業界の動向

脱炭素戦争、大手化学メーカーによるケミカルリサイクル戦略

皆様は今、化学メーカーが資源循環(リサイクル)に大規模投資していることをご存知でしょうか。

そこで今回は各社が資源循環を進める背景について簡単に解説しまして、住友化学・積水化学のバイオリファイナリー事業と三菱ケミカル・ENEOSの油化事業、二つの事例を紹介したいと思います。

リサイクルが着目される背景

まず資源循環が着目される背景から解説しますと、これには大きく3つの理由があります。

まず一つ目は海洋プラスチック問題です。

2018年ごろ、ウミガメとストローのショッキングな写真で海洋プラスチック問題が顕在化し、廃棄されたプラスチックが環境や生物に及ぼす被害が問題視されるようになりました。

日本においてもスタバでプラスチックストローが廃止されるなど、プラスチックを削減する動きが見られています。

二つ目の理由が、脱炭素やSDGsに起因して石化資源からの脱却が強く謳われるようになった点です。

日本においても2020年10月、菅首相によりCO2排出量実質ゼロを目指す2050年CNが宣言されていますが、温室効果ガス排出量を国内業種別にみると化学は鉄鋼に次ぐ2位となっており、化学メーカーも石化資源の消費を抑制した事業構築が進められるようになっているのです。

産業部門のCO2排出量(2016年度)(出典:環境省)

最後の理由は企業にとってESG経営が成長戦略の一環となり始めている点です。

ESG経営とは環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)を考慮した経営のことで、気候変動や労働問題といった世界的な課題を踏まえた中長期的な成長を目指すものとなります。

実は近年、このような持続可能目標を達成するため世界的に大胆な投資をする動きが相次いでいるのです。

これまで化学メーカーにおいても短期的な成長に主眼をおいた大量生産・大量消費のモノづくりが進められてきましたが、中長期的な成長に主眼を置いた産業構造の大転換は企業として新たな進化へのチャンスでもあるのです。

このように廃棄プラスチックを取り巻く問題は持続可能社会の構築も関わるようになり、石化資源の消費を抑制し、ゴミの量も減らすプラ資源循環型経済への転換が求められているのです。

そして資源を循環させる上で欠かせない技術がリサイクルです。

化学製品であるプラスチックをリサイクルするため、化学メーカー各社も技術開発を進めており、各社生き残りをかけて、CNを目指すイノベーションの開発に大規模な投資をおこなっています。

今回は大手化学メーカーが実証を始めている資源循環への取り組みを紹介します。

積水化学と住友化学の取り組み

最初に紹介する事例は住友化学と積水化学の取り組みです。

住友化学は川上の基礎化学品から農薬、医薬といった誘導品まで手がける総合化学メーカーであるのに対して、積水化学は高機能プラスチックからインフラ資材、住宅を扱う川下寄りの化学メーカーとなります。

そしてこの2社は共同でBR事業の実証に取り組んでおり、これまで焼却処理していたゴミからプラスチックを作る夢の技術となることが期待されています。

いったいBRとはどのような技術なのか、また何故この2社が手を組んだのかを解説したいと思います。

まず積水化学ですが、なんと”ごみからエタノール”への変換に取り組んでいます。

エタノールはお酒や消毒剤に含まれていますが、他にもバイオ燃料や基礎化学品としても使用される資源であり、ゴミからエタノールを製造できれば様々な化学製品を誘導することも期待されます。

この技術の特徴は、「ガス化」と「微生物」です。

まずごみ処理施設に収集された“ごみ”をガス化し、一酸化炭素と水素にします。

次に生成したガスを、微生物によりエタノールへ変換します。ここには米ランザテック社の技術が使用されています。

そして得られたエタノールは、住友化学が基礎化学品であるエチレン、プラスチックであるポリオレフィンへと変換します。

通常エチレンはナフサの分解より得られるのですが、住友化学は得意とする石油化学技術を生かしてエタノールからのエチレン製造検証を進めており、2025年度には自動車部材や食品包材用途での事業化を目指しています。

私たちが廃棄したゴミは焼却処分されCO2となりますが、この技術を用いることで温室効果ガスを削減できるだけでなく、ゴミを再び資源として活用できるため、石化資源の消費抑制にも繋がります。

加えて通常のリサイクルでは、プラスチックを素材ごとに分別して個別にリサイクルする必要がありますが、この方法では炭化水素からなるプラスチックなら何でも分別せずにリサイクルが可能となります。

またモノマー化してから再びプラスチックを合成しているため、リサイクルによる品質の劣化も防げると言います。

プラスチックのリーディングカンパニーである積水化学が廃棄プラの再資源化を行い、基礎化学品技術に長けた住友化学が再商品化するという、各社の強みを活かしたスキームなのです。

加えて2022年7月には化粧品メーカーの資生堂がBR事業での三社連携を発表しており、資生堂が自社店頭で化粧品プラ容器を回収し、それを原料に積水化学がエタノールを生産、住友化学が作成したポリオレフィンを元に、資生堂が再び化粧品容器を作成するものとなります。

このように3社が企業の垣根を超えて連携することで製品の循環スキームが構築されており、今後も関連する業界や企業にも参加を働きかけサーキュラーエコノミーの実現を目指すとしています。

三菱ケミカルとENEOSの取り組み

続いて三菱ケミカルとENEOSの取り組みについてです。

三菱ケミカルGも住友化学と同様に基礎化学品から手がける総合化学メーカーであり、対してENEOSはガソリンなどを扱う石油精製メーカーで、三菱ケミカルよりもさらに川上の企業となります。

三菱ケミカルGでは新社長のジョンマーク・ギルソン氏が”脱炭素の流れと合致しているか“を重視した構造改革を進め、ENEOSも石油需要の減少が進む中、従来のエネルギー産業から化学業界へ参入するケミカルシフトを進めています。

そのような中、三菱ケミカルGとENEOSの2社も連携して廃棄プラスチックのケミカルリサイクルに挑戦しており、脱炭素を進めたい三菱ケミカルとケミカルシフトを加速させるENEOSの思惑が重なったと見られます。

では住友化学&積水化学のBR事業との違いはなんなのでしょうか。

こちらがその全体像であり、順を追って解説します。

ENEOSと三菱ケミカル共同のプラスチック油化事業実施について
~国内最大規模のプラスチックケミカルリサイクル設備を建設~

まずリファインバース社が、産業廃棄物や建設廃棄物などから廃棄プラスチックを調達します。

ここで集められた廃棄プラスチックにはPEやPPなど様々な種類が含まれているため、そのままでは再資源化が難しく、通常は分別を行う必要があります。

先ほどの積水化学の例ではプラスチックをガス化することで分別を不要としていたのですが、三菱ケミカルとENEOSは廃プラの油化に挑戦しています。

ここで使われるのが英 Mura Technology 社の超臨界水を用いた分解技術です。

集めた廃プラは超臨界水という高温高圧条件下で生じる液体でも気体でもない状態の水を用いて分解し、固体のプラスチックを分解油と呼ばれる液状のオイルとすることができるのです。

固体のプラスチックを分解油と呼ばれる液状のオイルとすることができるのです。

得られた分解油は原油のような性状で、基礎化学品が得られやすい留分と石油製品が得られやすい留分が含まれています。

したがって三菱ケミカルとENEOSが連携して石油精製装置およびナフサクラッカーで処理することにより、廃棄プラスチックからプラスチック製品や石油製品を得ることができるのです。

このように石油精製大手のENEOSと、基礎化学品の扱いに長けた三菱ケミカルが協力することで、無駄なくケミカルリサイクルを行うことができるのです。

三菱ケミカルとENEOSは鹿島地区で現在実証に向けた実験を進めており、本事業は2023年度から年間2万トン処理可能なプラントが動き出すようです。

この辺りはコンビナートの復興とも絡む話となっており、詳しくはこちらの記事で解説しています。

また三菱ケミカルはケミカルリサイクル実装において、マスバランス方式の導入を検討しており多様な化学品への応用が期待されますね。

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Youtubeのコミュニティに寄せられたコメントをテーマに取り上げ、化学業界を見通してみる企画です。

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