化学セクター決算のポイント解説、今回取り上げる企業は、三菱ケミカルG、旭化成、住友化学、三井化学、東ソーの5社です。
個人的にはこれ以上悪くはならないも、回復の程度はまちまちかといった印象です。
どうしてそう思ったのか、三つのポイントを解説します。また最後には、株価を大きく上げた企業を取り上げます。
総合化学の決算まとめ
今回の決算の一つ目のポイントは、回復の兆しが見えるか否かとなります。
というのも、2023年の化学業界は歴史的な事業環境の悪さ、世界経済の停滞などを背景に、石油化学から電子材料など幅広い事業分野で苦戦を強いられました。
ゆえに事業領域が多岐にわたる総合化学メーカーの業績も低空飛行が続いており、今回の決算では回復軌道に乗るか否かが一つの焦点です。
そんなこんなで大手総合化学メーカーの決算も出そろいましたので、早速みていきましょう。
今回取り上げる企業は、三菱ケミカルG、旭化成、住友化学、三井化学、東ソーの5社で、これら5社は国内にエチレンプラントと呼ばれる大規模な石油化学設備を有し、売上規模も1兆円を超える大手企業です。
川上の原料から川中の誘導品、最終化学製品まで手広く扱っており、その事業範囲も石油化学や無機化学、電子材料にヘルスケアなど多岐に渡りますね。
まずこちらが、大手総合化学メーカー5社の、先日公表された売上高と営業利益です。
売上高では旭化成を除いた4社が前年比で10%前後の減収、営業利益項目では住友化学、旭化成、三井化学の3社が減益、住友化学に関しては赤字転落となります。
減益を免れた三菱ケミカルGや東ソーもほぼ前年並みと、各社苦しい状況が続いていると言えます。
なお赤字幅が大きい住友化学については特殊要因が大きいため、詳細は過去動画に譲りたいと思います。
このように足元の業績は引き続き厳しいものでしたが、加えて先行きも芳しくなく、住友化学、旭化成、三井化学の3社は通期業績予想を下方修正しています。
これら化学メーカーについて、営業利益合計の推移を半期ごとにみても、回復基調は見えているものの、依然として本格回復とは言えない状況です。
このように苦しい事業環境が続いた2023年度上期でしたが、下期にかけて期待された回復は、力強さにかけるという結果でしょうか。
ある程度回復への期待が織り込まれていたのか、決算発表後に各社で株価は下落しています。
ここで気になるのは、いったいどうして回復の足取りが重いのか、そして今後の見通しはどうなのか。続いて解説していきます。
石油化学事業の低迷は長引く見通し
さて、総合化学メーカーでは依然として本格回復が見えなかったという話をしました。
短期的な急回復が見込めない以上、二つ目のポイントは、長期的な成長性です。
そもそも総合化学メーカーの回復の足かせとなっているのは、耳タコかもしれませんが石油化学事業となります。
そしてこれは悪いニュースですが、石油化学事業の回復には時間がかかりそうな雰囲気がみえているのです。
各社の石油化学事業の業績はこちらの通りで、なんと全社で前年同期比減収減益、住友化学、旭化成、三井化学の3社は赤字となります。
いったいどうして赤字なのかといえば、これら事業で手掛ける汎用品の特徴が故となります。
というのも汎用品は需給の影響を受けやすく、例えばどこかの工場でトラブルが起きて、製品の供給が不足すると大儲けできたりする一面もあります。
しかし今はその逆で、中国経済の停滞で冴えない需要に、アジア地域での新増設も重なり需給は大幅に悪化、基礎化学品の供給が多すぎ問題が浮き彫りとなっています。
これはイオン等が乱立して競争が激化した、名古屋港区を思わせるジリ貧っぷりです。
総合化学メーカーの完全復活には、石油化学事業の回復が欠かせないものの、中国の低迷は長引く観測ですし、内需が大幅に増えることも考えにくいのが現状です。
このような状況下で総合化学が成長するには、外部環境の影響を受けやすく成長も難しい汎用品から撤退し、成長領域へ投資する構造改革が欠かせません。
そしてこの構造改革、内容によっては大化けする可能性も秘めています。
例えば、構造改革で評価が逆転した企業としては、三井化学が挙げられます。
三井化学は石化事業の収益悪化から赤字となった時期もあるのですが、石化事業の売却や縮小を進めながら、成長領域への投資を進めてきました。
こうした構造改革が奏功し、三井化学は非石化事業で利益の8割近くを稼ぐポートフォリオへ転換、市場でも評価されて時価総額は10年で3倍以上成長しています。
足元では三井化学の石化事業も再び赤字に陥っていますが、構造改革第二弾を進めていますし、住友化学は4月に抜本改革が、三菱ケミカルGは10月に新体制の方針が示される予定です。
特に今回は大幅な収益悪化から大胆な再編も進むと予想され、今後は構造改革を発表・実行した企業に注目が集まるとみられます。
石化事業を抱える総合化学にとっては正念場が続きますが、長期的な目線でその成長性を見定めたいですね。
回復が見えた分野も
三つ目、最後のポイントはスペシャリティ化学。
ここまで総合化学メーカーの業績とその展望について解説してきましたが、実は今回の第3四半期決算後に株価を大きく上げた企業もありました。
株価が上昇した企業3社を簡単に紹介します。
日東電工
まず取り上げる企業は日東電工。
ディスプレイ材料に強みを持ち、グローバルニッチトップ戦略を掲げる高利益企業です。
そんな日東電工ですが、決算発表から株価はうなぎのぼり、上場来高値を更新しています。
株価爆上げの要因としては、決算発表と同時に公表された自社株買いが好感されたとみられます。
上限を300万株(発行済み株数の2.10%)、または300億円とする自社株買いを実施するようで、ホルダーの皆様おめでとうございます。
にしても上げすぎじゃないですか、肝心の業績はどうなんですか、という話で、得意とするディスプレイ市場は本格回復に至っておらず、減収減益の着地となっています。
利益減ってるじゃないですか、やだーとなりますが、ただ四半期ごとにみると業績は改善傾向であり、この辺りも好感されたとみられますね。
今期不調であったライフサイエンス分野の復活も加われば、さらにおもしろいのではないでしょうか。
JSP
続いては投資妙味につきるニッチ企業、JSP。
あまりなじみがないかもしれませんが、JSPは発泡プラスチックに強みを持つ化学メーカーです。
もともと三菱ガス化学の連結子会社でしたが、最近資本提携を解消していましたね。
そんなJSPも、決算発表後に株価が昇竜拳。昨年来高値を更新しています。
JSPの株価上昇については、特に増配や自社株買いの発表はなく、単純に業績が好感されたとみられます。
というのも、今期のJSPは決算発表のたびに上振れ、すでに二回連続で上方修正する好調ぶりでした。
さすがにもう上振れはないと思われた第3四半期決算でも、なんと三度目の上方修正をぶちかましており、好材料となったとみられます。
会うたびに成長する、親戚の子供くらいびっくりさせられますね。
好調の要因としては、北米での競技用グラウンド基礎緩衝材など非自動車分野が堅調だったようです。
JSPは化学メーカーとしては川下に位置し、高収益製品が利益を牽引したものとみられます。
自動車部材なども手掛けていますので、今後も自動車生産の回復が追い風となるかもしれませんね。
日本化学工業
最後もニッチトップ企業、日本化学工業。
弊チャンネルでも以前触れましたが、ノーベル賞を受賞した量子ドットのリン原料でトップメーカーですね。
2/8の決算発表後にドカンと10%近く上げ、昨年来高値を大きく更新しました。
気になる株価上昇の理由ですが、業績好転が好感されたものとみられます。
というのも、日本化学工業は今年度に入り回復基調で、第3四半期で通期進捗率がなんと110%と、経常利益目標はすでに超過達成しているのです。
日本化学工業は無機材料を得意とするのですが、海外売上比率がそれほど高くないことも相まって、円安や原燃料高に苦戦していました。
今年は価格転嫁が進んだことや、またホスフィン誘導体新製品も利益面に寄与したようですね。
なかなか調子が良さそうですが、特に上方修正は公表しておらず、第4四半期の動きは注意が必要かもしれません。
まとめ
以上まとめです。
総合化学については、石油事業の回復に向けた足取りが重く、本格回復は時間がかかるとみられます。
今後公表されるであろう構造改革を注視しながら、長期目線で成長を見定める必要がありそうです。
スペシャリティ化学では一部に回復がみられており、ニッチトップの強みが出ている企業も出てきていますね。
最近の化学業界と言えば、中国の停滞がやばい、半導体もディスプレイもやばい、製薬もやばい、よって化学メーカーはやばい、みたいな雰囲気もあるのかもしれません。
確かに地合いは良くなく、私も悪いときは悪いと言う必要があると思っています。
ただ重要なのは、なぜ悪いのかを読み解き、将来性について客観的な評価を促せるかだと思っていますので、今後も中立の立場から解説していきたいと思います。