今回紹介する企業は、グローバルニッチトップ企業であるADEKAです。
本記事ではADEKAの概要、強み、将来性について解説し、最後には数字からADEKAを見ていきたいと思います。
ADEKAについて
まずADEKAのあらましを解説します。
ADEKAは1916年に旭電化工業として創業した東京都に本社を置く化学メーカーであり、グローバル化の進展とともに、2006年には旭電化工業からADEKAへと社名変更しています。
なお余談ですが戦前の古河財閥の流れを組み、現在でも日本ゼオンや横浜ゴムとともに古川三水会に所属しています。
ADEKAは化学業界において川上の企業から製品を購入し誘導品を川下へ販売する川中化学メーカーであり、似たような川中企業だと日油や日産化学、JSRやカネカなどが挙げられます。
ボリューム勝負で規模の大きい川上企業やブランド戦略も問われる川下企業と比較すると、川中企業は規模や知名度では劣りますが、技術力で戦う高利益率な企業群となりますね。
そんなADEKAの2022年3月期の業績を見てみますと、売上高3630億円と中堅の規模を有し、営業利益も昨年20%増の349億円と好調で利益率も10%近くと高くなっています。
過去5年の推移を見ても、コロナ禍の影響を受けた2020年以外は売上、利益ともに順調に成長していることがわかります。
高い利益率と成長性を兼ね備えたADEKAですが、その強みは何なのでしょうか。
その事業内容から考察していきます。
事業内容
ADEKAは5つの事業領域を有しており、化学系素材の樹脂添加剤、情報電子化学、機能化学に加えて、食品やライフサイエンスまで手がけており、事業を多角化していることが伺えます。
一見するととりとめのない事業構成にも見えますが、実はある軸があります。
それは素材に機能を付与する添加剤、いわゆる”素財”技術です。
プラスチックのような樹脂製品や食品などあらゆる製品は素材だけで成り立っているわけではなく、目的に応じて多種多様な添加剤が少量ずつ配合されていることがほとんどなのです。
ADEKAはこうしたプラスチックや潤滑油に機能性を付与する添加剤を得意としており、エンジンオイルに配合することで、エンジン内部の摩擦・摩耗を低減する「アデカサクラルーブ」などが主力です。
プラスチックといったマクロな素材に比べるとこうした添加剤は使用量では少ないものの、機能性を付与する添加剤は技術力勝負であり製品価格も比較的高く、利益率が良い傾向にあるのです。
ADEKAが添加剤に強みを持つ理由は創業当初にさかのぼり、ソーダ工業と油脂を祖業としていたADEKAは油脂と水素を組み合わせた油脂加工技術で、界面活性剤をはじめとした機能性素材へと展開してきた歴史があるのです。
なおこの油脂加工技術から生まれたのが現在の食品事業であり、液体の植物油を水素添加することで固体のマーガリンが得られ、ADEKAも喫茶店で使われるリス印マーガリンをはじめとして業務用を中心に製品を出荷しています。
こうしたADEKA従来の強みに加えて近年は電子材料やヘルスケア分野も強化しており、2018年には日本農薬を連結子会社化することでライフサイエンス事業もスピードアップを進めています。
このようにADEKAは100年以上かけて培われた基盤技術に基づき、幅広い分野の製品を有しているのです。
それではこれらセグメント別の業績を見てみましょう。
セグメント別の売上高では樹脂添加剤が1068億円と頭一つ抜けていますが、ほか4事業についても百億円以上売り上げており、バランスのよいポートフォリオとなっていますね。
営業利益では電子情報材料が最も稼いでおり、利益率も30%超えと牽引する一方で食品事業では赤字となるなど、事業ごとに毛色が異なっています。
こうした食品事業は意外とサプライヤーが多く、加えて製パン・製菓メーカーといったユーザーの方が力が強いため、熾烈な競争の結果製品値上げが難しく、原料高の局面では採算が悪化する傾向にあるのです。
一方でADEKAの電子情報材料は半導体メモリ材料やEUVフォトレジスト向け光酸発生剤などが好調で、こうしたニッチトップな製品はコスト上昇局面においても価格転嫁が進みやすく、安定して高利益を確保しています。
加えて5Gの拡大、AI、メタバースなどを背景に半導体材料は中長期的にみれば成長トレンドであることは間違いなく、ADEKAも微細化が進む先端DRAMに欠かせない高誘電材料は韓国拠点の生産能力を倍増させる計画です。
ADEKAの強みはこうした時代に応じたニッチトップ製品の開発力であり、これは経営理念にも表れるほか、研究開発職比率や研究開発費の高さからも研究開発を重要視していることが伺えますね。
将来性
それではADEKAの将来性について考察していきましょう。
現在は好調なADEKAですが、将来を見据えると実は二つの課題があると考えられます。
一つ目は、やはり食品事業の構造改革です。
一般的に食品関係は不況に強いとは言われていますが人口が減少する日本では需要も振るわず、足元でも粗原料となるパーム油が高騰し、価格転嫁が追いつかず赤字となっています。
そこでADEKAが立ち上げたのが、業務用プラントベースフードの新ブランドです。
プラントベースフードとは、動物性原材料ではなく植物由来の原材料を使用した食品のことを指し、最近では大豆や小麦から作られた肉がスーパーでも売られ始めていますね。
ADEKAは植物油脂の知見も活かして、乳代替となるオーツミルクやチーズクリームなど4製品を展開しており、今後もラインナップを順次拡大、2030年には売上高100億円を目指しています。
こうしたプラントベースフードは低コレステロールで動物性原材料と比較して環境負荷も低い点が特徴であり、環境や社会に配慮したエシカル消費や健康志向の高まりを捉え、原料高に負けない高利益製品を拡充する狙いとみられます。
なおプラントベースフード市場は世界的に成長が見込まれる一方で国内に関してはまだ市場が小さく、消費者のコストアップへの理解が進んでいないことや、環境問題とPBFが結びついていないことなども要因とみられます。
PBFについては、国内文化の醸成や海外展開が鍵を握るのではないかと推測されますね。
もう一つのADEKAの課題ですが、それは新たな成長ドライバーの確立です。
現在好調な半導体材料は今後も堅調に推移するものと見られますが、エンジンオイル向け潤滑油添加剤については電気自動車の普及とともに需要が減少すると見込まれるのです。
したがって新たな戦略製品の育成が求められ、次の柱と期待されているのが乳化剤アデカリアソープです。
アデカリアソープは塗料や接着剤に使用され、水系化、高耐水性、高耐腐食性といった機能を付与でき、塗料では環境規制の高まる中国やインド向けに、欧米では食品向け粘接着剤などが主力になると見ており、2030年には21年度比でなんと3倍の売り上げを目指しています。
また新たな事業として育成しているのは従来の添加剤だけではありません。
川下への事業領域の拡張を見据えながらリチウム・硫黄電池(LiS)向け活物質である、硫黄変性ポリアクリロニトリル(SPAN)の事業化に向けて提案活動を強化しているのです。
LiSは多数あるポストリチウムイオン電池(LiB)のうちの一つに挙げられており、高い理論正極容量に加えてLiBと比較して重さが半減するとみられ、希少金属を使用しない点も利点となります。
一方でサイクル寿命がLiBにはるかに劣ることなどがLiS実用化の壁とされているのですが、ADEKAのSPANを用いた試作電池は長期にわたり電池性能を維持することが確認されているようです。
ADEKAはLiS材料で採用を重ねながら、将来的にはLiB材料や固体電池への応用展開も視野に入れており、単なる材料提案に止まらず電池メーカー以降の川下企業との関係を強化する考えを示しています。
ADEKAの優れた研究開発力による、新たな事業の柱の構築に期待しましょう。
数字から見るADEKA
最後にほか川中化学メーカーと指標を比較してみましょう。
企業価値を表す時価総額は2612億で化学系155社中21位、ROEは約10%、ROA5%と効率的に稼いでいることが伺え自己資本比率は52.6%と日本農薬の子会社化で下げましたが、それでも化学業界の平均程度で良好な財務状況です。
同じく食品事業を持つカネカや添加剤などを得意とする三洋化成よりも時価総額や財務指標では優れていますが、油脂関係を得意としヘルスケアが好調な日油には劣るという位置付けになりますね。
続いて海外展開ですが、こちらは海外売上比率から比較しましょう。
ADEKAの海外売上高比率は53%と同業他社と比較してやや高い数値となっており、ADEKAはグローバル展開を強化しているため、今後も世界的に規模拡大が期待されますね。
最後に株式市場での評価である株価を見てみましょう。
ADEKAはPERとPBRともに割安水準でカネカや三洋化成と同程度となっており、またADEKAは13年連続で減配をしておらず、予想配当利回りも3%を超えています。
半導体関連銘柄はコロナショック後急上昇していましたが、景気後退懸念から足元では評価が低迷しており、ADEKAも10月に入り年初来安値を更新しています。
ADEKAも10月に入り、年初来安値を更新しています。
電子材料銘柄はしばらく下落傾向と見られますが、中長期で見れば成長する市場ではありますので、過度に評価が下がった時が買い場かもしれません。
ご利用は計画的に(※くれぐれも投資は自己責任で)