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三菱ケミカルHDが石化を分離、ギルソン改革の狙いは

 2021年12月に三菱ケミカルHDは新経営計画を発表し、23年度までに石化・炭素といった事業の切り離しを発表しました。

 三菱ケミカルHD内における組織のスリム化や負債削減を目指した計画ですが、石化再編、世界的な環境意識の変化、機能性化学品へのシフトなど業界の流れを反映したものとなっています。

 売上高4兆円に迫る化学系最大手の三菱ケミカルHDに何が起きているのか、業界の背景についても解説します。
 なお同じ内容を動画でもまとめていますので、良ければこちらもご覧ください。

三菱ケミカルHDとは

 三菱ケミカルHDは東京都千代田区に本社をおく国内最大手の総合化学メーカーであり、化学系の方なら一度は名前を聞いたことがあると思います。

 三菱ケミカルHDは持ち株会社であり、下記四つの事業会社とそのグループ会社で構成されています。

・三菱ケミカル
・田辺三菱製薬
・生命科学インステイテュート
・日本酸素ホールディングス株式会社

 三菱ケミカルHDはこれら事業会社の親会社として、事業方針を掲げているのです。

三菱ケミカルHDの事業会社(出典:三菱ケミカルHD HPより)

 また三菱ケミカルHDの事業は、基礎化学品を手がける素材事業、フィルム等を扱う機能商品事業、そしてヘルスケア事業の三つのセグメントに分けられます。

・素材
・機能商品
・ヘルスケア

 その売り上げを見ると、今回取り上げられている石化や炭素を含む素材セグメントが過半数を占めているので

三菱ケミカルHDのセグメント別売り上げ高
(2021CSRレポート)

 売り上げの主力事業である石化や炭素事業がなぜ分離されることになったのでしょうか、その背景について解説します。

三菱ケミカルHDは持株会社経営により多角的に事業を拡大してきましたが、売上ではまだ素材関係が過半数を占めています。

新経営計画を発表、石化・化石事業を切り離し

 2021年4月に就任したジョンマーク・ギルソン社長は経営計画を見直し、2025年までの新経営計画を発表しました。

 ギルソン社長はこれまでもポートフォリオの変革を進めてきましたが、今回は類を見ない大変革となります。(過去のギルソン改革については下記記事に取り上げています。)

 今回の新経営計画では組織のスリム化や負債削減を目指し、三菱ケミカルHDグループの一部解体・再構築を掲げています。

 その対象となったのが石化や炭素事業。三菱ケミカルHDグループから切り離し、本体は戦略分野に集中する計画です。

 しかし三菱ケミカルHDの石化・炭素事業は6000億近く売り上げる祖業事業、なぜ石化事業が切り離されることになったのでしょうか。

 下記に2020年、三菱ケミカル素材事業の売上高をみてみます。

2020年度売上収益コア営業利益
MMA2506億円148億円
石化4302億円-15億円
炭素1774億円9億円
産業ガス8118億円851億円
三菱ケミカル素材事業の売上収益(2021年度CSRレポートより)

 石化・化石事業は売り上げこそ大きいものの、利益への貢献が少なかったのです。

 汎用品を扱う石化事業は需要の影響を受けやすいのですが、国内は人口減少による市場の縮小、海外についても米国シェールガス革命や中韓プラントの台頭により競争が激化していました。

ここ十数年で事業環境が変わってきていたんだね。

 また三菱ケミカルの石化事業はエチレンプラントによる基礎化学品やそのポリマーであるポリオレフィンを手がけ、炭素事業は鉄鋼等に使われるコークスなどを扱っています。

 したがって昨今のエネルギーコストの増加、温室効果ガス削減に多額の投資が必要なことなども逆境となっているのです。

 環境貢献を前面に打ち出した成長戦略を掲げる三菱ケミカルHDからすると、今後も大きな成長が見込めず、二酸化炭素排出量の多いこれら事業は経営方針にそぐわないと判断したのでしょう。

 なお近年の三菱ケミカルHDの技術開発動向については下記記事にまとめていますが、環境貢献を意識した路線であることが伺えます。

 一方でギルソン社長も石化・炭素事業を見放したわけではありません。

 基礎化学品を産出するエチレンプラントを有する石化事業は、経済安全保障から日本になくてはならない産業です。

 しかし海外メーカーが台頭している現在、利益率の上がらない日本のエチレンプラントは再編が必要と唱えられています。

 国際的な競争力を強めるためには横の統合が不可欠であり、ギルソン社長は業界のリーダーとしてエチレンプラントの再編を進める計画のようです。

 なお同じ素材事業でも世界シェア40%を占めるMMA(アクリルモノマー)や産業ガスについて良好な利益を重ねており、今後も投資を続けるようです。

海外ではリファイナリーの統合が進んでいますが、日本では遅れているのが現状です。

エレクトロニクスやヘルスケアといった機能性化学品へ注力

 石化・炭素を切り離すことで、売り上げは21年度見込みの3兆8000億円から3兆円に減少することになります。

 一方でコア営業利益については21年見込みの3000億円から、25年には3500~3700億円と20%近い増益を掲げています。

石化分離で売上は減っちゃうけど、どうやって利益を増やすの?

 利益成長の源泉としているのが、最重要戦略市場と位置付けるエレクトロニクスやヘルスケア&ライフサイエンス分野です。

 半導体分野の伸びは今後も続くとみられており、また将来的な電気自動車の普及、高齢化社会においてもニーズの強い医療を成長領域とみなしています。

 三菱ケミカルの有する産業ガスや電池材料、軽量化素材などをエレクトロニクス分野へ伸ばし、ヘルスケアでは田辺三菱製薬のグローバル展開や新型コロナ向けワクチンの開発を視野に入れているようです。

三菱ケミカルの機能商品や田辺三菱製薬の医薬技術に期待されます。

持株会社経営にも区切りを

 ギルソン社長は会社の構造改革にも言及しており、現在の持株会社経営を見直す考えも明らかにしています。

 そもそも三菱ケミカルHDの持株会社経営は2005年、三菱化学と三菱ウェルファーマが統合して発足した際から導入されています。

 その後も日本酵素HDなど買収、化学三社を統合するなどして、世界の競合にも劣らない巨大企業となりました。

でも、どうしてこれまでの拡大路線に見切りをつけたの?

 こうした買収や設備投資に3兆円を費やしましたが、利益成長には繋がらず、負債ばかりが増えたとされています。

 というのも、このようなM&A時には買収によって生まれるシナジーやブランド力に応じて 時価総額(市場価値)以上の買収プレミアムが上乗せされます。

 通常このプレミア分は人員削減や合理化により利益を捻出する必要がありますが、三菱ケミカルHDはそのようなことを行わなかったのです。

 また従来の持株会社経営では構造が複雑で、責任の所在が不明瞭になることも課題にあげています。

 そこでギルソン社長は、「ワンカンパニー、ワンマネジメントチーム」とするとし、新組織では「マネジメントチームが、取締役会や株主に対しても100%の直接責任をもつ体制にする」と話しています。

 今回の改革の事業売却などにより約5000億円の負債を減らすとともに、三菱ケミカルHDの社名を変え、持株会社経営にも区切りをつける方針です。

 ちなみに同じ総合化学メーカーの三井化学もポートフォリオの改革を打ち出していますので、良ければこちらもご覧ください。

2022年にも新組織体制が動き出すと予想されます。

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