化学業界は製造業の中でも有数の規模を有しており、またその製品が多岐にわたる多様性に富んだ市場です。
化学株はそのような業界の特徴を受けて複雑な性格を示しますが、世の中の動きとともに変わり続ける点が化学株の魅力でもあります。
今回はそんな化学株について解説したいと思います。
化学株とは
東京証券取引書では全銘柄を33の業種に分類し、各業種の時価総額を発表しています。
化学セクターの定義はトイレタリーも含むものとなっており、三菱ケミカルHDや住友化学のような総合化学メーカーから花王などの日用品を扱うメーカーまで幅広く含まれています。
時価総額では日本全体の5.8%を占め、鉄鋼などの他の素材産業に大きな差をつけている一方で、東証一部上場の化学企業は133社と時価総額に比べると多いことから、相対的に小ぶりな会社が多い特徴があります。
いろんなメーカーがあるので、就活や投資も大変です・
化学株の特徴
ジャンルが多い
化学業界の一番の特徴は、幅広い分野をカバーしている点です。
化学業界における出荷額の内訳をみると、プラスチック・ゴムなどを生産する石油化学、医薬品や無機材料、化粧品などさまざまなカテゴリがあります。
また一言にプラスチックといっても、原材料であるモノマーを供給する川上メーカーから、プラスチックに使用する着色剤や添加剤を生産する川中メーカー、さらに川下の成形加工メーカーなどたくさんの化学企業が関与しています。
多様な製品を扱っていることが、いろんな特徴に繋がるよ
業績の方向が一様でない
一般に多くの素材産業は、同一業種に属する各社の業績の方向性は似ており、ある会社が大幅増益なのに別の会社は減益ということはあまりありません。
ところが化学業界は、さまざまなジャンルの製品を取り扱っているため、会社によって収益が全く異なることもしばしばあります。
例えばコロナ禍では、需要の低迷から石油化学製品の比率が高いメーカーは影響を受けましたが、巣篭もり需要により半導体材料は好調でした。
また化学業界では川上から川下までさまざまなメーカーが存在しているため、原料価格が上がれば川上の化学メーカーにとってはプラスになりますが、川下の化学メーカーはマイナスに働くなど、サプライチェーン(製品製造の流れ)のどこに属するかによっても環境が異なります。
化学メーカーは同じ化学メーカーも相手に商売をしています。
マクロ環境の影響度合いも異なる
原料を加工し、製品として出荷する化学業界の特性上、多かれ少なかれマクロ経済(経済社会全体の動き)の影響を受けます。
原料コストが上がれば採算が悪化しますし、景気が悪くなれば出荷数量は下がり減収となります。
特に基礎化学品をはじめとするコモディティと呼ばれる汎用品では、景気が悪化すると出荷数量は当然下がるのですが、プラントの稼働率を維持するために製品価格を下げるメーカーが出てきます。
景気が悪い状態では需要も低く製品がだぶついており、そのような状況では誰しも安い製品を購入しますので、他のメーカーも価格を下げる必要があります。
このようにコモディティでは景気が悪化すると、出荷数量の減少に価格の低下が上乗せされて減益幅が大きくなってしまう特徴があります。
逆に好況時の伸び幅も大きいです。
一方スペシャリティと呼ばれるような性能面で差別化がなされている高付加価値製品は、景気が悪くなれば出荷数量は減りますが価格は下がりにくいため、減益幅はそれほど大きくならない特徴があります。
性格は色々
景気の動きに敏感な株を景気敏感株(景気循環株)、景気循環の影響が比較的少ない株をディフェンシブ銘柄などといいます。
先ほどの説明通り、川上に位置するようなコモディティの比率が高い会社は典型的な景気敏感株ですし、医薬や農薬をはじめとするスペシャリティが多いとディフェンシブ銘柄の性格が強くなります。
したがって大きく伸びている会社でも、景気敏感株だと実際の実力以上の評価を受けている可能性があります。
このように同じ化学メーカーでも扱う製品により景気の影響が変わってきますので、会社ごとに製品の性格を把握することも重要です。
株価が安定しない企業は、長期保有には向かないかもしれないね
主要銘柄
三菱ケミカルHD
売上高では日本首位の総合化学メーカーであり、近年はギルソン新社長のもと構造改革が進められています。
過去の株価チャートを見ますと、2014年までは500円程度であった株価も、アベノミクスなどもあり2018年には1300円まで上昇しています。
一方で米中貿易摩擦(2018)や新型コロナ拡大(2020)といったマクロ経済の影響を受けており、浮き沈みの大きい景気敏感株の性格が強いです。
一般的にはこのような景気敏感株は長期保有というよりは、安い時に買って上昇したら売るような銘柄となっています。
しかし会社としては資金を確保するためにも安定して株価を上昇させたいため、2021年には採算が悪化した石化を切り離すなど思い切った構造改革が進められています。
また環境貢献を意識した成長戦略を打ち出しており、世界的な脱炭素の潮流を軸に今後大きく成長する可能性を秘めています。
信越化学
売上高1.5兆円、利益率は驚異の25%越えを成し遂げている日本を代表する化学メーカーです。
半導体シリコンといった無機材料や塩ビ樹脂といった素材に強みを持つ一方で景気の影響を受けにくい事業構成となっており、株価は浮き沈みはあるものの右肩上がりで、2022年には2万円台も射程圏内となっています。
ここ数年は旺盛な半導体需要で半導体シリコン事業が劇的に伸びており、またコロナ禍からの世界経済の回復もあって2021年上期には過去最高益を記録しています。
そのような業績の良さが株価に反映されており、特に最近は新型コロナウイルスの感染拡大に対応した大規模な金融緩和により市場に余剰資金が流れ込み、投資家からの評価が高い信越化学のような銘柄には買いが集まっているようです。
一方、業態の先行きや財務面などに不安のある銘柄は大きく売られるといった二極化の動きが見られています。
花王
最後は日用品を中心に扱う花王で、こちらは扱う製品もイメージしやすいのではないでしょうか。
生活必需品である日用品は石油化学と比べると景気の影響が少ない性格があり、花王の株価も比較的安定して右肩上がりでした。
近年はコロナ禍の影響を受けて化粧品などが不調、インバウンドや原料高の影響もあり下げているようです。
ただ業績は悪くない印象を受けるので、コロナ禍からの経済回復も進めばどこかで持ち直すのではないでしょうか。