2021年4月の気候変動サミットにおいて、菅前首相は30年度に温室効果ガスを13年度比で46%削減するとして、従来目標の26%から引き上げを表明しました。
それに伴い化学メーカー各社も2030年に向けた温室効果ガス削減目標を打ち出しています。
今化学業界では、品質やコストに加えて環境貢献が競争要因に加わることとなっており、持続可能社会に資する製品提供が求められているのです。
各社が掲げる二酸化炭素の削減目標やその取り組みについて解説します。
なぜ温室効果ガスの削減を目指すのか
2020年10月におこなわれた所信表明演説で、菅前首相は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロを目指す「2050年カーボンニュートラル」を宣言しています。
30年度についても温室効果ガスを13年度比で46%削減すると従来目標からの引き上げを表明しており、温室効果ガス排出量削減に向けたかじ取りが進められています。
このような動きは国内に限らず、気候変動問題に関する国際的な枠組み「パリ協定」や、持続可能な開発のための目標である「SDGs」などが採択されているように、全世界的にみても環境問題への関心が高まっています。
ではなぜ温室効果ガスの削減が意識されているのでしょうか。これには大きく分けて下記の二つの背景があります。
・気候変動問題や、人口増加などによる世界的なエネルギー不足 ・成熟した製造業を成長させる原動力とするため
一つ目については、地球温暖化による気候変動や現代社会の持続可能性が国際的な課題となっているのです。
温室効果ガスによる地球温暖化は広く認識されており、大寒波やハリケーンといった異常気象の頻度増加もその一要因ではないかと推測されています。
環境問題に加えてエネルギー不足も懸念されており、というのも2050年には人口が100億人を突破するとされ、さらに中流世帯の比率も高まると考えられています。
それにともない車や電力の使用量も大幅に増えると予想されるため、現在の石化資源に依存した生活を続けていては人類の持続的な成長は望めないのです。
そして二つ目の背景は、カーボンニュートラルへの挑戦が次の成長の原動力につながると考えられていることです。
化学業界は医薬品や半導体・自動車関連材料などでは大きな伸びが期待されますが、多くの分野については成熟期に入っています。
そのような中「2050年カーボンニュートラル」という目標が掲げられたことで、世界的に大胆な投資をする動きがあいつぐなど、気候変動問題への対応を“成長の機会”ととらえる潮流が加速しています。
カーボンニュートラルやESG投資については下記記事で紹介していますので、詳細はこちらをご参照ください。
環境、経済の両面から二酸化炭素の削減が求められているのです。
化学メーカー各社の温室効果ガス削減目標
では実際に、化学業界はどれくらいの二酸化炭素を排出しているのでしょうか。
二酸化炭素の排出量を部門別にみると、まず産業分野はエネルギー転換(発電等)に次ぐ2番目のボリュームを占めています。
化学業界は産業部門の中では鉄鋼に次ぐ15%程度を排出していると見積もられており、サプライチェーン全体で見ると二酸化炭素を多く排出している分野となります。
したがって2030年排出量46%削減へ向けて、化学メーカーも温室効果ガス削減に向けた取り組みが必要とされているのです。
ではどのように二酸化炭素の排出量削減に取り組めば良いのでしょうか。
温室効果ガスの削減には、先に目標を宣言し長期計画からバックキャストして対策を練る方針が一般的であり、各社が排出目標を打ち出しています。
各社の温室効果ガス排出量と打ち出している目標を下記にまとめました。
13年度排出量 | 19年度排出量 | 30年度排出量目標 | |
三菱ケミカルHD | 非算出 | 1,663 | 1,180 (19年度比29%減) |
住友化学 | 954 | 722 | 668 (13年度比30%減) |
三井化学 | 615 | 506 | 369 (13年度比40%減) |
昭和電工 | 500 | 450 | 350 (13年度比30%減) |
旭化成 | 511 | 399 | <358 (13年度比30%以上減) |
積水化学工業 | 94 | 88 | 71 (13年度比26%減) |
AGC | 987 | 1,136 | 795 (19年度比30%減) |
DIC | 72 | 58 | 36 (13年度比50%減) |
各社の二酸化炭素排出量をみると、多くのメーカーで19年度は13年度と比較して排出量を削減しており、2030年度までにさらに30%前後の排出量削減を掲げています。
また排出量をみると総合化学メーカーで多いことがわかります。
事業規模が大きく、ナフサクラッカーなど規模の大きなプラントを有していることなどが要因と考えられ、二酸化炭素排出量削減に向けた取り組みが求められます。
各社が二酸化炭素排出量の削減目標を掲げています
CO2削減に向けた取り組み
今化学業界では、品質やコストに加えて環境貢献が競争要因に加わることとなっており、持続可能社会に適した企業経営が求められています。化学メーカーは各々温室効果ガス削減に向けた目標を掲げていますが、具体的にはどのようにして温室効果ガスの排出量を削減するのでしょうか。
今回は総合化学メーカー2社の取り組みについて紹介したいと思います。
三菱ケミカルHDの取り組み
三菱ケミカルHDは2050年温室効果ガス排出量実質ゼロを宣言しており、中間目標として2030年には海外含むグループ全体の排出量を29%削減(19年度比)を掲げています。
30年目標の寄与度は7割が外部要因、3割が内部要因としています。
まず外部要因については電源構成の改善によるもので、30年度に日本の電力のCO2排出係数が引き下がることを前提としています。(0.486kgCO2/ kW時→0.273 kgCO2/ kW時)。
次に内部要因については、製造プロセスの原単位改善や自家発電用燃料の転換といった自助努力をあげており、30年までに1000億円の設備投資を準備するとしています。
また22年度には社内炭素価格制度(インターナルカーボンプライシング)の導入も検討しており、二酸化炭素の削減量を可視化することで設備投資の判断基準の一つとするとしています。
また2050年カーボンニュートラル達成に向けては、購入電力のCO2フリー化、バイオマスナフサ、CO2の資源化、水素・アンモニアSC実装など新技術の確率を進めるとしています。
昭和電工の取り組み
昭和電工も2050年カーボンニュートラル実現を目指すと発表しており、そのマイルストーンとして、2030年には温室効果ガスを30%削減する目標を設定しています。
2030年までは合理化・効率化・熱源転換を積み上げ二酸化炭素を削減するとしており、自社火力発電のテコ入れが柱の一つです。
具体的には高効率ガスタービンでのコージェネレーションシステム、二酸化炭素排出量の少ない燃料への転換などを計画しています。
2030年以降は技術的なブレイクスルーを目指しており、アンモニア水素への燃料転換、CCUによるカーボンリサイクル、生産プロセスの電化などに取り組むことで大幅な削減を目指すそうです。
またケミカルリサイクル事業にも注力する見通しで、すでに使用済みプラスチックをガス化して水素と二酸化炭素を取り出す「KPR」 で実績を有しています。
昭和電工はさらに廃プラスチックを油化してエチレンやプロピレンを製造する技術開発にも取り組んでおり、2030年ごろの技術確立を目指しています。
2050年カーボンニュートラルの達成には、技術革新が求められているのです。