メーカー紹介

積水化学の企業分析

日本のお家芸とも言える化学業界ですが、その強みや取り組みは業界外の人に伝わりにくいため就活生は企業選びに苦戦し、株式市場でも正当に評価されていない企業が多く存在しているのです。

本シリーズでは化学企業に焦点を当て、事業内容、財務状況、歴史、ワークライフバランスに将来性といった観点から解説していきます。

最後には株式投資の対象としてもどうなのか、紹介したいと思います。

積水化学の概要

今回紹介する企業は積水化学工業です。

積水化学は東京と大阪に本社を置く化学メーカーで、2021年度の売上は1兆円を超える大企業です。

会社四季報2022年3集夏号より

主力事業はセキスイハイムを中心とする住宅と、ガラス中間膜などの高機能プラスチックであり、化学業界の中において積水化学は原料を購入し誘導品を作る川中から川下よりに位置しています。

なぜ化学メーカーが住宅事業まで手がけているのでしょうか、まずはその歴史から簡単に見てみましょう。

積水化学の歴史

なぜ化学メーカーが住宅事業まで手がけているのでしょうか、まずはその歴史から簡単に見てみましょう。

1947年戦前の財閥である日窒コンツェルン解体に伴い、プラスチック部門から積水産業として創業しており、同じく日窒コンツェルンを源流とする信越化学や旭化成とは実は兄弟企業なのです。

なおこの社名となった積水は中国最古の兵法書『孫子』にある言葉

「勝者の民を戦わしむるや、積水を千仭の谿に決するがごときは形なり」

に由来し事業活動をするうえで、十分に分析・研究、準備をしてから、万全の状態で積水の勢いをもって勝者の戦いをすることが大切であるという意味が込められているようです。

現代において、よく準備せずに力技で物事をこなす様を“えいや”というのですが、積水はこれの逆の意味なんですね。

繊維を得意とした旭化成、無機に強みを持つ信越化学に対して積水化学はプラスチックの成形加工を目指して誕生しており、セロテープといった日用品から塩ビパイプのようなインフラ資材、1970年ごろには戸建て住宅に進出し事業を拡大、住宅、インフラ、高機能プラスチックをコアとする現在の礎が築かれています。

プラスチックのパイオニアであった積水化学が住宅まで事業を拡大できた要因の一つが社会課題解決であり、社是である3S精神のもと、技術を持って社会の要請に向き合い続けた結果とも言えるのです。

一方で積水化学も順風満帆に成長したわけではなく、2000年前後には住宅バブルの崩壊やIT不況などの影響を受け営業利益が600億円を超えていた1996年度の2年後、1998年には営業赤字を記録していたのです。

しかし積水化学も緊急経営施策を実施、固定費削減や生産規模縮小など構造改革を断行しており、この時に導入されたのがカンパニー制です。

カンパニー制では各カンパニーに執行役員会を設置するなど取締役会から大幅な権限を委譲しており、各事業を独立して運営することで経営の意思決定スピードアップを図っているのです。

2021年度決算および経営計画説明会資料より

こうした選択と集中や経営の効率化により積水化学は復活を果たし、現在の姿となっているのです。

積水化学の事業内容

続いて積水化学の事業内容を解説していきましょう。

積水化学は高機能プラスチック、住宅、環境LL、メディカルの4つの事業を有しており、化学系事業に加えて住宅も手がけている点が特徴的で、化学企業だと旭化成も住宅事業を有していますね。

これら4つの事業の売上・営業利益をみてみますと、前期はコロナ禍からの経済回復を受けて増収増益となっています。

積水化学21年度カンパニー別売上高・営業利益
()内は前年比増減

売上高では住宅事業が5000億と全体の半数近く稼いでいますが、営業利益では高機能プラスチックが最も稼いでおり、積水化学の主力事業なのです。

また規模では劣るものの、積水化学4つ目の柱であるメディカルも前期は年度最高益を更新し成長しています。

まずは主力の3事業について詳しく見ていきましょう。

住宅事業

はじめは住宅事業ですが、こちらはセキスイハイムでお馴染みなのではないでしょうか。

ちなみにセキスイハイムと積水ハウスは全く異なった会社で、セキスイハイムは積水化学の事業なのに対して積水ハウスは1960年に積水化学から独立した企業なのです。

元は同じ会社でしたが、今や積水ハウスは売上が2兆円を超えるハウスメーカーへと成長しています。

話を戻してセキスイハイムの特徴は住宅を工場で生産し現場で組み立てるユニット工法にあり、工場で生産するため品質が安定しており工期も短い利点があります。

この工法には積水化学の工場生産の技術が活かされており、プレハブメーカーの中では2位グループに位置し今でも積水化学の収益の柱となる一大事業なのです。

高機能プラスチック

続いて高機能プラスチックですが、こちらは積水化学が持つプラスチック技術を活かした事業で、自動車やエレクトロニクス材料、住宅インフラ材の3分野を中心にさまざまな材料を扱っています。

自動車材料ではガラス中間膜が大黒柱で高いシェアを誇っており、ガラスの飛散防止、紫外線カット、衝撃吸収といった機能を付与しています。

近年ではヘッドアップディスプレイ といった高機能膜が伸長しており、積水化学も注力しているようですね。

2021年度決算および経営計画説明会資料より

エレクトロニクスでは導電性微粒子やテープ材などを扱い液晶材料に強みを持っていましたが、近年は半導体材料など非液晶も強化し売上を順調に伸ばしています。

2021年度決算および経営計画説明会資料より

このように高機能プラスチックカンパニーでは時代の要請にあった製品を展開することで高収益を達成しており、積水化学の技術力を象徴する事業と言えるでしょう。

環境ライフライン

最後は環境ライフラインカンパニーです。

塩ビ管、ポリエチレン管といった配管材を手がけており、積水化学は塩ビ管ではトップクラスのシェアを誇っています。

他にもユニットバスや、航空機の内装といった輸送インフラ資材も手がけるなど、先ほどの高機能プラスチックと比べると製品がマクロで分かりやすい事業ですね。

インフラ事業自体は底堅い需要が見込めるものの、高い利益率が期待できる分野でもない点がネックですが、海外や重点拡大製品の拡販を進め成長していく方針のようです。

2021年度決算および経営計画説明会資料より

積水化学の財務分析

続いて財務指標などを分析しましょう。

まず前期決算を同等規模の化学系企業と比較すると、積水化学は売上高1兆円越えで利益率8%程度、市況が好況であった川上の三井化学や、ブランド力で高利益な花王には劣るものの積水化学も高収益企業です。

ここ数年の市況においても、コロナ禍での逆境の中比較的安定した営業利益となっており、多角化した事業や高付加価値製品のラインナップが拡充されていたことが安定化に寄与したと見られます。

ちなみに時価総額は8500億円と、化学系では住友化学と同等の規模感となります。

続いてROEとROAを見てみましょう。

ROEは資本、ROAは負債も含めた総資産に対してどの程度稼いだかを表す指標であり、ROEが10%、ROAは5%を超えて入れば優良企業と言われます。

積水化学のROEは5.5%、ROA3.1%と他社と比較してやや低い水準となっていますが、

過去の推移を見てみますと、2019年までは10%程度で推移していたことが分かります。

2020年以降はコロナ禍の影響を受けたのに加え、前期は米子会社の減損により純利益が減少していたためと見られ、今期はROEもコロナ禍以前の10%程度に戻る計画となっています。

会社四季報 2022年3集夏号

続いて財務状況を比較してみますと、化学業界の自己資本率は平均50%程度で高い水準と言われるなか、積水化学も自己資本比率56.3%と良好な水準となっています。

加えて22年3月時点では正味の負債比率であるネットD/Eレシオがマイナスとなっており、いわゆる実質無借金経営で底堅い財務状況が見て取れます。

2021年度決算および経営計画説明会資料より

安定した事業内容に健全な財務状況と極めて優良な企業に思えますが、昨今の情勢を踏まえると実は将来性に懸念材料があるのです。

積水化学の将来性

積水化学の事業内容にとって、昨今の情勢は向かい風と言えるのです。

まず足元を見てみると、主力の機能性プラスチックにとって半導体不足による自動車やスマホの減産は逆境であり、昨年末から続く原料高や物流混乱のしわ寄せも受けることになります。

また昨今の脱炭素の潮流を受けて、環境意識の高い欧米を中心に石油資源に依存しない脱プラが叫ばれており、車やスマホにおいても従来のプラスチックから環境負荷の低い材料への代替が検討されているのです。

加えて国内において住宅着工件数は減少傾向にあり、住宅事業も市場の拡大は期待できません。

人口が増加する海外においては市場の成長も期待できますが、住宅事業は海外展開が難しく、タイに住宅事業を進出しているものの、他社と比較しても積水化学の海外売上高比率は低い傾向にあるのです。

海外売上比率は各社HPより

このように短期的に見ても半導体不足や原料高が向かい風であり、長期的に見ると国内市場の縮小や脱炭素化が懸念されているのです。

しかし積水化学にとって、このような逆風は成長のチャンスでしかないのです。

積水化学はすでに持続可能性を意識したサステナビリティ製品の比率向上に努めており、2021年の売上のうち7割近くがサステナビリティ貢献製品によるものなのだそうです。

サステナビリティレポート2022より

こうした取り組みが評価されてか、積水化学は世界で最も持続可能性の高い100社 Global100に5年連続7回目の選出をされており、日本企業で最も高い22位にランクインしています。

最近は住友化学と共同で可燃ゴミからエタノールを得るバイオリファイナリー事業の実証にも取り組んでおり、これまで焼却処理していたゴミから資源を取り出す夢の技術となることが期待されています。

住宅事業もリフォーム事業や太陽光発電などを活用したスマートハウスを強化しており、ZEH(ネットゼロエネルギーハウス)の普及を目指すなど提案力の強化とサステナブルなまちづくりを進めています。

最後に第四の柱として育成してるのがメディカル分野で、近年は検査薬の需要を取り組み好調に推移しています。

他にも国内外で医薬品の有効成分となる原薬などの製造能力を増強しており、高齢化や健康志向の高まりを受けて新たな収益源として成長していくことが期待されます。

株価、ワークライフバランス

最後に株式市場での評価である株価とワークライフバランスを見てみましょう。

株価は1835円、PERやPBRを見ても事業内容や財務状況を評価されているのではないでしょうか。

会社四季報 2022年3集夏号より

特筆すべきは13期連続増配で今期も増配予定なのに加えて総還元性向が50%を越え、自社株買いも行うなど株主還元も積極的に行うようです。

2021年度決算および経営計画説明会資料より

ワークライフバランスについては、まず給料は900万円を越えて高年収なのですが、残業時間が化学業界の平均が14時間に対してやや長い印象も受けます。

就職四季報総合版 2022年版より

積水化学は若手のうちから裁量を任せてもらえる文化もあるようですので、忙しい中でもやりがいを感じることができるのではないでしょうか。

積水化学はカンパニー別採用を行っていますので、事前に興味のある事業を調べておきましょう。

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