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【1兆】野武士集団復活なるか、新中計から読み解く旭化成【化学メーカー・ゆっくり解説】

旭化成は2022年4月に公表した新中期経営計画が実行フェーズとなっています。

今回は中期経営計画から旭化成を読み解きたいと思います。

旭化成について

旭化成といえばサランラップやヘーベルハウスでもおなじみの総合化学メーカーであり、2019年にはリチウムイオン電池の開発で旭化成名誉フェローの吉野彰さんがノーベル賞を受賞しています。

川下製品のイメージも強い旭化成ですが、LiB材料のセパレーターや合成樹脂の原料となるアクリロニトリルを始め、川上から川中の化学製品でも高いシェアを誇っており、幅広い事業領域を有する総合化学メーカーなのです。

そんな旭化成の売上高は2.4兆円(2022年3月期)と総合化学メーカーの中では住友化学に次ぐ3位ですが、会社の価値を表す時価総額では規格外の信越化学を除けば総合化学内で頭一つ抜けており、市場からの評価が高くなっています。

旭化成の強みはやはり多角化された事業領域の広さにあります。

旭化成は名前のもととなる旭絹織が1922年に創業、繊維を祖業としていましたが戦後は多角化路線を突き進み、石油化学・エレクトロニクスからなるマテリアルに住宅やヘルスケアまで事業領域を展開することで規模拡大してきました。

旭化成レポート 2021より

こうした事業拡大には失敗がつきものですが、旭化成には失敗を恐れず大胆に挑戦を重ねるDNAが根付いており、健全な危機感を持ち世の中の変化やニーズに対応してきたことで創業以来、一度も営業赤字を記録していないようです。

前期の業績を見てみますと売上高2兆4613億円、営業利益は前年2割近く増えて2026億円となるなど好調で、セグメント別にみてもマテリアル、住宅、ヘルスケアの3領域がバランス良く稼いでいます。

ここ数年の営業利益の推移では、米中貿易摩擦やコロナ禍など不安定な情勢下においても安定して推移していることが分かり、同じ総合化学の三菱ケミカルGや住友化学と比較して安定性の高さが伺えます。

総合化学 営業利益の推移

このように旭化成の強みは過去の成功体験やしがらみにとらわれず挑戦してきたアニマルスピリットにあり、この精神は財閥に属していなかったことなどから野武士集団とも称されていました。

2022年5月には創業100周年を迎えたのですが、実はこの旭化成の強みにも変化が起き始めているのです。

中期経営計画に込められた思い

では旭化成の掲げる新経営計画を見てみましょう。

最近の旭化成は3年毎に経営計画を策定しており、2022年も新たな100年に向けて新社長工藤幸四郎氏のもと2025年度を最終年度とする新しい3ヶ年経営計画がスタートしています。

新中期経営計画の副題は Be a trailblazer

旭化成 新中期経営計画2024より

trailblazerは後から来る人のために木に道しるべをつける人を意味し、開拓者や先駆者といった意味もあるのですが、この副題には工藤新社長からのあるメッセージが込められているのです。

というのも工藤社長は旭化成のDNAであるリスクをとって挑戦する精神、アニマルスピリットが弱くなっているとし、社員の挑戦心を呼び起こし持続的な成長を目指すという意気込みを語っています。

アニマルスピリットが弱まった背景としてはここ20年の方向転換にあると考えられ、高度経済成長期に突き進んだ拡大路線もバブル崩壊後は選択と集中を迫られるようになり、2000年前後には食品や酒類事業を売却、レーヨンやアクリル繊維からも撤退しています。

さらに同時期にグループ経営体制へ変更し上記事業を分社化、「スピード経営」と「自主自立経営」を徹底することで基盤強化は成果をあげたのですが、各事業会社が目先の利益を追いかけたために、グループ内のシナジーは薄れ、強みであった革新的な開発力が薄れているとも指摘されているのです。

グループ内のシナジーは薄れ、強みであった革新的な開発力が薄れているとも指摘されているのです。

工藤社長は革新的な製品を作り出す旭化成らしい気風を取り戻し、この難しい時代を乗り越えた成長を図っているようですね。

旭化成 新中期経営計画2024より

少し話が逸れましたが、そんな社長の思いも込められた経営計画の中身を見てみましょう。

新中計の内容

2030年ありたい姿

まず旭化成は2030年ありたい姿を公表しており、そちらから解説したいと思います。

テクノロジーの進化やビジネスモデルの多様化が進み、異業種連携も増えていると言われるなか、旭化成は2030年には産業間の垣根がより低くなり、様々な業界で相互に関連し合う状況になると予想しています。

多様な事業を持つ旭化成はさまざまな分野においてビジネスチャンスを持っているため、これを好機と捉え旭化成のコア技術、変革のDNA、多様な人財を持って積極的な投資をしたいと考えているようです。

旭化成 新中期経営計画2024より

そして2030年近傍には営業利益4000億円、ROE15%以上、GHG排出削減量 30%以上などを掲げており、野心的な目標となりますが、今回策定した中期経営計画はそのファーストステップとなるわけですね。

新中計の基本方針

このような前提を踏まえ新中計に入りますが、2030年目標の達成にはポートフォリオの進化が欠かせません。

そして新中計の基本指針は挑戦的な投資とキャッシュの創出です。

旭化成 新中期経営計画2024より

次の成長のためには積極的な投資が必須ですが、事業化せずに頓挫するリスクを抱えるため、既存の事業基盤を安定で強靭なものとする構造転換の両輪を回すことが必須となるのです。

ここで重要視しているのがスピード、アセットライト、高付加価値化の三つです。

旭化成 新中期経営計画2024

アセットライトとは資産(Asset)の保有を抑えて財務を軽く(Light)することを目指すもので、化学企業なら自社工場を持たずに生産を外部へ委託するようなイメージとなります。

既存領域についてはすでにあるアセットを最大限活用し利益追及を図るとともに、新規領域については自前主義から脱却し、他社との連携・協業も含めて最適なビジネススキームを追及していくようです。

旭化成は所有する素材や技術には自信がありましたが、それを早く世の中に出す戦術に課題があり、新中計ではアセットライトやスピード感を重視し、早期に優位なポジションを創出する戦術を取るようです。

この動きはすでに始まっており、2021年にはLiB向けセパレーターで中国大手と協業を発表するなど自前主義にこだわらず、成長市場でいち早く存在感を高める考えのようですね。

具体的な戦略

さて、成長に向けた基本方針が明らかとなったところで、具体的な戦略を見ていきましょう。

今回の新中計では次の成長を牽引する事業として、脱炭素、デジタル、健康・長寿社会に関する10事業、10のgrowth gears(GG10)にフォーカスするとしています。

旭化成 新中期経営計画2024より

マテリアル領域では次世代エネルギーとされる水素関連をはじめとした5つ、住宅では豪州・北米といった海外展開、ヘルスケアは医薬・医療機器などとなります。

すでに多角化されたポートフォリオを持つだけに、成長を牽引する事業群も多岐に渡りますね。

新中計3年間の累計投資額はなんと1兆円と前中計から1500億円以上積み増す計画で、1兆円のうち半数以上となる6000億円をGG10に投資し、これら事業が営業利益に占める比率を2025年に50%、2030年には70%まで拡大させます。

旭化成 新中期経営計画2024より

GG10の詳細についても一部触れて起きますと、再生可能エネルギーを用いてグリーン水素を製造する国内最大級のアルカリ水電解装置の実証実験を福島県で進めています。

水素は燃えてもCO2を排出しない次世代エネルギーとして着目されていますが、現在商業化された一般的な水素生産法は“水蒸気改質法”で、石化資源を原料に高温条件で製造されています。

このように製造された水素は環境負荷が大きいためグレー水素と言われたりもするのですが、そこで旭化成は長年かけて培ってきた食塩電解の技術をベースにアルカリ水電解システムを開発、水と再生可能エネルギーから環境に優しいグリーン水素の製造を目指しているのです。

今後は国内で基盤を確立しつつ、世界各地のプロジェクトへの参画を通じて2025年度の事業化を見込んでいます。

またヘルスケア分野では医薬、医療機器に加えて4月にバイオ医薬CDMOを手掛ける米企業の買収を発表しており、バイオプロセスも強化することでさらなる成長につなげ、25年度には利益の4分の1をヘルスケアで稼ぐとしています。

旭化成 新中期経営計画2024より

紹介しきれませんが他にもさまざまな取り組みを進めており、各事業の規模拡大に期待しましょう。

また成長領域であるGG10への投資だけでなく、既存領域の構造改革も計画しています。

前中計ではコロナ禍等で業績が悪化した15の事業を戦略再構築事業に区分し対応を進めてきましたが、新中計では立て直しの見極めや事業の縮小、他社への売却などを速やかに完了させる計画です。

旭化成 新中期経営計画2024より

加えて中長期的には抜本的な構造転換も着手すると表明しており、下記のベストオーナーの観点等の5つの視点で事業を見極め、たとえ業績が悪くなくても、旭化成の目指す姿との適合性から構造改革を進めるとしています。

こうして得られたリソースを「GG10」に振り向けて、ポートフォリオ進化を加速するとしており、利益成長を後押しする好循環を狙うものとみられますね。

数値目標

では最後に、新中計最終年である2025年3月期の数値目標を見てみましょう。

売上高は2兆7000億円、営業利益2700億円とともに1割程度の成長を見込んでおり、投資効率も重視し、ROIC8%以上、ROE11%以上に引き上げる計画です。

加えて投資効率が重要になるマテリアルはROIC、安定収益源の住宅は営業利益率、M&Aで領域を広げているヘルスケアはEBITDAと事業領域の特性に合わせた指標を当てはめ経営を行う方針です。

また株主還元については基本的な考え方は変えておらず、配当性向は30〜40%を目安としており、今後も利益成長に合わせた増配を目指すとともに、機を見て自己株取得を検討するとしています。

なお旭化成の特徴として、新事業の創出や戦略構築において人財や技術といった無形資産の活用を重視しています。

成長分野の事業拡大に向けて知財インテリジェンス室を設置、知的財産の戦略的活用を一段と加速させ、従業員一人ひとりが成長を続ける終身成長やグループの多様性を活かす共創力も評価指標に加えています。

人をしっかり成長させる印象がある会社ですので、今後のアニマルスピリットの再興に期待したいですね。

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