2021年に化学業界を騒がせたENEOSによるJSRエラストマー事業の買収、みなさま覚えておりますでしょうか。
石油元売のケミカルシフトや化学メーカーの高付加価値製品への集中投資など、これからの化学業界を象徴するような出来事でした。
買収を受けたJSRエラストマー事業の新会社名も決定し、事業の編成も見えてきましたので、今後の動向について考察しました。
動画でも解説していますので、良ければご覧ください。
新会社名は「ENEOSマテリアル」に
2021年5月、JSRによるエラストマー(タイヤなどの合成ゴム)事業の売却は化学業界に大きな波紋を起こしました。
半導体材料やバイオに舵を切るJSRと、石油需要減少から素材産業への参入を図るENEOSの思惑が一致した形でしたが、これはこの2社間だけでなく、石油企業のケミカルシフト、コンビナート問題、日本の産業力結集などの近年の化学業界の課題が包括されており、日本の化学業界全体を活性化させる大改革でした。
詳しくは下記記事でまとめていますので、こちらをご参照ください。
時代の流れを象徴する買収劇だったんだね。
そして2021年11月、ENEOSは2022年4月をめどにJSRより全株式を取得し、エラストマー事業を含む子会社・関係会社を継承する新会社を「ENEOSマテリアル」とすると発表しました。
本社所在地は東京都港区にある現JSR株式会社本社と同じビルで、資本金は10億円となっています。
ちなみにあまり関係ないですが、昭和電工に買収された日立化成も昭和電工マテリアルズになりましたね。
日立化成の買収については下記記事をご参照ください。
2022年春から新体制が始まるようです。
ENEOS、機能材関係の新体制を発表
買収されたエラストマー事業は今後どうなるの?
ENEOSは2022年春のJSRエラストマー事業買収を機に機能材事業の再編に乗り出し、新会社であるENEOSマテリアルとENEOSテクノマテリアルの2社中心の体制とするようです。
新たに発足するENEOSマテリアルでは、JSRのエラストマー事業をはじめ、ENEOS本体の機能材カンパニーからモノマーや液晶ポリマーといったポリマー事業を集約します。
JSRエラストマー事業の強みであるS-SBR(溶液重合ブタジエンスチレンゴム)は成長分野と位置づけ、既存工場の増強や新工場設置を検討しています。
またENEOSの機能材事業にJSRの有する重合技術や製造技術が加わることで新たなシナジーにも期待しており、5年以内にJSR四日市工場の敷地内に新会社の研究棟も設けるそうです。
新会社で主力事業を伸ばしつつ、ENEOSとの融合を進めるんだね。
他方、既存のENEOSテクノマテリアルには不織布やニュートリション、植物工場などの事業を集める方針です。
ENEOSの有するアスタキサンチンなどのバイオ技術もここに組み込まれます。
ENEOS 機能材事業の再編
ENEOSマテリアル(新会社)…JSRエラストマー事業含むポリマー事業
ENEOSテクノマテリアル(既存会社)…繊維や農業関係など
ENEOSグループは長期ビジョンに"アジアを代表するエネルギー・素材企業"という目標を掲げており、その方針に沿ったポートフォリオ転換のようですね。
新会社はポリマー関係を集約させ、会社として素材に注力するようです。
ENEOS 機能品事業の動向
どうしてENEOS本体の機能材カンパニーも再編されるの?
ENEOSの機能材事業は数年前まで電子材料を重点領域とし、スマートフォンやタブレット向け部材で高い市場シェアを誇る製品もありましたが、中国などの新興国の追い上げで一部製品では汎用品化しつつありました。
このように競争環境が厳しかったり、長期視点の研究開発が必要な領域などについては事業の見直しを進めているのです。
競争の激しいリチウムイオン電池の負極材事業も見直し対象とする一方で、バイオ燃料や航空燃料を絡めたバイオ技術の研究開発を進め、生産委託加工中心の加工業を縮小するなど経営にメリハリをつけています。
競争力の低い事業(LiB負極材・加工領域)は仕切り直しつつ、重点領域(バイオ・エラストマー)にも注力
資金力のあるENEOSの強みが出ているね
ケミカルシフトを加速するENEOSですが、本体の機能材カンパニーでも高機能エラストマーを相次ぎ開発しています。
オレフィン系樹脂に独自の架橋技術を施すことで、耐熱性と異種材料との接着性や流動性を両立させたり、軟質高流動、高い導電性を実現した製品で、EVといった次世代車に焦点を当てているのです。
JSRはタイヤ以外のエラストマーに関する知見も豊富で機能剤の販売チャネルも有することから、ENEOSは高耐熱などの機能を追求し、自動車分野での事業拡大を目指します。
タイヤ周りではJSRのブタジエンスチレンゴムとENEOSのタイヤ燃費向上に資するシランカップリング剤、グリップ性を高める粘弾性エラストマー、石油樹脂とのシナジーが期待されます。
今後も高機能剤品の開発に踏み込み、今後はJSRとの技術の融合や量産設備を活用しながらEVなどに攻勢をかける動きのようです。
両者のエラストマー技術の融合に期待しましょう。