印刷インキや顔料、高分子材料などを手掛けるDICですが、2021年6月にBASFの顔料事業買収を完了させています。
これにより欧米市場での事業展開が拡大し、全社での売上も9000億円が射程圏内のようです。
DICの掲げる2025年に売上高1兆円、営業利益1000億円も現実味が増しています
1兆円企業なるか、BASF顔料事業買収の意図とDICの今後について考察しました。
1.DICの事業について
DIC、化学業界の方なら一度はその名前を耳にしたことがあると思います。
最近は吉岡里帆を起用した企業CMが公開されており、お茶の間でも地名度が増しているのではないでしょうか。
DICは印刷インキや顔料、合成樹脂などを主力製品とする川中化学メーカーであり、2008年から大日本インキ化学工業株式会社より社名を変更して今のDICとなっています。
DICの売上をみると印刷インキを手掛けるパッケージング&グラフィックスが半数を占め、残りの半数は顔料や液晶材料などが該当するカラー&ディスプレイ、合成樹脂を中心とするファンクショナルプロダクツとなっています。
祖業である印刷インキを中心とし、関連材料である顔料や合成樹脂をベースに事業を転換していることがうかがえ、バランスの良い収益体制となっていますね。
DICの印刷インキは"世界"首位です。
2.BASFの顔料事業を買収、その狙いは?
そんなDICですが、1300億円近くを投じBASFの顔料事業を買収しています。どういった狙いがあったのでしょうか。
もともとDICは2019〜2021年の中期経営計画内で機能性顔料の拡大を目標の一つに掲げており、今回の買収はその目標に基づいたものと推測されます。
DICはボリュームゾーンである印刷インキやプラスチック向け有機顔料に強みを持っていますが、機能性顔料といった高付加価値製品のラインナップが欠けていたため、その拡充を模索していたのです。
BASF顔料事業は高級顔料や化粧品用といった特殊無機顔料に強みを持っており、DICの顔料事業との補完性が極めて高いものでした。
また地理的な補完性も高く、欧州でシェアの高いBASF顔料事業部を統合することで、SC (サプライチェーン)の合理化を推進することができます。
今回の買収でDIC顔料事業部の売上は2000億円台に達する見通して、セグメントのバランスもより安定化します。
顔料事業単体はもちろん、DIC全社的にも事業体制の安定化に繋がります。
3.製品ポートフォリオの転換も
DICは製品の質的転換も掲げています。
これまで印刷インキ関係で売上を伸ばしてきたDICですが、原料事情をはじめとするマクロ環境に弱い事業体質と成長性の限界がみえてきたのです。
DICのさらなる成長には、高付加価値製品の拡充と用途拡大による製品ポートフォリオの質的転換が急務でした。
今回買収を行なったBASF顔料事業部は自動車向け材料を得意としており、自動運転の実用化に対応する開発テーマも存在しました。
DICはこれら先端用途向けを有力な技術テーマと位置づけ、機能性材料の市場投入を急ぐねらいがあったと思われます。
他にもバイオ関係など、新規事業の立ち上げも進めています。