業界の動向

産業と運輸とカーボンニュートラル

 2050年脱炭素社会の実現に向けて、様々な分野でカーボンニュートラルに向けた変革が進んでいます。

 今回は二酸化炭素排出量の多い運輸と産業部門に着目し、現状の課題や求められる技術革新について解説します。

運輸、産業分野と二酸化炭素の排出

 気候変動問題に関する国際的な枠組み「パリ協定」や、持続可能な開発のための目標である「SDGs」などが採択されているように、全世界的にみても環境問題への関心が高まっています

 日本においても温室効果ガスの排出を全体としてゼロを目指す「2050年カーボンニュートラル」を宣言しており、二酸化炭素排出量の削減に向けた舵取りが進められていますね。

でも、そもそもCO2はどこで出ているの?

 二酸化炭素の排出量を部門別に見ると、エネルギー転換(発電等)や産業、運輸の占める割合が大きいことがわかります。

日本の部門別CO2排出量(JCCCA HPより)

 発電をはじめとするエネルギー転換はイメージしやすいと思いますが、火力発電所などで石化資源を燃やす際に大量にCO2を排出しており、再生可能エネルギーの拡大や次世代燃料、二酸化炭素の回収といったさまざまな取り組みが検討されていますね。
 (詳しくは下記記事で解説しています。)

 では運輸や産業部門とは具体的には何なんでしょうか。

 今回は運輸と産業ではそれぞれどのようにして二酸化炭素が排出されるのか、カーボンニュートラルの達成に向けてどう変わるのか解説します。

産業は鉄鋼がボリュームゾーン

 産業部門の内訳を見てみましょう。

産業部門のCO2排出量(2016年度)(出典:環境省)

 このように産業部門では鉄鋼が二酸化炭素排出量の半数を占めており、化学、製紙、セメントが続きます。

 特に建物や車などの資材として広く使われる鉄は私たちのインフラを支えており、発展途上国を中心に旺盛な需要があります。

 中でも鋼鉄は鉄に1%の炭素を含むもので、暴力的な安さと加工性の良さ、高い強度から幅広く使われていますね。

どうして鉄鋼はCO2を多く排出するの?

 実は鉄鋼を1t製造するためにそれ以上のCO2を排出するのですが、これは精錬の過程を見てみるとよく分かります。

 鉄は自然界では鉄鋼石の形で存在しており、鋼鉄を作るためには、まず鉄鉱石から鉄を取り出す必要があります。

 製鉄で使われる赤鉄鉱は酸化鉄(Fe2O3)であるため、純粋な鉄を取り出すためには酸素を取り除く、つまり還元することになります。

 還元剤として使われるのがコークス(C)で、コークスは高温で熱することでCOを生成します。このCOが下記のように酸化鉄(Fe2O3)と反応することで鉄が得られます。

[還元反応1] 3Fe23+CO→2Fe34+CO2 (200-800℃で)

[還元反応2] Fe34+CO→3FeO+CO2 (300-800℃で

[還元反応3] FeO+CO→Fe+CO2 (400-1000℃で)

[還元反応4] FeO+C→Fe+CO (950℃以上で)

[トータル] Fe2O3+ 3CO → 2Fe + 3CO2

 このようにコークスと酸素とともに鉄鉱石を1700℃という高熱で溶かすことで、鉄鉱石は鋼鉄に、コークスは二酸化炭素として排出されます。

 結果的に鉄1mol生成する為に二酸化炭素は1.5mol生成され、鉄よりもたくさんの二酸化炭素を排出することになるのです。

 もちろん高温にする為には化石燃料を用いますし、これ以上となります。

 このように湯水のごとくCO2を排出する鉄鋼も漏れなく脱炭素化の対象であり、コークスの代わりに水素を使う水素還元製鉄や発生した二酸化炭素を回収するCCSなどの技術開発が進められ

 国際エネルギー機関(IEA)の予測では、2070年ごろにはカーボンニュートラル達成とされています。

 しかし豊富に存在する鉄鉱石やコークスを用いた現在の製法にコストで勝る手法はないため、クリーンな製法で作られた鉄鋼にプレミアが付くことなどでコストアップを吸収できる仕組みが求められますね。

運輸とカーボンニュートラル

 運輸には自家用車やバイク、トラック、それに飛行機や船、電車も含まれており、運輸部門の温室効果ガス排出量を見てみると国内で年間2億トン排出しています。

 比率をみると日本全体の15%程度で、思ったより少なく感じるかもしれませんがアメリカでは運輸は最も温室効果ガスを排出しており、地域性のある分野でもあります。

 CO2排出量の内訳は自動車の比率が最も高く、全体の86%となっており、中でも自家用乗用車が多くを占めていることがわかります。

 乗用車は日本だけでも8000万台近くあるとされ、世帯あたりの普及率も7割と高いのですがバスや鉄道などと比べると輸送量あたりのCO2排出量が多いという特徴があります。

 世界的にみると人口増加や新興国の経済発展で自動車はさらに普及すると予想されるため、自動車と脱炭素化は切っても切り離せません。

 そもそも車が二酸化炭素を排出する原因は、いうまでもなくガゾリンを燃料としているためです。

 そのため自動車のカーボンニュートラルを達成するには、ガソリン以外で走る車が必要になります

 そこで現在注目されているのが現在注目されているのが電気自動車です。

 電気自動車では車に電池を積み、電気でモーターを回すことで駆動力を生み出しているため、ガソリンでエンジンを動かすガソリン車に対して走行時にCO2を排出しない特徴があります。

 電気自動車はすでに実用化されており、日産リーフやテスラなどは有名です。

 欧州では脱炭素の潮流を受けてEVシフトが進められており、2035年には自動車由来のCO2排出量100%削減を目指しています。これを受けて日本の自動車メーカー各社も電気自動車の開発を急いでいる状況です

 しかし電気自動車にも課題があり、バッテリーに起因する価格や走行距離です。

 電気自動車にはバッテリーとしてリチウムイオン電池が搭載されるのですが、リチウムイオン電池はコストが高い上に重く、ガソリンに比べるとエネルギー密度が低いのです。

 そのため重量があり長距離を走るトラックなどには不向きではあるものの、決まったルートを走る小型のバスなどから導入が進むのではないかと考えられます。

 このようにまだ課題は残るものの、積極的に転換が進められており、今後も製造面での技術革新や政府の補助などが待たれる分野ですね。

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Youtubeのコミュニティに寄せられたコメントをテーマに取り上げ、化学業界を見通してみる企画です。

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