急な発熱や打撲・ねんざに対して頭部や患部を冷却できる冷却シートや冷却パック、濡れタオルや氷のうよりも持続時間が長く、すぐに使用できる点が大きな魅力です。
最近は新型コロナワクチンの副反応で高熱が出る方もおられますので、例年に比べ需要が高まっているそうです。
いずれも化学的に熱を奪う反応が進行しているわけですが、その機構について考察します。身近なところでは、実はガムなどに含まれるキシリトールにも吸熱反応が関わっていますよ。
吸熱反応とは
どうして冷たくなったり暖かくなったりするの?
実は化学反応や物理変化が起こった際に、多くの場合は熱の出入りが生じています。
例えば発熱反応を利用した製品にはカイロがありますが、こちらは鉄の酸化反応です。
この逆反応である鉄の還元は吸熱反応であり、多くの熱エネルギーを加えることで酸化鉄から鉄を取り出します。
このように吸熱反応では熱を吸収してエネルギー的に不安定な物質ができるため、加熱してはじめて進行するものが多いです。
発熱反応は自発的に起こりやすいんだね
しかし日常生活で使用するためには、常温でも自発的に進行する吸熱反応が必要です。
そこで用いられるのが気化熱や溶解熱です。
液体が蒸発して気体になるときに吸収される熱を気化熱(蒸発熱)と呼びます。打ち水やアルコール消毒で涼しく感じるのは、水やアルコールが揮発する際に周りの熱を奪うためです。
また物質を水に溶解させた際に出入りする熱を溶解熱と呼びます。溶解熱の多くは発熱反応を示しますが、一部吸熱反応を示すものがあります。
物質が溶解して電離する際や、水同士の水素結合を切断する際に吸収される熱量が多い場合は吸熱反応となるようです。
実は塩を水に溶かした際も少しだけ吸熱反応が進行しています。下記に溶解時に吸熱反応を示す化合物とその吸熱量を示します。
化合物名 | 吸熱量 |
硝酸アンモニウム | 26.0kJ/mol |
尿素 | 15.0kJ/mol |
リン酸水素二ナトリウム・12水和物 | 95.0kJ/mol |
硝酸カリウム | 34.9kJ/mol |
塩化ナトリウム | 3.9kJ/mol |
他にも一部の中和反応や電気分解などにも、吸熱反応がみられます。
冷却シートの原理
冷えピタなどの冷却シートは水の気化熱を利用することで冷却効果を得ています。
不織布にゲル状液体が塗布されており、ゲル中に含まれる水分の気化熱により皮膚温度を下げる効果があります。
冷却シートではゲル中に水をたっぷりと含ませることが必要ですので、ポリアクリル酸ナトリウムのような吸水性ポリマーや、粘着剤としてポリビニルアルコールが使用されています。
ポリアクリル酸ナトリウムは紙おむつなどに使われる、代表的な吸水性樹脂です。
オムツに使われる技術が冷却シートにも使われているんだね
カルボキシル塩が親水性であることや、ポリアクリル酸ナトリウム樹脂中はナトリウム濃度が高いため、電解質濃度差により浸透圧が生まれることで高い吸水性を発現します。
ポリアクリル酸については、日本触媒が世界トップクラスの生産能力を有しています。
ちなみに濡れタオルも同様に水の気化熱を利用して皮膚温度を下げますが、空気を含むため熱の発散を妨げ冷却効果が持続しない欠点があります。
原理は打ち水と一緒ですが、より効率的に吸熱できるよう設計されています。
冷却パックの原理
冷却パックは、冷却シートと同じように気化熱を利用したものと、溶解吸熱を利用したものが知られています。
溶解吸熱には、水への溶解熱が吸熱反応である硝酸アンモニウムや尿素などが使用されます。
冷却剤を二重構造とし、硝酸アンモニウムや尿素を外袋、水を内袋に入れ、使用時に力を加えてそれぞれを接触、吸熱溶解により冷却できます。
気化熱を利用して皮膚から温度を奪う冷えピタとは異なり、こちらは冷却パックそのものが低温になります。
水や氷を準備することなく、すぐに使用できる点がメリットです。
ガムに使われるキシリトールも、溶解吸熱により清涼感を出しています。
まとめ
身の回りの吸熱反応についてでした。
原理は単純なものが多いですが、使い心地や持続時間が長さ、使いたいときにいつでも使える簡便さなどを追及したものが製品化されています。
使用する際は冷たさと一緒に、開発者の熱意を感じ取ってみてはいかがでしょうか。
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