業界の動向

【代替肉】フードテック、化学でステーキは作れるか【培養肉・植物肉】

 みなさまは人工肉をご存知でしょうか。

 植物由来タンパク質や人工培養したタンパク質をもとに食用肉を作る取り組みですが、昨今のSDGsとも深く絡み、その市場規模は10年で3倍となる成長領域なのです。

 各社技術の確立に向けてしのぎを削っており、食卓に人工肉が並ぶ日も遠くないかもしれません、今回はそんな人工肉について解説します。

なぜ人工肉が求められるのか

食用肉需要の爆発的な増加

 そもそもなぜ人工肉が注目されているのでしょうか。

 その背景には大きく2つの要因があり、そのうちの1つが世界的な人口増加と新興国の経済成長による相乗的な食肉需要の増加です。

 食用肉は必須アミノ酸を全て含む重要なタンパク源であり、日々の食卓からお祭り、祝い事などに欠かせない食材となっています。

 しかし世界人口は2050年までに100億人を突破する勢いであり、全ての人を飢えさせないためにはさらに多くの食料が必要となります。

・人口増加により、必要な食料が増加
・新興国の経済成長により、食用肉をたくさん食べる人も増える

 そして食用肉に限って言えば、人口増加分をはるかに超える作物を生産する必要があるのです。

 というのも、人間に1キロカロリー分の鶏肉を提供するには、鶏に2キロカロリー分の穀類を与える必要があるのです。

 同じく豚では3キロカロリー、牛ではなんと6キロカロリーの飼料が消費されるため、100億人の食料を確保するためには現在の何倍もの植物が必要となります。 

 しかし水・土地の不足、土壌劣化、生物多様性の減少、より深刻さを増す自然災害の直面により、従来の畜産ではこれから増える需要をまかないきれないと懸念されているのです。

SDGs 飢餓をゼロに

畜産がまねく環境問題

 もう1つの要因が環境問題。

 あまりイメージがないかもしれませんが、牛などを育てる畜産は温室効果ガス排出要因のひとつなのです。

 畜産で排出される温室効果ガスは二酸化炭素ではなく、牛などのゲップや糞に起因するメタンや亜酸化窒素です。

 反芻動物は胃の中にセルロースを分解する酵素を有しており、それが発酵する際にメタンが生成、牛はゲップやおならとしてメタンガスを排出します。

 また反芻動物だけでなく全ての動物が排出する糞も温室効果ガスの発生源であり、糞は分解されると亜酸化窒素やメタン、硫黄ガスやアンモニアなどが発生するのです。

二酸化炭素以外の温室効果ガスが発生するんだね、、

 そして実はこのメタンや亜酸化窒素は、二酸化炭素の何十倍もの効果を有する温室効果ガスなのです。

 世界中でおよそ10億頭の牛が育てられており、その牛たちが排出するメタンの量は二酸化炭素換算で20億トン分の温室効果があり、これは日本の二酸化炭素排出量よりも多くなります。

 人口増加により畜産も拡大すれば、決して無視できない量の温室効果ガスが排出されてしまいますし、耕作地確保を目的に森林破壊による野生動物の生息環境の破壊なども問題となります。

このほかビーガン(菜食主義者)の広まり、食料安全保障なども一要因となっています。

植物肉の化学

 代表的な人工肉が植物肉です。

 大豆といった植物由来のタンパク源を使用し、化学技術も駆使しながら食用肉を真似たものとなります。

 植物由来であるため、生産に使用する土地や水、飼料の量が少なく温室効果ガスの排出も抑制でき、また健康志向の高まりから従来の食肉に変わるタンパク源としても注目されています。

一部のスーパーでは、もう植物肉が販売されているよ

 一方で課題となるのが食感や味わいです。

 生体の筋肉組織は、収縮能をもつ細長い筋繊維が束場に集まった筋束を形成しており、この構造が食肉特有の食感を生み出していると考えられています。

 しかし植物タンパクでこの構造を再現することは難しく、現状の人工肉はミンチ肉状となっているのです。

 したがって化学メーカー各社も植物肉に本物のような食感や味わいを付与しようと画策しており、信越化学工業は本物に近い食感を与えるセルロース誘導体を開発しています。

 植物パルプが原料のこの製品は、可逆的熱ゲル化性を有し、食材を結着して弾力性を与えることができます。

 幅広い温度領域でゲル状態を維持することでレンジでも形状を保持、製造時の火ぶくれ防止や重量維持などで歩留まり改善、大量生産に貢献できるといいます。

 他にも食材のつなぎである卵白の代替としても期待されます。

 また日油は植物肉のジューシー感をアップさせる新素材「大豆たんぱく擬似脂肪」を開発しています。

 植物肉ハンバーグは大豆由来が多くを占めるものの、加水した脱脂大豆を用いているためパサついた食感になりやすいという課題がありました。

 日油の大豆タンパク擬似脂肪は油脂を30-50%含んでおり、ハンバーグに混ぜることで簡単に油脂感を付与できます。

 扱いやすい粒状にすることで作業性を改善し、ハンバーグ以外の用途を想定しているとのことです。

実は化学メーカーも食用肉市場に参入しているのです。

培養肉の化学

培養肉のサンプル
開発中の培養肉(日清食品HPより)

 人工肉の最先端で今も研究が進む分野が、実験室で肉そのものを育てる培養肉です。

 牛や豚などから実際に採取した細胞を培養により増やし、組織を形成することで作られます。

 実際の肉と同じ動物の細胞を原料とするため、味や食感だけでなく、成分や組成まで実際の肉を再現できる可能性があります。

 培養肉は温室効果ガスをほとんど排出せずに育てることが可能で、省スペース・省資源で気候変動に左右されない食肉生産にも繋がります。

 世界各国でスタートアップ企業や大学が実用化に向けた研究に取り組んでおり、2013年にマーストリヒト大学では牛の筋肉細胞を基に培養ミンチ肉を開発、そのお値段はなんと3000万円超でした。

作成された培養肉(出典

 一方でこの培養肉に関しても筋管がランダムに配列したミンチ肉状であり、ステーキのような食感を目指して三次元配合した筋組織の形成について研究が進んでいます。

 2019年には東大・日清食品による培養ステーキ肉も発表しており、培養肉で本物のような食感を有する肉を開発しています。

 具体的な作成方法ですが、まず培養肉を作成するには、筋肉細胞から筋肉組織を形成する必要があります。

 まず筋肉組織のもととなる筋芽細胞と呼ばれる未熟な筋細胞を培養で増やし、三次元培養、細長い筋管へ分化、さらに分化が進むことで筋繊維が形成されます。

培養肉でも筋線維の再現が非常に難しいようです。

これからの人工肉市場

 これからの人工肉の市場はどうなるのでしょうか。

 欧米では年々植物肉市場が拡大しており、調査会社TPCマーケティングによると2020年度の市場規模は前年度比28.5%増の1兆2735億円、この10年で3倍に成長しています。

 一方日本では成長が鈍く、植物肉市場は200-300億円程度と海外に比べると小さくなっています。

 ネックとなっているのがコスト面で、海外では植物肉は食用肉より高くて当たり前と消費者理解が進んでいますが、日本では食肉よりも安価品という位置付けです。

 また日本ではビーガンや環境問題と、植物肉が結びついていないことなども要因です。

日本では人工肉は流行らないのかな

 しかし今後は環境意識や健康志向の高まりで植物肉も需要は拡大するとみられており、日本市場においては味や食感といった品質をどこまで食肉に近づけられるかが鍵を握るかもしれません。

 また培養肉は技術やコスト、規制面が未整備のため、食卓に並ぶにはまだ時間がかかりそうです。

 特に培養肉はこれまで誰も食べたことがない新しい食品であるため、技術・コスト的なハードルのほか、安全性の担保や消費者の抵抗感などが課題となります。

人工肉は持続可能社会の達成において必要不可欠なだけに、技術の発展が期待されます。

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