サステナビリティを重視した脱炭素化の流れは社会に浸透しつつあり、今後は環境への優しさが消費者の購買意識につながると考えられています。
B to C業界である飲料メーカーについても、やはり環境に優しい製品設計が求められるようになっており、ペットボトルの環境負荷低減は大きな課題の一つです。
そのような中、化学メーカー大手の三菱ケミカルと飲料メーカー大手のキリンが共同開発を発表しています。
業界の垣根を超えた共同プロジェクト、その狙いについて解説します。
キリンHDの取り組み
海洋プラスチック問題や持続可能社会の実現が全人類の課題として取り上げられており、国際的にみるとペットボトルへの風当たりは良くありません。
清涼飲料水には欠かせないペットボトルですが、日本のプラスチック生産量の6%程度を占めており、脱炭素化や海洋プラスチック問題を解決する上でペットボトルの技術革新は避けて通れなくなっているのです。
(海洋プラスチック問題や脱炭素化の詳細については、過去記事にまとめています。)
キリンHDは「キリングループ環境ビジョン2050」を掲げ、その中でリサイクルしたペットボトルや自然由来のバイオマス材料などを原料にペットボトルを生産することを検討しており、
2027年にペットボトルのリサイクル樹脂比率を50%に、2050年には100%を目指しています。
通常ペットボトルは石油由来の原料から生産されていますが、リサイクル材やバイオマス材料を用いることで、新たな石油資源の消費を抑えることができるのです。
すでに再生ペット樹脂を100%使用した「R100ペットボトル」の使用を開始しており、「キリン生茶デカフェ(カフェインゼロ)」、「キリン生茶」(600ml)、「キリン生茶ほうじ煎茶」の発売を開始しています。
また商品名のラベルを貼らない「ラベルレス」の商品拡大を開始しており、ECサイト限定で販売されます。
ラベルもプラスチックですので、ラベルレスによる二酸化炭素排出量の削減や、リサイクルの効率化などが期待されます。
商品の中身だけでなく、ペットボトル自体も進化しています。
ペットボトルリサイクルの課題
ペットボトルは単一素材(飲み口等は別ですが)のためリサイクルしやすいことや、リサイクルする文化が根付いていることもあり、日本のペットボトルリサイクル率は85%以上と非常に高くなっています。
しかし通常、回収されたペットボトルはトレイや繊維など、ペットボトル以外の材料へとリサイクルされます。
ここで課題となるのが、ペットボトルからリサイクルされたトレイや繊維は回収が難しいため、使用後はほとんど焼却処分されている点です。
そこでリサイクル率の高いペットボトルを再びペットボトルへリサイクルすることで、焼却処分されることなく資源を循環させて、新たな石化資源の消費を抑えようという試みがBtoB(ボトルtoボトル)になります。
このBtoBリサイクルと呼ばれる取り組みは各清涼飲料水メーカーが進めており、サントリーの取り組みについては過去記事にまとめています。
サントリーのサステナブル戦略 ペットボトルのB to Bリサイクル
しかしこのBtoBリサイクルにも課題があります。
ペットボトルをリサイクルする際に、落としにくい汚れが付着していることや不純物が混ざること、繰り返し使用するとペットボトルの耐性が落ちることなどが懸念されているのです。
飲料用に使われるペットボトルは不純物や耐久性に関して高い安全性が求められるため、そのリサイクル技術にも高い精度が必要とされているのです。
BtoBリサイクルを実現するためには、このリサイクル技術の革新が必要不可欠なのです。
リサイクルしやすいペットボトルも、再びペットボトルに戻すことはハードルが高いのです。
三菱ケミカルとの共同プロジェクトに
キリンHDもペットボトルのBtoBリサイクルを目指しており、その実現ために三菱ケミカルと共同プロジェクトを開始しました。
目指しているのは、ペットボトルのケミカルリサイクルです。
通常ペットボトルは、メカニカルリサイクルにて再資源化されます。
メカニカルリサイクルでは回収したペットボトルを粉砕し、洗浄して汚れや異物を取り除いた上で高温処理等により再びペットボトルへとリサイクルします。
すでに実装されているR100ペットボトルはこの方式で作られています。
しかしメカニカルリサイクルでは除去が難しい不純物があることや、繰り返し使用することでペットボトルとしての品質が低下することが課題となります。
そこでキリンが目指すのがペットボトルのケミカルリサイクルであり、昨年12月より「三菱ケミカル」との共同プロジェクトとして進めています。
ではケミカルリサイクルとはなんなのでしょうか。ケミカルリサイクルでは、ペットボトルをなんと一度原料に戻してしまうのです。
ペットボトルの素材は名前の通りPET(ポリエチレンテレフタレート)であり、テレフタル酸とエチレングリコールの共重合体です。
ケミカルリサイクルでは一度ペットボトルを原料であるテレフタル酸とエチレングリコールに戻し、それらを再び重合することでペットボトルに戻すのです。
通常のメカニカルリサイクルでは原料まで戻すことなくペットボトルへ再利用しますが、ケミカルリサイクルでは原料に戻してから再びペットボトルを作るため、出来上がる性能は新品のものと同じになります。
このようにケミカルリサイクルでは、ペットボトルを繰り返しリサイクルする際に課題となる不純物や耐性の課題をクリアできるのです。
そしてキリンはペットボトルのケミカルリサイクルを達成するため、ポリエステルの製造について高い技術力と知見を持つ三菱ケミカルとの共同プロジェクトを開始しました。
三菱ケミカルは近年環境負荷低減を意識した事業改革を進めており、キリンの掲げる目標と通ずるところも多かったものと推測されます。
BtoBリサイクルはサントリーやコカコーラも進めていますが、いずれもメカニカルリサイクルが主と推測されます。
キリンと三菱ケミカルの連携がどのような価値を生み出すのか、今後に期待です。
三菱ケミカルの最新動向については下記記事をご参照ください。
三菱ケミカルも環境負荷低減を意識した取り組みを進めており、両社の思惑が合致した形でもあります。