決算解説

【2025年最新版】大手総合化学メーカーの決算まとめ。将来性は?

こんにちは、化学業界を分かりやすく解説するごりおです。

今回は、大手総合化学5社(旭化成、三菱ケミカルG、住友化学、三井化学、東ソー)の最新決算を解説します。

好調であった2024年度に対して、2025年度は向かい風が予想されます。
各社はどのように難局を乗り越えるのか、業績の背景にある企業戦略と経営判断について解説します。

そもそも大手総合化学メーカーとは

総合化学メーカーにはさまざまな定義がありますが、今回は旭化成、三菱ケミカルG、住友化学、三井化学、東ソーの5社に焦点を当てます。

これら総合化学メーカーは川上の原料から川中の誘導品まで幅広く手がけている点が特徴です。ボリューム勝負の基礎化学品を手がけることから、規模の大きな企業も多くなっていますね。

2024年度の業績は?実は堅調

まず、大手総合化学5社の2025年3月期(2024年度)決算を解説します。

各社の売上・利益を以下の表にまとめました。
2024年度は、なんと全社が増収増益を達成しています
住友化学も黒字転換で、期初予想より400億円ほど上振れました。

2025年3月期の業績
出所:2025年3月期決算短信より
国際会計基準の三菱ケミカルG , 三井化学, 住友化学はコア営業利益

各社の業績を牽引したのは、外部要因と内部要因の両方。

構造改革による自助努力といった内部要因に加えて、生成AIやディスプレイ関連が好調、さらに為替の円安や在庫評価益といった外部要因も追い風となりました。
中でも、住宅事業が好調であった旭化成は過去最高益を更新、一方で三井化学はプラントトラブルによる損失でやや苦戦するなど、企業ごと明暗はみられました。

とはいえ、全体としては、2024年度は市場に濃淡はありながらも、回復局面に入った年といえそうです。

好調も株価は軟調

業績が回復してきたなら、株価も上向くのでは、と思いきや、そうではありませんでした。
というのも、2024年度の株価推移をみると、ほぼ横ばい
日経平均をアウトパフォームしたのは、住友化学と東ソーのみ2社のみでした。

大手総合化学5社の株価チャート比較
出所:株探

最高益を更新した旭化成など、どうして株価が反応しないのか。

明確な理由は断定できないものの、市場は化学メーカーの先行きに慎重になっているとみられます。
というのも、昨今の不透明な事業環境に加えて、2025年度は為替の円高やナフサ安も見込まれています。

これは大手総合化学にとっては、減益の確定演出みたいなもの。
海物語でいえば、悪い意味での金魚群ですね。
つまりこれまでの追い風が一変、今期は向かい風が予想され、市場の慎重姿勢につながっていると考えられます。

2025年度の見通しは、実は悪くない

ただ、実際のところ、総悲観といった印象ではありません。

大手総合化学の2025年度の見通しでは、5社中4社が減収を見込む一方、営業利益項目については、全社が増益を掲げているのです。

2026年3月期 業績予想
出所:2025年3月期決算短信より 
国際会計基準の三菱ケミカルG , 三井化学, 住友化学はコア営業利益

旭化成は引き続き最高益を更新。
三菱ケミカルグループは、田辺三菱製薬の譲渡益が加わることで、純利益項目が3.2倍まで跳ね上がる見通しです。

なので2025年度は、成長率こそ鈍化するものの、引き続き増益が継続する見通しとなっています。

増益予想の背景は

では各社、各社が増益を掲げる理由は何か。
まず為替やナフサ価格、またトランプ関税など、各社が卒栄する、今期の事業環境を整理したものがこちらです。

2026年3月期 業績予想
出所:2025年3月期決算短信より 
国際会計基準の三菱ケミカルG , 三井化学, 住友化学はコア営業利益

為替とナフサ価格

為替については各社140円程度で、円高に振れる見立てです。
輸出や海外売上の多い総合化学らにとっては、相応の減益影響が出てきます。

続いて国産ナフサ価格も、60000円台と、現在の70000円台から下落する見通しです。
ナフサ価格の下落局面では、在庫評価損が発生しやすくなります。

トランプ関税

さらに難しいのが、トランプ関税。
各社直接的な影響は軽微としつつも、三菱ケミカルGはMMAの需要減などを織り込み100億円程度、住友化学はディスプレイ需要の前倒し反動などで-100億円、三井化学は米国への直接輸出分80億円の営業減益を織り込んでいます。

また旭化成は、在庫や価格転嫁で対応するため、関税の直接影響は抑制するとしながら、原油価格の下落リスクを想定し、ナフサ価格を55000円としています。

以上をまとめると、昨年は増益要因であった為替やナフサ価格について、今期は減益要因として織り込まれ、トランプ関税のリスクがくすぶる状況です。

増益を牽引するのは

このように、今期は決して簡単な事業環境ではないものの、各社を下支えするのは、これまでの構造改革の成果です。

例えば三菱ケミカルグループは、外部要因から157億円の営業減益を想定するものの、価格政策や資産最適化から、560億円の増益を掲げています。

三菱ケミカルグループ
2026年3月期コア営業利益の増減分析
出所:三菱ケミカルグループ 決算資料

また旭化成も、外部要因による減益分を売上・収益性向上効果で補うとしていますね。

画像
旭化成2026年3月期営業利益の増減分析
出所:旭化成 決算資料

ほか大手化学についても、外部要因の悪化分を、構造改革や高付加価値品の利益成長で巻き返す見通しなのです。
各社はこれまでも構造改革を進めてきたことから、利益の質や持続性が改善しているわけですね。

還元にも前向き

さらに嬉しいことに、株主還元にも前向きな姿勢がみられます。

例えば旭化成や住友化学は増配を決定。
三菱ケミカルグループは、田辺三菱製薬の売却から得られた資金を元手に500億円の自社株買いを公表しています。

画像
三菱ケミカルグループ 自社株買いに関して
出所:三菱ケミカルグループ 決算資料

各社のこれまでの企業努力が、増益や還元として顕在化してくれば、投資家の評価も変わってくると思います。
まだまだ構造改革の半ばでさらなる企業価値向上に期待したいところですね。

まとめ

今回の決算分析から学べるポイントは以下の3つです。

  1. 2024年度は市場に濃淡がありながらも、全体では増収増益だった
  2. 現在の株価は、外部環境の変化による市場心理が影響
  3. 2025年度は、自助努力により増益をキープ

このように企業が中長期で安定的に収益を確保するためには、外部環境の変化に左右されにくい収益構造の構築が重要です。
また株式市場においては、株主還元策といった企業価値向上策も欠かせません。

各企業がどのようにこれらを実践していくか、今後も注目していきましょう。

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今回は総合化学メーカーと呼ばれる三菱ケミカルG、住友化学、三井化学、加えて旭化成、東ソーの5社を解説します。 事業内容も比較していますので、就活、転職、株式投資のご参考に良ければ最後までご覧ください。

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Youtubeのコミュニティに寄せられたコメントをテーマに取り上げ、化学業界を見通してみる企画です。

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