業界の動向

【石化再編】三菱ケミカルは分離、三井化学や住友化学は連合結成か

三菱ケミカルGはかねてより石油化学の分離を公表しており、最近では三井化学に住友化学らも京葉地区で連携するなど、各社石油化学を取り巻く環境は大きく変わり始めており、ここにきて再編の機運が高まってきているのです。

その動向を解説します。

石油化学部門について

まず石油化学産業についておさらいしましょう。

これは名前の通り石油を原料に作られる化学製品を扱っており、BtoBの中間財であることから馴染みは薄いかもしれませんが、身の回りではプラスチックやゴム、衣料(合成繊維)のほか自動車や電子製品の部品も供給しています。

この原油から製品までの流れをもう少し詳しく解説すると、まず石油精製メーカーにより原油はナフサなどに分離されます。

続いて化学メーカーは分離されたナフサを原料にエチレンやプロピレンといった基礎化学製品を製造し、この基礎化学品から、プラスチックをはじめとする様々な石油化学誘導品が作られることになります。

石油化学産業について
経済産業省

今でも石油化学部門は化学業界で最も出荷額が多く、日本の製造業を支える基幹産業と言え、総合化学メーカーにとっても基礎化学品からの一環製造体制や規模の経済が強みとなっていました。

2018年 日本の化学業界の出荷額(工業統計表より)

このうちナフサから基礎化学品を産出するエチレン設備は全国の石油化学コンビナートに点在しており、三菱ケミカルや三井化学といった総合化学メーカー、ENEOSや丸善石油化学といった石油精製メーカーが運営しています。

しかしこの基礎化学品を産出し、石油化学産業の最上流に位置するエチレン設備が今や岐路に立たされているのです。

これまでも中国での石化プラントの新増設や米国でのシェール革命によるエチレンプラント増産が脅威であったのですが、加えて昨年はアラムコ社が韓国に70億ドル(約9200億円)を投資して石油化学工場を拡張すると発表しています。

化学産業の現状と課題
製造産業局素材産業課

アラムコ社はTC2Cと呼ばれる高効率なプロセスを実用化することで基礎化学品のコスト競争力を強化するとみられ、稼働予定は2026年と先ですが、アジアで基礎化学品が慢性的な供給過剰に陥り、日本企業への影響も指摘されているのです。

対して日本国内に目を向けると、人口減少や産業の空洞化による市場の縮小により、基礎化学品の内需と生産能力の乖離は緩やかに拡大しており、基礎化学品は供給過多の状況が続いているのです。

化学産業の現状と課題 製造産業局素材産業課

これまでも2014〜16年にエチレン設備を3基停止しており、以降国内エチレン設備の稼働率は90%を維持していたのですが、21年は生産と内需の差は178万トンとなるなど依然として余剰分は海外への輸出へ回っています。

今後も安価な原料を保有する資源国や最新の大型設備を新増設する新興国による基礎化学品への新規参入が相次けば、非資源国である上に人件費等も割高、加えてプラントも老朽化した日本の化学メーカーはコスト競争で苦戦すると考えられます。

また足元でも原燃料高が石油化学事業の収益を圧迫しており、需要低迷による市況悪化のダブルパンチを受けた結果、石油化学が売上の1〜5割を占める総合化学各社は昨年後半から利益を押し下げられています。

石油化学は市況次第では大儲けする事業ではあるものの、利益を稼ぐのに必要な投下資本が大きすぎて非効率な面もあり、今後国際競争力をかいた設備は収益確保が困難となると予想され各社構造改革を迫られるようになっているのです。

再編に向けた動向

このような環境変化を受けて、国際的な競争力を高めるためにも石油化学事業の再編を進める機運が高まっており、三菱ケミカルGのジョンマークギルソン社長は業界のリーダーとして石油化学の再編を進めるとしています。

ギルソン社長は「エネルギーや原料を転換し、価格競争力を高めるには数社の巨大な石化会社に集約することが理想だ。」、基礎化学品を産出するエチレン設備含むコンビナートも「3つか4つで十分ではないか」としており、基礎化学品を産出する石油化学事業の横の統合を進めようとしているのです。

というのも基礎化学品(エチレン)の供給能力について、日本企業は世界トップ層の規模感とは大きく異なっており、世界最大手のBASFは石油化学から機能性化学品へのシフトを進めています。

化学産業の現状と課題 製造産業局素材産業課

海外メーカーによる選択と集中が進む中、三菱ケミカルGの石化部門は収益性やボラティリティの大きさに悩まされ、ギルソン社長は「日本は構造改革を成し遂げないと競争に負ける」と危機感を強めているようです。

そこでギルソン社長は自社の石油化学事業について2023年度中に分離・独立させる方針を示し、ジョイントベンチャー形式を活用し同業との統合を模索するとしています。

ジョイントベンチャー形式は複数の企業が出資し新会社の運営を行うものであり、石化事業を完全に手放すのではなく、同業との連携で資本力を増し出口を探る方針のようです。

このように期限を区切り再編の意思表示を示したギルソン社長であったのですが、23年4月に予定されていた分社化は先送りされ、具体的な出口はいまだ見えてこない状況です。

ギルソン氏は石化分離の意思は変えず、「(他社との協議が)うまくいかなくても石化事業をスピンアウトして切り離す」としており、同業だけでなく石油精製も対象と想定するなど再編に向けた統合交渉が難航しているとみられます。

というのも石化事業の再編が避けられない点は業界の共通認識ではあるものの、他社が撤退すれば自社が残存者利益を得られ、また各社の置かれた状況や地縁、地域経済やパイプラインで繋がるほか化学メーカーなども複雑に絡み合う問題なのです。

例えば三井化学の橋本社長は化学工業日報社の取材に対して「弱い会社がいくつ集まっても足の引っ張り合いになるだけ(略)。まずは自身が成すべきことを成して汗を流した上で、一定の利益を出せる企業同士が議論することではじめてシナジーを発現できる。」と、再編を目的とするのではなく、描けるビジョンを見極めようとしているとみられます。

手厳しい意見ですが、三井化学も過去に石化を含む基盤素材事業の経営環境変化により赤字を経験してきた歴史があり、それでもポートフォリオの改革により経営環境を大幅に改善させた自負があるのではないでしょうか。

セグメント別売上高と営業利益(MITSUI CHEMICALS REPORT 2021より)

なお橋本社長は石化再編について、地縁があればシナジーが追求しやすいともコメントしており、実際に先月には京葉臨海コンビナートでGXに向けた住友化学、三井化学、丸善石油化学ら三社による連合が公表されています。

京葉臨海コンビナートは千葉県の南北約40kmに化学・鉄鋼・火力発電・石油精製企業らが集積しており、基礎化学品であるエチレンの生産能力では日本の三分の一を占める最大地域となります。

京葉臨海コンビナート地域の現状と課題 千葉県

しかし国内屈指の工業地域である京葉地区は企業数が多いが故に各社の利害調整が複雑で、これまでも連携が進みにくかったと言われているのですが、なぜ今回の企業連合が実現したのでしょうか。

このような動きの背景には近年のパリ協定やSDGsの潮流を受けた脱炭素化が挙げられます。

というのも、温室効果ガス排出量を国内業種別にみると化学と鉄鋼は二大排出産業である上に、エネルギーを多く消費するため発電所も抱えており、コンビナートはCO2多排出産業なのです。

したがって昨今のCN達成に向けた温室効果ガス削減は必須で、コンビナートの変革はもはや避けては通れない道となります。

そこで同地区で石油化学工場を有する住友化学、三井化学、丸善石油化学ら三社はCNに対応した次世代のコンビナートの実現へ向けて共同で検討する覚書を締結しているのです。

丸善石油化学の馬場社長は「当社が排出する温室効果ガスの大半がナフサ分解炉に由来しており,使用する燃料の転換が必要だ。」とし、アンモニア燃料といったCO2を排出しないエネルギーへの切り替えを検討していくとしています。

燃料の燃焼(経済産業省 エネルギー庁HPより)

こうしたクリーンエネルギーの共同調達・利活用によりスケールメリットを活かした取り組みが期待され、バイオマス資源やリサイクルなどのCNに資する新技術を共同開発するとしています。

京葉地区は大消費地である首都圏に近いだけに、リサイクルやクリーンエネルギーの需要も高いと考えられ、コンビナートの有する港湾、物流インフラも活かした取り組みに期待がかかりますね。

まずは3社連合でスタートするとしていますが、関連する自治体や企業とも連携を視野に入れており、産官学で連携した全国のモデルケースとしてCNの議論を牽引して欲しいところです。

なお本連合はコンビナートのCNを目指すものとなりますが、各社が同じ目標に向けて知恵を出し合う中で石化再編に向けた構造改革の議論へ発展する可能性も秘めており、今後注目していきたいですね。

石化再編のこれから

以上が石油化学の再編についてでしたが、最後にレゾナックの高橋社長のコメントを取り上げたいと思います。

高橋社長いわく、「石化事業は現場で働く人々が背負う責任と、株式市場の評価が全く釣り合っていない。原油・ナフサ価格など市況が業績に与える影響が強く、四半期ごとに決算説明をして価値が生まれる事業ではない。

一方で、化学品の生産能力を国内に持つことは経済安全保障上重要で、多量のCO2を排出して生産したオレフィンの約3割を輸出する産業構造上の歪みをただす必要もある。そうした議論をする場には積極的に乗るし、最後は企業価値最大化の観点から考える。」と、経営やCN、社会的責任の面から問題を指摘しています。

こうした課題解決に向けて石油化学の再編を進めるためには各社が利害を乗り越えた全体最適の視点を持つ必要があり、将来の課題を克服するための共通認識が求められるのかもしれませんね。

今後は京葉地区のように、CN実現に向けたプレッシャーが連携の原動力となるとも予想され、石油化学再編の幕開けとなるかもしれませんね。

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今回は総合化学メーカーと呼ばれる三菱ケミカルG、住友化学、三井化学、加えて旭化成、東ソーの5社を解説します。 事業内容も比較していますので、就活、転職、株式投資のご参考に良ければ最後までご覧ください。

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Youtubeのコミュニティに寄せられたコメントをテーマに取り上げ、化学業界を見通してみる企画です。

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