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【爆発】医薬から電子材料まで テトラゾールの反応性

 テトラゾールはCH2N4で表される五員環の複素環式芳香族化合物です。

 熱や衝撃により爆発する危険物(自己反応性物質)ですが、その特殊な反応性により電子材料分野から医薬品分野まで幅広く使用されています。

 今回はそんなテトラゾールやその誘導体の特性・用途について解説したいと思います。

1.テトラゾールの特性と合成

 テトラゾールは図で示すような五員環構造を有しており、構成元素のほとんどが窒素原子である点が特徴的です。
 同時にヒュッケル則を満たしており、芳香族化合物としての性質を有しています。

テトラゾールの
構造

 一番の特性はカルボン酸と同程度の酸性を示すことで、窒素原子に結合した水素原子のpKa=8.2(DMSO)となっています。
 後述しますがこのカルボン酸と同程度の酸性を示す点から、医薬用途で用いられています。

 テトラゾール誘導体はニトリルとアジ化化合物誘導体の反応で得られ、東洋紡はエアバック用ガス発生剤として生産していたアジ化ナトリウムから、テトラゾール誘導体の開発も手がけています。

テトラゾールは25gで24,600円(TCI)であり、試薬としてはやや高価ですね。

2.テトラゾールの用途

医薬品の部分構造

 医薬分野でテトラゾール類は、カルボン酸の等価体として用いられています。先ほども述べたようにpKaがカルボン酸とほぼ同等でありながら、テトラゾールの方が脂溶性が高いため、同じく脂溶性の生物細胞と相性が良いと考えられます。

 医薬品としてはセフェム系抗生物質やサルタン系血圧降下剤の構造の一部となっています。

 なおこれら医薬品は欧州を中心とするジェネリック医薬品メーカーが生産しており、テトラゾールの供給はインドや中国が中心のようです。

核酸合成の活性化剤

 核酸医薬の分野においても、ホスホロアミダイト法のカップリング反応における活性化剤として用いられています。

 

ホスホロアミダイト法による核酸合成(出典:ケムステ)

 核酸とはDNAやRNAなどを指しており、核酸を医療に用いる核酸医薬などではホスホロアミダイト法を用いて目的とする核酸を合成しています。

 図に示す通りホスホロアミダイト法では脱保護、カップリング、キャッピング、安定化の工程を繰り返すことで核酸を伸長していくのですが、このカップリング工程でテトラゾールが使われます。

 テトラゾールがホスホロアミダイトの窒素原子をプロトン化することで活性化が進行しているようです。

エッチング液の添加剤

 テトラゾールは電子材料分野ではエッチング用途などで用いられています。

 プリント基板や半導体の電子回路は、基盤に貼り付けた銅箔から不要部を取り除くエッチングにより形成されます。

 エッチング液の腐食性を利用した化学抜き打ちとも呼ばれる工程ですが、テトラゾールはエッチング液に添加剤として使用されているようです。

 銀用のエッチング液などに対して、テトラゾール誘導体を配合することで銀が過剰にエッチングされるのを防ぐ役割などもあるようです。

 なおテトラゾール自体は輸出が困難となっており、5位を置換したテトラゾール誘導体が主流になっているようです。

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