は世界中で年間800万トンという試算があり、2050年には海洋プラスチックごみの重量が魚の重量を超えるともされています。

 この海洋プラスチック問題を一つの契機として、現在の大量生産・大量消費型経済の再構築が加速しているのです

 本記事では海洋プラスチック問題について、その課題と求められる技術革新について考察します。

1.国際的な課題となった海洋プラスチック問題

 ウミガメがストローを詰まらせるショッキングな映像を一度は見たことがあるのではないでしょうか。

 この画像は不適切に処理されたプラスチックが海の生物や環境に被害を及ぼす、海洋プラスチック問題として国際的に着目されるきっかけとなりました。

 2019年にはG20大阪サミットにおいて、2050年までに海洋プラスチックによる追加的な汚染をゼロにすること目指す"大阪ブルーオーシャンビジョン"が共有されています。

 産業界においても、官民連携して「クリーンオーシャンマテリアルアライアンス(CLOMA)」が設立されており、
プラスチックサプライチェーンの川上から川下に至るまで業界の枠組みを超えて海洋プラスチック廃棄物の削減に取り組んでいます。

 軽くて丈夫であり、さらに安価で加工しやすいため大量生産されているプラスチック製品ですが、
プラスチック廃棄物の回収・削減に向けて、過剰な使用の抑制や循環性の向上、素材の代替等について見直す機運が高まっているのです。

SDGsでも海洋プラスチック問題は解決すべき課題として取り上げられています。

2.被害を受けているのは、ウミガメだけではない 〜ベクター効果とは〜

 では具体的に、海洋プラスチック問題による影響はどのようなものが挙げられるのでしょうか。

 一つは漂着するプラスチックゴミによる景観への悪影響、二つ目は釣り糸が絡まったり、プラスチックを摂取することによる海洋生物への影響、そして微細化したマイクロプラスチックや溶出した有害物質による人の健康への影響です。

 この中でも、近年取り上げられているマイクロプラスチック問題について解説したいと思います。

 環境中に捨てられたプラスチックごみは、川から海へと至り、波の力や紫外線の影響などで細かく砕けていきます。そのうち5ミリ以下の大きさになったものはマイクロプラスチックと呼ばれます

 このマイクロプラスチックの特徴は、有害物質が吸着しやすい点と、生物濃縮が起こる可能性がある点です。

 海洋中に存在する有害な化学物質はプラスチックとの親和性が高いことが多く、マイクロプラスチックが有害物質を吸着しキャリアとして働くベクター効果が発現します。

 このマイクロプラスチックを魚や小さな生物が経口摂取することで、マイクロプラスチックとともに有害物質も蓄積することになります。

 さらに食物連鎖により魚や海鳥にとり込まれてるなかでマイクロプラスチックや有害物質の濃縮が起こるのですが、こうした食物連鎖を通じて私たちの体内にも有害物質が蓄積しているのではないかと懸念されているのです

マイクロプラスチックによる有害物質の濃縮

 現在マイクロプラスチックの発生過程や人体への影響について研究が進められていますが、マイクロプラスチックは生じると回収できないので、プラスチックゴミを出さないようにすることが重要です。

 他にもシャンプーや化粧品、歯磨き粉に含まれているマイクロプラスチックビーズも同様に海洋プラスチック問題につながるとして、現在規制や代替が進んでいます。

海洋プラスチック問題は人も含め、様々な問題の引き金となっているのです。

3.生分解性プラスチックの開発と課題

 2020 年のレジ袋有料化やスタバのプラストロー廃止など、脱プラスチックに向けた取り組みは身近なところでもみられるようになりました。

 中でも既存プラスチックから転換していくべき新素材として、生分解性プラスチックが着目されています。

 生分解性プラスチックは海洋やコンポスト中の微生物により水と二酸化炭素に分解されるプラスチックのことで、ポリ乳酸などが代表例です。

 海洋中に流出したとしても、微生物により分解されるため環境中に蓄積することがない点が魅力となります。

 しかし分解性であるため劣化が早い点や、加工性が高くない点などが要因で国内のプラスチック生産量に占める生分解性プラスチックの割合は現状数%程度です。

 またプラスチック製品は複合素材であることも多いのですが、製品に生分解性を持たせるためには生分解性樹脂のみで構成する必要があります。しかし生分解性樹脂のみで性能を出すことが難しく、添加剤なども生分解性を付与する必要があるなど、実用化に向けた課題は多くあります。

 近年は三菱ケミカルやカネカが新たな生分解性プラスチックを開発しており、農具や釣り具などの用途探索が進められています。

 漁業ゴミは海洋プラに占める割合が大きいとも言われていますので、生分解性プラの導入が期待されます。

 一方われわれ消費者の生活に関していえば、そもそもプラスチックゴミを出さないようにすることが最優先ですので、プラスチックのリサイクルや紙といった他素材への代替など循環型社会の構築が進むのではないかと予想されます。

プラスチックに依存しない社会が、海洋プラスチック問題からも求められています。

 

 

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