今回は化学業界において、代表的な企業の決算を紹介して行きたいと思います。
また今期の見通しが増益の企業と減益の企業についても解説します。
みなさまの気になる企業の業績はどうなっているでしょうか。
2022年3月期決算
まず総合化学メーカーの決算を紹介します。
色々な定義がありますが、総合化学メーカーは川上の原料から川中の誘導品まで手広く手がけている点が特徴で、ボリューム勝負の基礎化学品を手がけ、また買収により巨大化したことで規模の大きな企業が多くなっています。
こちらが総合化学メーカー各社の2022年3月期の決算です。
売上高の首位は三菱ケミカルHD、今期は4兆円に迫る売上高で過去最高益を更新、営業利益も前年から大幅増益の2700億円となっています。
続く住友化学、旭化成、三井化学、東ソー、UBEについても営業利益は大きく増加しており、新型コロナ禍からの経済回復による原油価格高騰に連動し好況に推移した石化市況が利益を押し上げました。
加えて各社が力を入れるエレクトロニクスやヘルスケア材料といった機能性材料も堅調で、営業利益に占める比率をみても非石化部門は各社の売上の一翼を担うようになっています。
信越化学や積水化学の決算も増益となっていますが、特に信越化学がずば抜けた営業利益となっており、信越化学の最高業績の理由は過去の記事で解説していますので、こちらをご覧ください。
なお来期の業績予想については最後にまとめて解説します。
続いて中堅の川中化学メーカーを見てみましょう。
総合化学はナフサクラッカーにより基礎化学品から産出するのに対し、川中化学メーカーは誘導品を中心に手がけ、規模では総合化学に劣るものの、各社高い技術力を活かした高機能製品を軸に事業展開を進めています。
決算を見てみるとこちらも各社増益で良好な業績となっており、日産化学を筆頭に営業利益率も高くなっています。
海外が増収の原動力となったカネカ、半導体材料が好調なJSRなど各社独自の強みが増益につながっており、日産化学は9期連続で最高益(純利益)を更新し続け、新規事業が成長してきたダイセルは業績目標の上方修正を検討するなど、中堅化学も世界経済の回復や電子材料の伸びなどを的確に捉え力強く成長しています。
続いて化学業界とつながりの深い石油元売の業績も確認しておきましょう。
石油元売は油田から得られた原油をガソリンや灯油、重油などに分離し、その留分の一つであるナフサを化学メーカーに下ろしたり、自前のクラッカーで基礎化学品を産出したりもします。
こちらが石油元売の決算で、統合が進んだこともあり規模は化学メーカーよりも格段に大きくなります。
コロナ禍で喘いだ前年と比較すると、原油価格の上昇を追い風に各社大幅増益となっていますが、今期の見通しは芳しくなく、後ほど解説します。
続いては繊維業界です。
繊維は石油を原料とする合成繊維が主流で、衣類だけでなく自動車材料や医療など幅広く用いられていますが、汎用品については安価な海外勢に押されているため、各社炭素繊維など高付加価値製品へシフトしています。
繊維メーカーの決算を見てみると、大幅増益の東レに対して東洋紡は微増、帝人は減益と命運が分かれる結果となっています。
原料高や半導体不足による自動車の減産、航空機需要などが繊維事業にとっては向かい風だったようですが、東レは機能性化成品が好調、繊維もスポーツ向けなどが堅調で収益拡大を果たしています。
なお原料高や自動車減産の影響を受けたのは繊維業界だけではありません。
決算期は異なりますが自動車向け製品比率が高い塗料メーカーも1-3月は利益面で苦戦しており、塗料首位の日本ペイントは前年と比較して営業利益が微減となっています。
またこちらも決算期は異なりますが、トイレタリー首位の花王、印刷インキ首位のDICも原料高を受けて前年比減となっており、川下に位置するメーカーは価格転嫁が遅れるため、原料高の局面では利益を圧迫する傾向にあるのです。
最後は製薬メーカーです。
昨年に子会社の売却益があった武田薬品は前年比減ですが各社増益を確保、第一三共は1兆円の大台に乗せており、各社主力とする医薬品が順調に伸びたほか、海外事業も好調に推移しているようです。
安定した業界だけあり、化学業界に比べて浮き沈みは小さくなっていますね。
さて、ここまでの決算を総括すると、世界経済の回復を受けて多くの企業が売上高を伸ばす形となっており、特に原油価格の高騰を受けて、川上に位置する総合化学や石油元売で増益幅が大きくなっています。
一方で、原料高や自動車減産の影響を受けた繊維・塗料業界は伸び悩んでおり、価格転嫁が進んでいない川下側のメーカーも原料値上げのしわ寄せを食らっている状況となります。
今期の見通し
今期の営業利益予想が増益、前期なみ、減益の三つに分類したものがこちらです。
総合化学や石油元売を見てみると、ほとんどの企業が前期以下の営業利益を見込んでいるのです。
一方で製薬や川中化学メーカーは増益予想が目立ちます。
なぜ今期は総合化学を中心に減益予想となっているのでしょうか。
前期の化学大手8社の営業利益合計は1兆8246億円とコロナ前を大きく上回り最高記録を更新しているのですが、一方で四半期ごとに前期の営業利益を見てみると、第4四半期がもっとも小さくなっていることが分かります。
昨年末から続く原料高や、今年に入ってからもロシアのウクライナ侵攻や中国のゼロコロナ政策により経済が停滞、米国のインフレや円安なども加わり先行きの不透明感も増しているのです。
したがって今期は石化市況の好況要因が剥落すると見られ、総合化学や石油元売は減益予想となっているのです。
対してエレクトロニクスやヘルスケア材料といった高機能製品は今期も堅調に推移すると見られており、製薬メーカーや機能性材料を得意とする川中化学を中心に増益を見込んでいるのです。
また原料高で苦戦した川下寄りのメーカーも今期は値上げやコストダウンを遂行することで業績回復を見込んでいます。
急激な市況の変動で企業毎に明暗が別れた前期と比較して、今期は企業の地力が勝負を分けるのではないでしょうか。
コロナ禍からの回復基調は見られているものの、依然として先行きは不透明であるのに対してデジタル市場の急成長や地球環境問題、社会課題など取り巻く環境の変化は大きく、そして早くなっています。
この激変の時代にどう対応するかで、今後の企業の成長も変わってくるでしょう。