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マイクロ化学プロセスとは?花王やダイセルによるマイクロ流路の活用

 マイクロ化学プロセス、みなさんは聞いたことありますか。

 文字通りマイクロオーダーのスケールで合成反応を行うプロセスのことですが、近年の環境意識の高まりや化学品の高付加価値化の流れを受けて、実はマイクロ化学の生産プロセスへの導入が着目され始めています。

 実際にダイセルや花王は機能性化学品や化粧品の生産への実用化を検討しています。

 従来のバッチ式の生産と比較してどのようなメリットが期待されているのか、解説します。

1.マイクロ化学プロセスとは

 マイクロ化学プロセスは、読んで字のごとくマイクロスケール内で進行する化学プロセスです。

 ガラスなどのプレート上に、マイクロ流路と呼ばれるnm〜mmオーダーの微細な流路を作成し、このマイクロ流路に化合物を流すことで化学反応を行います。

 このプレートはマイクロ化学チップとも言われます(下図)。

 流路の作り方によって、多数の実験を同時に行ったり、反応・分離・検出といった複数の工程を連続で行うことができるようになるため、ラボでの実験を効率化できます。

 またマイクロスケールで化学反応を行うことで、伝熱・混合時間を短縮できたり、比表面積が増加するため化学反応を促進するも可能です。

 マイクロ化学は比較的最近研究されるようになった分野であり、当初は診断チップのようなライフサイエンス分野や、微量合成、分析用途での実用化が検討されていました。

 しかし近年は環境意識や機能性化学品の需要の高まりから、マイクロ化学の生産プロセスへの適用が検討されており、次世代の化学プラントとして期待されています。

マイクロ流路を用いることで、PCR法の簡略化も期待されます。

2.ダイセルの取り組み;超小型プラント

 ダイセルは東京大学などの研究機関とマイクロ流路を用いたプラントについて共同開発を進めており、ファインケミカル製品の多品種少量生産を行う超小型プラントの実装を目指しています。

 先ほども述べたようにマイクロ化学プロセスでは、効率的に化学反応を進行できるのですが、実はプレートの枚数を増やすだけでスケールアップも可能となります

 ダイセルでは微細流路内で化学反応を行うマイクロリアクターを多数組み合わせることで、従来よりも100〜1000分の1スケールとなる 超小型プラントの開発を行っているのです。

 実用化できれば、ラボから生産へのスケールアッププロセスの大幅な短縮や投資額の削減が見込まれます。

 また多段階にわたる反応工程を同時に行えるためより精密な合成や高収率化が可能となり、これまでの大量生産が前提であった少品種から、機能性を重視した多品種少量生産への転換も期待されます。

 ダイセルは強みを持つセルロース系材料や石油系ポリマーへの活用を図り、2030年以降には客先にて適時適量生産する個別オーダー生産の実現を目指すようです。

ダイセルはマイクロ流路活用のために、セルロースの溶解技術について京大とも共同研究を進めています。

3.花王の取り組み ; 高効率で環境負荷の低い生産プロセス

 合成反応や分析用途に用いられるマイクロ化学プロセスですが、花王は化粧品の生産への導入を検討しています。

 化粧品はさまざまな機能成分を水などに混ぜることで作られているのですが、機能成分が油溶性の場合は水と油が反発するため、混じり合わないことになります。

 そこで界面活性剤を用いて水と油溶性の機能成分を混ぜる乳化操作を行ったのち、ミキサーのような攪拌装置で物理的に高いエネルギーをかけることで微細化して化粧品は生産されています。

 しかし生産に必要となる消費エネルギーが大きいことや、機能性向上を目的に成分のさらなる微細化が課題となっていました。

化粧品の生産

 そこで花王は、より効率的で環境負荷の低いプロセスとしてマイクロ化学プロセスの導入を検討し、マイクロ場を有する高速ジェットミキサーを開発しました

 この方式では油層と水層がマイクロ流路を通過することで噴流が発生し、噴流により油層と水層が効率的に混ざるようです。

 このミキサーの混合時間は数ミリ秒1/1000秒と驚異的な早さでありながら、消費エネルギーは1/10以下、粒子径も従来の1/10まで微細化することができます。

 使用する界面活性剤の量も半減できるようで、効率やESGの観点からも優れた技術になります。

マイクロジェットミキサーによる化粧品の生産

 この微細化技術を応用した製品が 2020年4月に発売された化粧水「キュレルディープモイスチャースプレー」です。

 有効成分であるセラミドを0.1 μmまで微細化したことで、スプレー剤でも有効成分を安定して噴霧できる点が画期的と市場に衝撃を与えました。

 将来的にはセラミド以外の成分への応用や、連続乳化プロセスによるオンデマンド生産も視野に入れています。

生産方式の進化が、化粧品の高性能化にも繋がります。

4.まとめ

 マイクロ化学プロセスではマイクロスケールで反応を行うため、消費エネルギーを抑えることができ、製品の高性能化にも繋がる可能性があります。

 スケールアップに関してもラボスケールと同等の条件で行えるため、少量から大量まで柔軟に生産できる運用のしやすさが利点です。

 近年の環境意識の高まりや、顧客ニーズの高度化に伴う高付加価値化など、時代の流れと合致した期待の生産方式です。

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