今回は大手化学の第一四半期決算を、速報ベースで解説したいと思います。
昨今の荒れ模様で滝つぼに落ちるような株式市場とは対照的に、化学セクターの決算では鰻のぼりな数字が目立ちました。
出遅れていた化学セクターがここにきて復活の狼煙か、と言いたいところですが、私の結論としては要経過観察となります。
どうしてそう思ったのか、本記事ではポイントを三つ取り上げ解説したいと思います。
なぜ調子が良いんですか
まず一つ目のポイントは、化学セクターが増益に転じた理由です。
今週決算を公表した、三菱ケミカルグループ、旭化成、住友化学、東ソーの4社について、売上高と営業利益をまとめたものがこちらです。
なんと4社が増収増益、特に利益面での回復が著しく、三菱ケミカルグループと東ソーは2桁増益、旭化成は倍増、
そして住友化学は6四半期ぶりに黒字転換、ようやく水面下から浮上しました。
住友化学にはラービグなど依然として課題が残るものの、ファーマがかなり改善しており、
これ以上赤字が続くと銀行支援的な心配もあったので、その点は一安心ですね。
利益率でみると住友化学を除き7%前後、絶好調とまではいかずともそこそこな水準であり、
住友化学も1Qで黒転するとは思っていなかったので、予想を超えてきた決算と言えますね。
先週決算を公表した日東電工、トクヤマらも大幅な増益を達成していたので、化学セクターは全体として回復傾向にあると言えそうです。
では果たして、化学セクターが上振れた理由は何か。
増益要因は大きく2つあり、1つは全体的な市況の回復。
長らく停滞が続いた石油化学などコモディティ製品に市況の改善がみられたほか、
エレクトロニクス産業も回復の兆しがあり、電子材料を中心にスペシャリティケミカルも堅調でした。
特に調子の良かったところでいえば、石化製品ではMMAやブタジエンなどで市況が回復しています。
MMAは3社ともに生産していますが、皆様も幼稚園で習った通りMMAと言えば三菱ケミカル、
世界首位の三菱ケミカルグループはここで大幅増益となっています。
スペシャリティ製品については、五輪特需などによりディスプレイ需要も旺盛だったようで、
住友化学の偏光板や三菱ケミカルグループの光学フィルムが好調だったようです。
なお半導体材料でいえばハイエンド向けは堅調、旭化成のデジタルソリューションは上振れており、
住友化学の高純度ケミカルなども数量を伸ばしています。
このようにコモディティやスペシャリティともに回復傾向が見て取れ、全体での回復傾向が各社の増益に寄与しています。
ただ住友化学の石化や三菱ケミカルグループの炭素など、依然として赤字が残る事業もありますので
回復の度合いにまだ濃淡がある点には注意が必要ですね。
2点目の増益要因が、為替や在庫評価益です。
今期の第一四半期は想定よりも円安に振れており、前年同期と比べると20円くらい円安でした。
3社にとって円安はメリット、輸出や海外売上で恩恵をあやかっていました。
加えて直近でナフサ価格も結構上がっていて、これもプラスに寄与しています。
つまりは安く買った在庫が売上原価を引き下げる在庫評価益が、一時的に利益の押上げ要因となっているのです。
具体的に旭化成の例でいえば、為替要因の増益は100億円、在庫評価益は30億円程度で、
281億円の増益の半分くらいは、こうした為替やナフサ価格等によるものとなります。
なので総括すると、第1四半期の増益要因は市況の回復による地力が半分くらい、
為替や在庫評価損益といった追い風が半分くらい、といった印象でしょうか。
通期見通しは慎重
二つ目のポイントは、見通しは楽観視できない、となります。
まず足元の決算について、とりあえずは好決算おめでとうございますという話でした。
しかし重要なのはその持続性で、そしてそれがまだまだ手放しでは喜べない状況となります。
その理由を解説するために、まず進捗率から解説していきます。
こちらが従来の上期見通しと、その進捗率を記載したもので、
住友化学は上期予想を非公表でしたが、かっこ内が進捗率となります。
50%を超えていれば上振れと言うことなのですが、三菱ケミカルと旭化成は特に利益項目で50%を大きく超えており
なんなら三菱ケミカルGの純利益は、第一四半期で上期予想を大幅超過しています。
実はもともと各社下期偏重な業績予想であり、上期は控えめな数値にはなっていたのですが、
ふたを開けてみれば、第一四半期の調子の良さも相まって予想を上振れている、ということになります。
第一四半期から絶好調なスタートを切ったわけだから、この調子でいけば中間決算で上方修正もあり得るのでは、
と思うところなのですが、各社まだまだ慎重な姿勢にみえます。
実際に第一四半期で上方修正を公表したのは旭化成のみ、そして旭化成も上期予想の修正にとどまり、通期見通しは据え置いています。
その理由としては、やはり不確定要素が多いということでしょう。
というのも、第一四半期の業績を下支えした石化需給の回復やディスプレイ需要も、
実需の増加というよりは、需要の先食いや駆け込み需要の可能性もあり得るのです。
さらに第1四半期では追い風であった為替や在庫評価益ですが、こちらも風向きは不透明です。
現状為替は円高方向に振れており、ナフサ価格はしばらく7万円後半で推移しそうですが、
この辺りも不確定な地政学リスクや世界情勢次第となります。
このように快調な滑り出しを見せた第1四半期ではあったものの、この勢いが継続するというよりは、
為替影響や在庫益の縮小から、少しペースダウンして推移する可能性が高いのではないかと思います。
また各社としては、構造改革費の計上も見込んでいると思われるのですが、
ここは気になる点があり、以降解説していきます。
構造改革は遅れ気味?
さて、最後に解説するポイントは、構造改革の遅れについて。
第一四半期は為替など外部要因も加わり好調ではあったものの、
今後の見通しも、同じく為替や市況といった外部要因から不透明、という話でした。
いや外部環境に左右されすぎやんけ、ということで、
やはり根本的な構造改革も欠かせない状況に変わりはありません。
ただ、第一四半期決算における構造改革に関連した公表については、
三菱ケミカルグループの炭素事業くらいで、そこは期待外れな印象でした。
三菱ケミカルグループの炭素事業は製鉄に用いられるコークス等を販売しているのですが、
中国の鉄鋼需要の弱さなどから低調が続き、今期も赤字でした。
コークスは炭素を蒸し焼きにすることで作られるのですが、このコークス炉が曲者で、
基本的には炉を燃やし続ける必要があるという、
泳ぎ続けないと●ぬ、ある種の回遊魚みたいな性質を持っています。
したがって、例え市況が悪く赤字でも工場の稼働を続ける必要があり、
一時は原料の石炭よりも製品のコークスの方が安い、ということもあったようです。
そんな炭素事業について、今回4割のキャパシティ削減を公表しており、来期には黒字化が期待できるとしています。
これ自体はビジネスとして良い話ではあるのですが、各社まだまだ手を付けるべき課題があるのです。
例えば国内エチレンセンターの稼働率は8割前後と、いまだに損益分岐の境をさまよっており
住友化学のラービグも相変わらずの大幅赤字であり、抜本的な改革が待たれます。
特に国内のエチレンセンターについては、出光興産の1基が停止を公表していますが、
内需見合いとするには、さらに踏み込んだ改革が必要となります。
今年の後半には青写真が描かれるものと予想されますが、ここに遅れや頓挫があれば悪材料となり得ます。
各社進む方向性は明確になってきていますので、具体的な施策の公表が待たれますね。
まとめ
以上、大手化学の決算速報でした。
業績は急激に回復してきているので、その点は喜ばしいことなのですが、
実際の需要動向の回復以上に、為替などのブーストを受けた側面もあります。
今後も物価上昇に加えて、欧米における金利、中国景気の減速、中東地域をめぐる情勢の影響が懸念されるなど、
依然として先行きは不透明、まだ楽観視はできない状況と言えます。
期待された構造改革も、今回はお預けを食らった状況ですので、今投資判断をするのは難しいかもしれませんね。
ただ化学を強化する三菱ケミカルグループ、アセットを軽くする旭化成など、方向性は見えてきているので、
将来展望の解像度が上がれば、見え方も変わってくるのではないでしょうか。