みなさまは今、石油コンビナートが岐路に立たされていることをご存知でしょうか。
これはコンビナートの立地企業のみならず、地域産業や国家戦略とも密接に絡み合う問題であり今まさに変革に向けて議論がなされている分野なのです。
今回は石油コンビナートとは何か、そしてなぜ変革を迫られているのかを解説し、将来どのように変わるのかも紹介したいと思います。
コンビナートとは
まずコンビナートとは何かご存知でしょうか。
コンビナートとは石油化学など多様な企業らにより形成される工業団地のことで、川上の石油精製メーカーから下流の誘導品メーカーまでさまざまな企業が石油コンビナートを営んでいます。
コンビナートを理解するには石化産業を知る必要がありますが、これは名前の通り石油を原料に作られる化学製品を扱っており、私たちの身の回りにあるプラスチックやゴム、合成繊維などさまざまなものが石油を原料としています。
この原油から製品までの流れをもう少し詳しく解説すると、まず油田から得られた原油はENEOSなどの石油精製メーカーでガソリンや灯油、重油などに分離されます。
化学メーカーはその中でもナフサと呼ばれる留分を原料に化学製品を製造するのですが、ナフサそのものはガソリンのようなもののため、一度分解することで基礎化学品とします。
そこで用いられるのがナフサクラッカーやエチレンプラントなどと呼ばれる装置で、ナフサクラッカーではナフサを分解・精製することでエチレンなどの基礎化学品を生成しています。
このエチレン等の基礎化学品から、プラスチックをはじめとする誘導品が作られることになります。
具体的に茨城県鹿島コンビナートの例を挙げると、ENEOS系列の鹿島石油が三菱ケミカルへナフサを供給し、ナフサクラッカーより精製された基礎化学品がコンビナートを形成する各企業へパイプラインで提供されます。
このようにナフサクラッカーを有する総合化学や石油精製企業を中核企業とし、上流の石油精製メーカーから下流の誘導品メーカーのほか、発電会社など多様な会社が企業連合を構築することで、大規模な設備やインフラによる生産性向上や大量の原料・製品の搬送の効率化が図られているのです。
このようなコンビナートは太平洋ベルトを中心に全国計15箇所存在しており、日本の高度経済成長を支え、今でも石油化学部門は化学業界で最も出荷額が多いのです。
しかし産業の雄であったコンビナートですが、それももはや過去の栄光となりつつあるのです。
コンビナートの危機
日本の産業に不可欠な石油コンビナートですが、今やさまざまな理由で岐路に立たされています。
一つ目の理由は産業構造の転換です。
日本の高度経済成長を支えた重化学工業も、1970年代には二度のオイルショックを経験し頭打ちし始め、その後は重厚長大産業からコンピューターと言ったハイテク産業が台頭してくることになります。
加えて人口減少や産業の空洞化による市場の縮小、エネルギーコストの上昇により今後も大きな成長は見込めないのです。
二つ目が国際的な競争力の低下です。
コンビナートで産出する基礎化学品はどこのメーカーでも基本的に同じ製品となるため差別化が難しくなるのですが、このような製品はコモディティ(汎用品)と呼ばれ、付加価値が低いため価格競争に陥りやすい特徴があります。
一方で国際情勢に目を向けると、安価な天然ガスを原料とする中東諸国の進出やシェール革命による米国でのエチレンプラントの増産、最大の需要地であった中国においても、リーマンショック以後の景気刺激策による汎用石化プラントの新設など、各国で最新の大規模設備が作られ世界的に競争が激化していたのです。
対して日本は非資源国である上に設備、電力、人件費も割高、諸外国に比べると設備も小さく、加えて高度経済成長期に建てられたプラントは老朽化しており、価格競争では圧倒的に不利なのです。
このような八方塞がりの中、近年のパリ協定やSDGsの潮流を受けた脱炭素化も追い討ちをかけています。
というのも、温室効果ガス排出量を国内業種別にみると化学と鉄鋼は二大排出産業である上に、エネルギーを多く消費するため発電所も抱えており、コンビナートはCO2多排出産業なのです。
したがって昨今のCN達成に向けた温室効果ガス削減は必須で、コンビナートの変革はもはや避けては通れない道となります。
このようにさまざまな要員からコンビナートの将来性が危ぶまれているのですが、コンビナートの危機は参入企業の経営悪化に止まらず、地元産業の地盤沈下、国家の存在感低下にもつながる問題で、企業、国、自治体それぞれが対応を迫られているのです。
生まれ変わるコンビナート
このような背景を受けて官民学それぞれがコンビナートの対応を進めているのですが、経済産業省 資源エネルギー庁はCO2を多く排出するコンビナートの脱炭素化を効率的に進め、2050年CNを達成すると同時にコンビナートの復権も図る戦略を掲げており、これこそがCNK構想なのです。
具体的には脱炭素エネルギーへの転換と炭素循環マテリアルの二本柱となっており、まず脱炭素エネルギーから解説します。
先ほども少し述べましたが、コンビナートは発電などに多くの燃料を使用しているため、環境負荷の低い新たな燃料が必要とされています。
そこで着目されているのが水素やアンモニアです。
水素やアンモニアは石油などの化石燃料と異なり、燃焼させても二酸化炭素は発生しません。
そこで水素やアンモニアといった脱炭素エネルギーへ燃料を切り替えることでコンビナートのCNを達成するだけでなく、コンビナートの有する港湾、物流インフラ、そして需要地へのアクセスへの良さを活かし、脱炭素燃料の受け入れ・生産・供給拠点としてコンビナートを活用しようとしているのです。
この取り組みでは川崎のコンビナートが先行しており、川崎市は2050年に向けて川崎CNK構想を策定、水素を軸としたエネルギー供給拠点として、首都圏へのCNエネルギー供給も視野に入れています。
水素を軸としたエネルギー供給拠点として、首都圏へのCNエネルギー供給も視野に入れています。
コンビナート間の競争を促す仕組みを検討しており、川崎市の例は一つのベンチマークとなりそうですね。
続いて資源循環マテリアルですが、これはコンビナートを廃棄プラスチックなどのリサイクル拠点とするものです。
海洋プラスチック問題や脱炭素といった持続可能社会の達成などが叫ばれる昨今、これまでのプラスチックを大量生産・大量廃棄する仕組みから石化資源の消費を抑制しゴミの量も減らす、プラ資源循環型経済への転換が求められているのです。
そこで大手総合化学メーカーが実証を始めているのがプラごみのケミカルリサイクルであり、なかでも三菱ケミカルとENEOSは共同で廃棄プラスチックのケミカルリサイクルに挑戦しています。
こちらがその全体像であり、順を追って解説します。
まずリファインバース社が、産業廃棄物や建設廃棄物などから廃棄プラスチックを調達します。
集めた廃プラは超臨界水という高温高圧条件下で生じる液体でも気体でもない状態の水を用いて分解し、得られた分解油を三菱ケミカルとENEOSが連携して石油精製装置およびナフサクラッカーで処理することにより、廃棄プラスチックからプラスチック製品や石油製品を得ることができるのです。
コンビナートは安全性が高く、こうした実証実験を行うには適した場所であり、三菱ケミカルとENEOSは鹿島地区で現在実証に向けた実験を進めています。
これまでの環境負荷の高いコンビナートから、脱炭素の中核拠点として生まれ変わる日も近いのかもしれませんね。