半導体受注製造世界大手のTSMC(台湾積体電路製造)が日本に半導体工場を建設すると発表しました。
2022年に着工、24年稼働を目指しており、経済安全保障や日本の産業の活性化が期待されています。
半導体関連企業はポジティブな姿勢を見せていますが、日本の化学メーカーにはどのような影響があるのでしょうか。
そもそもTSMCが何の会社なのか、日本の化学メーカーとの関係などについても解説します。
TSMCとは何の会社なのか
普段の生活で半導体を意識することは少ないと思いますが、半導体はスマートフォンや自動車を始め私たちの身の回りのあらゆるものに使用されています。
半導体はその特殊な性質から電気の流れを制御することができ、回路を設計することで電化製品の頭脳として私たちの生活を豊かなものにしているのです。
半導体はその用途に応じて設計・製造されるのですが、パソコンやスマートフォンといった電子機器の性能を決定する部品でもあるため、その高性能化にあらゆるメーカーが奮闘しており、半導体の高性能化に伴いその生産設備は大型化(高コスト化)していました。
そこで近年は設計と製造を分離して、製造に特化したメーカーが半導体を受注生産する動きが主流になりました。
Appleなどもiphoneやmac bookのメモリを生産していますが、自社工場は持たず製造はメーカーに外注しているのです。
台湾のTSMCはそんな半導体の受注製造で世界最大手であり、TSMCは日本に半導体工場を建設しようとしているのです。
半導体関係のメーカーからすると、TSMCは大口のお客さんになります。
なぜ日本に工場を立てるのか。
TSMCが日本に工場を建設するのには二つの理由があるとされており、一つは地政学リスクの回避、もう一つは世界的な半導体不足です。
まず地政学リスクについてですが、米中貿易摩擦など地政学的なリスクの高まりや、新型コロナウイルスで明らかとなったサプライチェーンの脆弱性が背景にあります。
半導体にはさまざまな生産工程があるのですが、生産設備の高コスト化や人件費の節約から、世界的な分業体制が構築されてきました。
しかし米中貿易摩擦や新型コロナウイルスの影響でその脆弱性が明らかとなり、すでに世界的な半導体不足が進行しています。
TSMC は日本に生産工場を建設することで半導体の安定生産に繋げるとともに、半導体供給能力の向上が期待されます。
また日本に建設される工場はパソコン等に使われる最先端の半導体ではなく、自動車等に使われる半導体工場です。
日本にとっても、空洞化する半導体産業の活性化が期待されます。
半導体と化学メーカー
一口に半導体といってもその生産プロセスは複雑であり、全容を把握するのは一苦労です。
しかしその生産プロセスには多くの化学製品が使われており、素材であるシリコンインゴットやリンを始め、回路形成に使うフォトマスクやフォトレジスト、半導体薬液や封止剤などさまざまです。
特に日本の化学メーカーはフォトレジストに強みを持っており、フォトレジストはJSR、東京応化、信越、住友化学、富士フィルムが世界シェアのほとんどを占めています。
今回日本に建設される工場はロジック半導体と呼ばれる自動車やイメージセンサーに用いられる半導体向けであり、日本メーカーが力を注いでいる最新の半導体用フォトレジストとは分野が異なりますが、半導体向け薬液やフォトマスク含め、さまざまな分野での需要喚起につながることが期待されます。
日本政府もTSMCへの補助金として数千億円の予算を盛り込む予定であり、日本の半導体産業の自立性向上などを見込んでいます。
かつては世界シェアの50%を占め産業のコメと言われた日本の半導体産業も、今や見る影もなくアメリカや台湾、韓国に大きく遅れをとっています。
今後日本の半導体産業をどう成長させるのか、TSMCの日本進出は一つの契機になりそうです。
TSMCの誘致は国を挙げての一大プロジェクトとなっています。