三菱ケミカルグループが、傘下の製薬会社である田辺三菱製薬を売却する方針を示し、業界では注目を集めました。
製薬業界への積極的な投資を進めてきた同グループが、なぜこの方向転換を決断したのか、その背景には、時代の変化と新薬開発の難しさ、そして化学事業への集中を目指す経営方針があると考えられます。
本記事では、三菱ケミカルグループがこの売却を決定した経緯、そして今後の展望について、詳細に考察していきます。
田辺三菱製薬の売却疑惑について
三菱ケミカルグループは、傘下製薬会社の田辺三菱製薬を米投資ファンドのベインキャピタルに売却する方針と日経が報じました。
現在はべインキャピタルに優先交渉権を付与した段階、つまりこれから具体的な条件を詰めるわけですが、売却額は5000億円超を見込んでいます。
三菱ケミカルグループはこの報道について、否定も肯定もしていないものの、昨年から田辺三菱製薬のパートナーを探すとしていたので、まあそういうことかと思います。
三ケミはうまいことやりやがって、とか、田辺三菱の人は不安もあるやろなぁ、とか、結局株価はどないなんねん、とか、いろいろ思うところはあると思います。
が、これは言ってしまえば、田辺三菱製薬をベットした、三菱ケミカルグループの大きな挑戦と言えます。
田辺三菱はなぜ売却に至ったのか
順に説明すると、まず田辺三菱製薬は、三菱ケミカルグループにとって優秀な孝行息子です。
ここ数年の営業利益の推移をみると、景気影響で浮き沈みの激しい化学に対して、製薬部門は堅実に利益を稼いでいます。

医薬品は典型的なファインケミカル製品であることから、安定した収益が見込めわけですね。
なので三菱ケミカルグループも、拡大路線と収益安定化を図り、2020年に当時上場子会社だった田辺三菱製薬を5000億円かけて完全子会社化していたのです。
いや、わざわざ5000億円で買った会社を、今は5000億円で売却するしない言うてるんかいな。しかも安定収益源手放したら、業績変動要因がまた大きくなってしまうやろ。
と言う話ですが、これは本当にその通りで、ほんまかいな、と言う話です。
が、この方針転換にはやんごとなき理由があり、端的に言えば時代が変わったということです。
というのも、従来の低分子化合物は出尽くし感、さらに必要な投資額も膨らみ続けるなど、新薬開発のハードルは年々上がり続けているのです。
田辺三菱製薬も、足元はALS治療薬「ラジカヴァ」が好調ですが、次の弾と資金を必要としていました。
そのような中就任した三菱ケミカルグループの築本新社長は、化学を成長ドライバーに据える方針を示し、投資リスクの大きな製薬事業から身を引く決断をしたものとみられます。
今後の成長戦略に注目
やはり化学とのシナジーが限られ、投資リスクも膨らむとなると、化学メーカーが製薬事業を抱えるのは難しいと思います。
ただ三菱ケミカルにとって重要なのは、今後どのように成長していくのか。
田辺三菱製薬の収益への貢献度は高く、売却すれば2-3割の減益となってしまいます。
三菱ケミカルグループは、売却で得た資金を化学事業に集中投資し、成長を目指すとしているものの、具体策は不透明です。
中計では事業の整理とグリーンケミカルを掲げていましたが、アメリカでのMMA工場新設は見送っていますし、今後の発表が待たれます。