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三井化学のポートフォリオ改革、M&Aで医療・農薬も強化

 2021年11月、三井化学は長期経営計画「VISION2030」に沿った事業ポートフォリオ改革について公表しました。

 現在のポートフォリオを組み替え、新ドメインである「ライフ&ヘルスケア」を収益の第一の柱に据え、ライフ&ヘルスケアとICTの成長領域に投資の6割強を振り分ける戦略のようです。

 また社内技術の乏しい領域はM &Aで強化する方針も打ち出しており、2021年9月にはMeiji Seika ファルマの農業事業を買収、2021年12月にはエムディエム株式会社と資本業務提携も行っています。

 なぜ事業の組み替えを行ったのか、成長戦略の狙いは何か、三井化学の今後について解説します。
 なお本内容を動画でも解説しています、よければこちらもご覧ください。

三井化学

 三井化学は東京都港区に本社を置く、三井グループの総合化学メーカーです。

 売上高が1兆円を越す日本を代表する化学メーカーの一つであり、2021年7月にはMOLpカフェを開催し素材に関する探索的な活動も行っています。

 事業内容をみてみると、石化や基礎化学品などを手掛ける基盤素材事業、自動車用材料を中心に手がけるモビリティ、メガネレンズなどが好調なヘルスケア、包装材料等を含むフード&パッケージングの四つのセグメントからなります。

・基盤素材事業
・モビリティ
・ヘルスケア
・フード&パッケージング

 売上高は基盤素材事業が半数近くを占めますが、営業利益でみるとモビリティが過半数で、ヘルスケアやフード&パッケージングが続きます。

セグメント別売上高と営業利益(MITSUI CHEMICAL REPORT 2020より)

 石化を含む基盤素材事業は海外勢力の台頭により採算が悪化したため、三井化学はこれまでもモビリティ、ヘルスケア、フード&パッケージングの3領域を成長の牽引役として拡大を進めてきたのです。

リーマンショック以後、三井化学は既存事業の再編と新規事業への投資を行ってきました。

VISION2030とは

 三井化学は長期経営計画「VISION2030」に沿った事業ポートフォリオ改革について公表しました。

 最終年である2030年に営業利益2500億円を目指す計画ですが、その具体的な成長戦略を示した格好になります。

 従来から掲げている社会課題解決型企業への変革を命題に、

・ビジネスモデル転換
・ポートフォリオ変革
・循環型経済への対応
・DXを通じた企業改革
・経営、事業基盤の変革

等を基本戦略に据えています。

 DXや循環型経済を意識した長期計画となっており、経済・社会・環境の三軸経営を重視しながら、DXを通じたコーポレーショントランスフォーメーションを通して目標達成を目指しています。

 今回はこのポートフォリオの転換について詳しく解説したいと思います。

ポートフォリオ再編、ヘルスケアを第一の柱に

 VISION2030で掲げたポートフォリオの改革では、従来の5つのドメインが再編成されます。

三井化学 新長期経営計画「VISION2030」(三井化学HPより)

 この中で収益の第一の柱に位置付けたのがライフ&ヘルスケアです。

 ライフ&ヘルスケアは従来のヘルスケア事業と農薬事業から構成されており、市場の安定成長性に加え、農薬事業で培った精密合成技術をヘルスケアにつなげる狙いがあります。

ICTはシナジーの創出に期待

 もう一つの成長事業と位置づけるのが、ICT

 ICT(情報通信技術)という単語はITにコミュニケーションが加わったもので、モビリティの機能性ポリマーや特殊ガス、コーティング・機能剤なども組み込まれ、成長投資は先ほどのライフ&ヘルスケアとこのICTに割り振られる形となります。

 ポリマーからガスまで含まれるICTはまとまりの少ないセグメントにも見えますが、各事業を集約することで強力なシナジーの発揮に期待しているようです。

 ICTの中でも半導体・イメージング・電池材料・コンバーティングの4分野に照準を合わせ、今後も市場の伸びが期待される半導体・実装や光学材料のイメージングに資源を熱く配分します。

 具体的には、イクロステープやEUVペリクルなどの事業について投資拡大を進める構えのようです。

モビリティや石化は利益の創出

 現在の主力であるモビリティについては、エラストマーや複合材料など利益を刈り取る段階にあるとコメントしています。

 積極的な投資は行わないようですが、デジタル技術の発達や環境貢献を意識した自動車市場の変化を捉えたソリューションの提案、再エネ・都市インフラの老朽化など関連する社会課題も視野に入れた事業機会の探索を進めるようです。

 最後に石化や基礎化学品を扱うベーシック&グリーンマテリアルズ、こちらは300億円を確実に稼ぐ体質にするとしています。

 フェノールやウレタン、テレフタル酸は外部との提携やアライアンスで再構築、ダウンサイジングやライトアセットでのボラリティの低下を急ぎ、利益を押し上げる考えです。

 高機能PPなどダウンフローの強化、環境貢献を意識したバイオやリサイクルなどのグリーンケミカルも進めます。

 石化を分離した三菱ケミカルとは異なり、石化製品の差別化を図り利益を確保する戦略のようです。
 (三菱ケミカルの構造改革については下記記事をご覧ください。)

DX戦略へ資金を投入

 長期経営計画達成のためDX推進も不可欠としており、2022年春にはDX推進本部も新設します。

 DX戦略にも1000億円を投資し、コーポレーショントランスフォーメーションによる目標達成に期待です。

成長分野と利益創出分野を区別した形になります。

M &Aで成長領域の強化も

 VISION2030ではヘルスケアを売り上げの柱としており、コア営業利益についても21年見通しの250億円から30年には900億円へ引き上げ、その2-3割をM &Aやアライアンスで積み上げるとしています。

 しかし三井化学のヘルスケア事業ですが、高機能レンズ材料や不織布事業を有しているものの、「ウェルネス」や「メディカル」ではまだ技術が確立されていません、

 そこでグループ内技術の乏しい領域についてはM&Aを展開し、生体適合性の外科材料、核酸医薬品の製造受注にも参入するようです。

 この動きはすでに始まっており、2021年12月には人工関節などの医療機器を手掛ける日本エムディエムと業務資本提携を結び、協業により医療機器開発に力を注ぐ計画のようです。

2021年9月にはMeiji Seikaファルマの農業事業を買収したところでしたが、今後も成長領域への投資は続きそうです。

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