業界の動向

DICと太陽HDが経営統合?東京応化の新中計、ほか混迷を極める半導体

今回は、半導体材料メーカーの動向を解説します。

長らく停滞が続いてきましたが、新中計、経営統合など、大きな動きも出てきました。

東京応化新中計

まず紹介するのは優良ニッチの代名詞、東京応化工業。

長らく停滞が続いてきましたが、新年を迎え、ぽんと株価を上げています。

東京応化工業の株価チャート
出所:Yahoo!ファイナンス(25/1/11)

東京応化は知る人ぞ知る半導体材料の専業メーカー。

専業ゆえに規模では劣るも、その利益率と成長性の高さに注目される企業です。

出所:東京応化工業IRセミナー資料
出所:財務ハイライト

で、今回東京応化が注目を集めた理由は新中計を公表したため。

それも結構強気な計画で、2027年3月期に売上高2700億円、営業利益480億円、ROE13パーセントと、

高い利益水準は維持しながら、3年で1.5倍程度の規模拡大を掲げています。

出所:TOK グループ中期計画についてのお知らせ

中学入学時に身長160cmだった友達が、卒業時には240cmになるような成長速度です。

じゃあ、どうやってその成長を達成するのか。

これは先端レジストでグローバルシェアNo.1を掲げています。

出所:TOK グループ中期計画についてのお知らせ

東京応化は半導体の主要材料であるフォトレジストで、なんと世界首位。

今後も市場拡大が期待される先端分野で首位を独走し、半導体市場の拡大を享受する狙いのようです。

出所:個人投資家向けセミナー資料

それを可能にするのが、台湾、韓国、アメリカ、日本で事業展開する強固なサプライチェーン。

つまり東京応化は、TSMCやサムスン、インテル、キオクシアなど、そうそうたる主要メーカーに入り込めているわけです。

出所:個人投資家向けセミナー資料

それの何が良いかと言えば、フォトレジストのようなスペシャリティ製品というのは、顧客とのすり合わせが重要になります。

スーツでいえば出来合いのものではなく、オーダーメードスーツを作るようなイメージで、

顧客のニーズをくみ取り、合わせこむ、技術力や営業力が求められるわけです。

つまり東京応化の強みである顧客と連携した研究開発体制を活かして、先端領域でも先行する戦略のようです。

なおキャッシュの使い道に関しては、成長投資と株主還元にバランスよく振り分けています。

高配当銘柄ではありませんが、DOE4パーセント以上と、安定した利益還元は期待できますね。

なお先端に限らず、フォトレジストは従来の前工程だけでなく、後工程にも用途が拡大しています。

先端から古のUVレジストまで幅広いラインナップを有する東京応化は、各ラインナップの採用も増えていくと期待されますね。

DICと太陽HDの経営統合

続いては巷を騒がせた、DICと太陽ホールディングスの経営統合疑惑。

眉唾ではありましたが、結果として両社の株価が上がっています。

DICの株価チャート
出所:Yahoo!ファイナンス(25/1/11)

DICは印刷インキの世界大手、吉岡里帆の会社で、対して太陽ホールディングスは電子材料に強みを持ち、ソルダーレジストで世界首位です。

ソルダーレジストはプリント基板を保護する、この緑色の部分ですね。

DICも太陽ホールディングスも印刷インキを祖業としますが、太陽ホールディングスはエレクトロニクス分野に事業を転換した経緯があります。

今ではテニスとスカッシュくらいは畑が違う二社ですね。

で、実は両社は資本業務提携を結んでいます。

DICはエレクトロニクス分野への事業拡大を狙い、2017年に太陽HDの主要株主となっているのです。

なので一見すると、DICが連携強化をにらみ太陽ホールディングスを子会社化する、と言う話にも見えます。

が、ブルームバーグの記事を引用すると、

太陽ホールディングスがDICとの経営統合を検討していると複数の関係者が明らかにした。

太陽ホールディングスは国内投資ファンドの日本産業パートナーズ(JIP)と協力する可能性がある。

両社はアドバイザーと協力しながら、経営統合の可能性について予備的な評価を行っているという。

つまり、太陽ホールディングスが経営統合を主導しています。

なので対等な形で持ち株会社を設立する、株式交換みたいな話でしょうか。

現状DICは提案を受けた覚えはないとしており、太陽ホールディングスもコメントを控えています。

わざわざ太陽ホールディングスがけしかけるメリットはあるのか、疑問は多く、続報が待たれますね。

トリケミカル研究所

続いては、トリケミカル研究所。

ポイントは、下落トレンドに転機あるか。

トリケミカル研究所は、小粒ながらも高い利益率を誇る、ニッチトップ企業。

時価総額は1000億円で売上高100億円規模も、利益率はなんと20%前後と高利益企業なのです。

出所:財務ハイライト

AI半導体で勝ち組のSKハイニックスと合弁会社を作っていたり、中小型好きの人からすると、よだれが出る銘柄ですね。

で、トリケミカル研究所はHigh-k材料をはじめとする半導体材料に強みを持ちます。

が、昨年は半導体需要の低迷で製品を売る市場がなく、減収減益を余儀なくされました。

それでも今期は業績好調、中間決算では通期予想を上方修正、売上利益ともに大幅増を見込んでいます。

出所:日本経済新聞

なのに市場では評価されず、この一年グダグダと下げ続けてきました。

出所:Yahoo!ファイナンス(25/1/11)

それが年を開けて急浮上、先週は15%以上も急騰しました。

何に反応したのか良く分かりませんが、ポイントはこの勢いが持続するかどうか。

最近の半導体材料メーカーは、好決算で株価を上げても、その後じわじわ下げてしまう傾向にあります。

やはり米中対立などから、投資家もまだまだ強気になれない局面かと思います。

トランプ大統領の動向など、引き続き注視していきたいですね。

信越化学 注意点

最後は、みんな大好き信越化学について。

異次元の利益率と鉄壁の財務を誇る、化学業界の怪物企業です。

ただ、足元で株価は軟調。ここ半年はダラダラと下げ続けています。

信越化学工業の株価チャート
出所:Yahoo!ファイナンス(25/1/11)

実は信越化学の主力製品であるシリコンウエハーに、悪材料が出ているのです。当面は頭打ちとみられます。

まず背景にあるのが、AIに依存した特異な半導体市場。

足元でAI半導体は絶好調ですが、ほかスマホやパソコン、車載向けは振るわない状況です。

シリコンウエハーはAIに限らず、あらゆる半導体に用いられるため、こういった民生や車載などボリュームゾーンが弱含むと、苦戦を強いられてしまいます。

出所:Semiジャーナル

それでも信越化学が好調を維持していたのは、先端品を中心に長期契約率が高いため。

元来シリコンウエハーの需要は浮き沈みがあるため、安定供給のために顧客と長期契約を結ぶ傾向にあります。

長期契約は市況に左右されにくく、需給が軟化するこの局面においても高い下方硬直性が発揮されたわけです。

が、昨今の半導体需要の谷は前例がないほど深く、流れが変わり始めています。

というのも、客のいない回転ずしにお寿司を投入し続けても、寿司がパンクしてしまうように、顧客側ではシリコンウエハーの在庫水準がパンク気味とみられます。

このような状況では信越化学も数量を増やせないどころか、顧客から購入調整の要望が来ているとのことです。

つまり信越化学を支えた先端シリコンウエハーにもブレーキがかかる恐れがあるのです。

さらに先行きも安心できません。

というのも、中国半導体メーカーでは、中国製シリコンウエハーを使用する傾向を強めています。

つまり汎用グレードのシリコンウエハーは、今後市場が回復しても、完全復活しない可能性があるのです。

こうした先行きの不透明感から、株価もダラダラと下げていたわけです。

ゆえに、シリコンウエハーにおける戦略の転換が求められる可能性があります。

例えば同じくシリコンウエハーを手掛けるSUMCOは、汎用グレードから先端グレードに切り替える戦略を取っています。

では信越化学はどうかと言えば、半導体分野でのオールラウンダーを掲げています。

つまり、シリコンウエハーにこだわらず、事業を拡大していくもの。

実は信越化学は、シリコンウエハーに限らず、フォトレジストやフォトマスクブランクスといった半導体材料も手掛けています。

こういった事業を軸に、電子材料事業を強化していくものとみられます。

すでに半導体材料事業の拡大を見据え、約830億円かけて、群馬の伊勢崎に新しい生産拠点を設けると発表しています。

さらにシリコンウエハーの加工を手掛ける、三益半導体工業を完全子会社化しています。

さらに手薄な後工程には、製造装置と新工法で切り込むなど、材料の枠を超えた開拓も進めています。

中期経営計画を公表しない信越化学は、成長戦略をとらえにくい企業としておなじみなのですが、

すでに策を打っており、収益基盤の強化を図っているのです。

信越化学の強みは、金川元会長を起源とする慎重かつ大胆な投資にもあります。

今後も潤沢なキャッシュを元手に、投資から着実に地力を増していく方向性かと思われますので、こういった投資が成果につながるには時間がかかりますが、

着実に歩みを進めており、信越化学の将来性には期待が高まります。

24年3月期は為替が想定の140円よりもかなり円安で推移していることから、上振れも期待されていますが、中長期での成長性に懸念が晴れないと、完全復活は厳しい可能性があります。

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