業界の動向

化学系高配当企業4選、将来性を考察【東ソー・石原産業・日本ゼオンなど】

今回は、化学系の高配当株ってどうなん?という記事です。

8月に急落した日本株も回復してきましたが、日経新聞の記事によると、実は高配当株は戻りが鈍いとされています。

高配当銘柄で構成する「日経平均高配当株50指数」は下落後の上昇率が日経平均よりも下回っている。
日本経済新聞

ほんなら高配当株がゴロゴロしている化学セクターはどうなんや、ということで調べてみたところ、

実際に戻りが悪い企業もありましたので、その実態を見ていくとともに、

化学系高配当株はありなのか無しなのかを考察していきたいと思います。

日本ゼオン

まず紹介するのは、下落後の戻りが悪い企業として、日本ゼオン。

配当利回りはなんと3.91%、もう少しで4%と、トップボディビルダーの体脂肪率みたいな数字ですね。

出所:株探

PERは14.4倍と平均的も、PBRは0.68倍で割安な水準と言えます。

4%未満では満足できない高配当ジャンキーな方には、もっと高利回りな企業を後ほど解説しますが、

日本ゼオンのポイント14年連続増配と、リーマンショック以降減配知らず、

配当性向30%以上を目安としながら、安定・継続的な配当を目指すとしています。

特に2020年までは1~2円ずつ上げていた配当金が、2021年以降は数年で倍増するなど大盤振る舞い、

日本ゼオンとしては、PBRが一倍割れの状況を問題と考えているようです。

そんなこんなで高配当銘柄に名を連ねた日本ゼオンですが、株価チャートはどうか。

こちらが直近6ヶ月の推移で、4月末は決算と自社株買いを好感しガツンと上げていますが、

その後は軟調、8月頭のショックで大きく下げており、今もなお戻りが悪いように見えます。

ではいったいなぜ戻りが悪いのか。また日本ゼオンはお買い得なのでしょうか。

まず足元の業績は悪くなく、むしろ1Q決算は好調で上期予想も上方修正していますが、

上期の反動から業績の鈍化を織り込んで通期予想は据え置くなど、慎重な姿勢となります。

そもそもここ10年の日本ゼオンの株価をみても1200円近辺をさまよっており、

出所:Yahoo!ファイナンス

業績もよこよこ、良く言えば悪い地合いでも安定した業績を上げていると言えますが、

利益面での成長性が見えにくい点が、課題の一つと言えます。

日本ゼオンのブレーキとなっているのが、エラストマー事業や電池材料。

日本ゼオンと言えばタイヤなどに用いられる合成ゴム、というのはみなさま幼稚園で教わったかと思いますが

2022年 9月6日開催 個人投資家向け会社説明会

合成ゴムを手掛けるエラストマー事業は今でも売上高の屋台骨です。

しかし合成ゴムは新興国の台頭から競争が激化しており、日本ゼオンのエラストマー事業も苦戦を強いられています。

また高機能材料で手掛ける電池材料もEV市場減速の影響を受けており、

かつてはEVシフトで見込まれた高い成長性も、今はトレンドの変化で先行き不透明です。

2022年 9月6日開催 個人投資家向け会社説明会

つまりは日本ゼオンは祖業のエラストマー事業での苦戦や、

期待された電池材料も肩透かしを食らった状態で、株価も伸び悩んでいるものと思われます。

さらに日本ゼオンは旧古河グループの横浜ゴムや旭化成、ADEKAなどの株を持ち合っていたりするのですが、

こういった政策保有株式も市場では評価されず、株価の重しとなっていた側面もあるとみられます。

ただ、改善の兆しも見えています。

徳山工場のエラストマー生産を6割停止するなど、コストリーダーシップを取れない製品については見直しを進め、

同時にCOPという高機能樹脂の増強投資により生産能力を高め、収益力を高める計画です。

COPは日本ゼオンの虎の子の技術であるC5留分抽出技術から誘導されるもので、

ディスプレイに用いられる光学フィルムが主力用途、さらに医療や半導体部材用途を拡大、光学レンズ向けの開発なども進めています。

日本ゼオンは政策保有株式の売却も進めるなど、経営マインドの変化もみられるため、

中長期でみれば、今の水準は面白いかもしれませんね。

堺化学と石原産業

続いて紹介する企業は、多少のリスクはかまへんからとにかく高利回りがええんや、という方向けで

石原産業と堺化学工業です。

この2社でピンとくる人は、高配当株ハンターか酸化チタンユーザー、もしくは堺市民とかかと思います。

高利回りランキングを調べれば両社ともに上位ランカー、堺化学は4.74%、石原産業は4.63%

数字だけ見れば、高配当銘柄の代名詞だったJTよりも高くなります。

ちなみに同じく上位ランカーの日本曹達は、ディフェンシブ高配当の記事で解説したので、そちらを見ていただきたいのですが、

今回紹介する2社は、投資対象としてはやや攻めていると言えるかもしれません。

ではその実態を見ていくと、2社は事業内容が似ていて、互いに無機材料を得意とする化学メーカー、

主力の酸化チタンでは、西の石原産業に西の堺化学と言われますね。

企業規模も売上高では1000億円前後、時価総額も500億円前後と近しくPER10倍は以下、PBRも0.5%台と、割安な水準と言えると思います。

2024年8月30日時点

じゃあ買いなんですか、と言われると、懸念アリということになります。

それが、主力事業であった酸化チタンの収益悪化。

酸化チタンは高い屈折率や触媒活性から白色顔料や化粧品などにも用いられ、

白は200色あるとも言われましたが、工業的に白色の多くは酸化チタンです。

この酸化チタンは原料となる鉱石を輸入して、酸や熱でガンガン処理することで作られるのですが、

日本酸化チタン工業会

チタン鉱石やエネルギーコストが高騰、汎用品は中国など海外勢との競争が激化し採算が悪化、

石原産業も堺化学も、汎用グレードの酸化チタンからは撤退を公表しています。

つまるところ石油化学も無機化学も、規模のビジネスで勝負する汎用品において、

原燃料を輸入に依存するエネルギー多消費型事業では、成り立たなくなっているわけですね。

ゆえに堺化学はここ5年で純損失を2回計上しており、配当も不安定な傾向、配当金目当てで投資するには難しい企業だったと思います。

堺化学 中期経営計画資料

ただ堺化学は株主還元の目安をDOEへ転換しており、配当性向よりも業績影響を受けにくくなります。

また事業も電子材料や化粧品をターゲットに、スペシャリティ事業に軸足を移す計画で、

特に堺化学は通信向けのMLCC向け材料に強く、スマホやサーバー需要が回復すれば、堺化学の材料も伸びるかもしれません。

対して石原産業もスペシャリティシフトを鮮明にしており、

同じくMLCC向け材料は車載向けに強みを持つとみられるほか、農薬や動物医薬品にも力を注ぎます。

石原産業は酸化チタンでは赤字も、農薬は稼いでいるので、全社的な利益面も割と悪くなかったりしますね。

石原産業

まとめると、無機化学の分野も汎用品は厳しく、各社スペシャリティへ軸足を移している真っ最中、

なので個人的には、構造改革の成果を現れるのを待つでも良いかと思いますが、みなさまはどう思いますでしょうか。

東ソー

最後に紹介する企業は、安パイに思える高配当銘柄、東ソー。

ポイントは、株主還元拡大の余地があるかも、です。

順に解説しますが、私がよく解説する大手総合化学5社の中で東ソーは、実は最も利回りが高い4.53%、

PER10.1倍、PBRは0.74倍と割安水準となります。

2024年8月30日

さらに安定配当を基本とし、2009年度以降は減配無しというのもうれしいポイントですね。

東ソー 経営概況説明会資料

東ソーはハイブリッド経営により、高利益率なポートフォリオを構築しており、

また課題の基礎化学品も、他社に比べて収益の振幅が少ない点が特徴です。

東ソーのエチレン設備は中京地区で唯一のもの。原材料となるエチレンの一部を外部調達しており、需要減退時には調達を減らして自社の設備稼働を維持しやすいのです。

2012年には25%と低めであった自己資本比率も極めて健全化しており、

ネットDEレシオもマイナスとなるなど実質無借金経営、財務も問題なしといえます。

東ソー中期経営計画2022-24より

で、ポイントとして挙げた、株主還元強化の余地があるかも、という話ですが、

アクティビスト(物言う株主)で知られる英投資ファンドのシルチェスター・インターナショナル・インベスターズが、東ソー株を5.06%保有していたことが、5日わかった。

経営概況説明会を聞いていても、まだまだ市場の評価を得られているとは言い難くいことから、総還元性向の導入などを考えていきたいとコメントしています。

経営概況説明会資料より

来年には次期中計が公表される予定ですので、そのタイミングで株主還元の向上があるかもしれません。

中長期的な成長性はしっかり見ていく必要がありますが、こちらも面白い企業ではないでしょうか。

まとめ

以上、化学系の高配当株4社を解説してきました。

結局ありなのか、無しなのかと言われれば、利回りだけみて化学銘柄を購入するのは、当然ですがおススメはしません。

化学メーカーは十社十様の事業を有しており、その内容も時代に応じて変わっていきますので、

大変ですがその中身を理解し、将来性や持続性を自分で判断するしかないと思います。

むしろここが化学メーカーの投資妙味だと思っていますので、

今回は配当を中心にみていきましたが、今後も化学メーカーを深堀っていきたいと思います。

おすすめ記事

1

今回は総合化学メーカーと呼ばれる三菱ケミカルG、住友化学、三井化学、加えて旭化成、東ソーの5社を解説します。 事業内容も比較していますので、就活、転職、株式投資のご参考に良ければ最後までご覧ください。

2

Youtubeのコミュニティに寄せられたコメントをテーマに取り上げ、化学業界を見通してみる企画です。

-業界の動向
-, ,