新型コロナワクチンとして脚光を浴びたmRNAですが、ワクチンのみならずがんなどの疾患に対する新薬としても開発も進んでいます。
mRNAワクチンでは体内に投与されたmRNAがタンパク質を合成することで効果が発現しますが、当初はmRNAは体内で分解されたり、炎症を起こすことなどが課題となっていました。
その課題を解決するカギの一つがシュウドウリジンであり、ヤマサ醤油はシュウドウリジンを生産する世界に数社しかないメーカーの一つです。
シュウドウリジンとは何か、またなぜヤマサ醤油がシュウドウリジンを開発したのかについて解説します。
1.シュードウリジンとは
シュードウリジンは核酸化合物の一種です。核酸化合物とは何かという話になりますが、これはDNAやRNA(核酸)を構成する化合物ということになります。
つまりシュードウリジンは、DNAやRNAの構成材料なのです。
大学で生物を学ばれた方はご存知とは思いますが、私たちの体に含まれるRNAはアデニン、シトシン、グアニン、ウラシルといった塩基をもつ核酸化合物にて構成されています。
医療に使われるmRNAもこうした核酸化合物から合成されているのですが、mRNAワクチンではウラシルを有するウリジンが、シュードウリジンに置き換わっています。
構造をみるとウラシルの部分が異性体となっただけであり、大した違いはないようにも見えます。しかしmRNAのウリジンをシュードウリジンに置き換えることによって、体内の免疫機構を通過し炎症反応が起こらなくなるようです。
これによりmRNAワクチンの実用化が可能となり、全世界にコロナワクチンが迅速に普及することとなりました。
mRNAワクチンについては、こちら(mRNAワクチンに用いられる化学技術と日本の化学メーカー)の記事で紹介しています。
ちなみにシュードウリジンは英語で書くと"pseudouridine"であり、擬似ウリジンとうい意味になります。
シュードウリジンはtRNAなどで広く見られるようです。
2.ヤマサ醤油はなんの会社
1645年創業で千葉県銚子市に本社を置くヤマサ醤油は、その名の通り醤油などの調味料メーカーであり、醤油業界ではキッコーマンに次ぐ2位のシェアを有しています。
そんなヤマサ醤油の特色は、うま味調味料の開発を端に発し医薬品や化成品事業を展開している点です。
実はうまみであるイノシン酸やグアニン酸は核酸化合物に分類され、ヤマサ醤油はうまみ素材として核酸化合物の開発も進めてきました。
ヤマサ醤油は1970年代から医薬品分野への参入も開始し、新型コロナワクチンの開発が始まる前の1980年代からシュードウリジンを試薬として販売していたのです。
ヤマサ醤油は今後の需要も見越して、これまで培った製造に関するノウハウを生かして、シュードウリジンの増産体制を強化するようです。
ヤマサ醤油の医薬品売上は全体の1割程度ですが、将来的には主力の醤油に並ぶ事業への育成を目指します。
現状mRNAワクチンのサプライチェーンは欧米が強みを持っていますが、日本メーカーも参入できるか、今後も動向を要チェックですね。
(日本化学メーカーのバイオ医薬への参入については、こちらの記事で紹介しています。)
日本人特有なうまみの存在が、世界に数社しか持たないシュードウリジンの生産技術につながりました。