業界の動向

電力のカーボンニュートラル

 2050年カーボンニュートラルへ向けて温室効果ガスを排出しない社会を構築するべく、世界的に様々な取り組みが進められています。

 二酸化炭素を排出する大きな要因の1つが発電。電気は私たちの生活を豊かなものにしましたが、電力は全世界で排出される温室効果ガスの27%を占めるとも言われています。

 カーボンニュートラルの達成に向けて電力はどう変わるのか、解説します。

現在の発電

 発電は産業や運輸に並ぶ温室効果ガスの排出源であり、2050年カーボンユートラルに向けて発電方法の環境負荷低減が求められています。

 日本の二酸化炭素排出量を見てみると年間4.5億トン排出しており、分野別でみると最も比率が高いようです。

2050年カーボンニュートラルについて(出典:経済産業省HP)

 今後も脱炭素化の流れで電気自動車や工場の電化などが進むと予想されていますが、そもそもの電力が二酸化炭素を排出しない、クリーンな電力である必要があるのです。

 しかし日本の電源構成を見てみると、CO2排出量の多い石炭やLNG(液化天然ガス)が過半数を占めているのが現状です。

日本全体の電源構成(2020年速報) 環境政策エネルギー研究所より

 当然ですが石炭やLNGは二酸化炭素を多く排出するため、これでは電気自動車が普及したとしてもカーボンニュートラルは達成されません

 そのため将来的には温室効果ガスを排出しない発電方法への代替が必要となります。

 二酸化炭素の排出量が少ない発電方法には、原子力発電と太陽光や風力といった再生可能エネルギーを使用したものが挙げられます。

各種電源別(1kWh当たり)のCO2排出量

 しかし東日本大震災を受けて原子力発電所の増設は難しいため、再生可能エネルギーの拡大が残された選択肢となりますが、これ以上発電量を増やすには様々な課題があります。

 再生可能エネルギーの何が課題となっているのかについて、まず解説します。

 (そもそもカーボンニュートラルとは何か、なぜ目指すのかについては、下記記事で解説しています。)

クリーンな発電方法への転換が達成されれば、脱炭素は大きく前進します。

再生可能エネルギーの課題

安定性

 再生可能エネルギーで最も問題となるのが、安定性です。

 電気は24時間いつでも必要とされるため、常に安定して供給される必要があります。

 しかし太陽光にしても風力にしても、コンスタントにエネルギーが得られるわけではなく、天候次第では電力が得られなくなってしまうのです

 特に太陽光発電では電力が得られない夜に使える代替の電源が必要となり、結局火力発電などの安定した電力に頼ることになります。

 火力発電を使用しないのであれば昼に発電した電力をバッテリーに蓄えておくことが望ましいですが、膨大な数のバッテリーが必要になり、そしてバッテリー分発電コストが増えます

 また電力生産量の季節差も同じく課題になりますし、自然災害の影響を受けやすいことも供給安定面では問題です。

利用できる場所が限られる

 風力や太陽光、水力発電などは、そのエネルギーを安定して利用できる場所が必要です。

 しかし年中強風が吹いたり日が照る場所や、発電に適した大量の水資源がどこにでもあるわけではないため、発電量を増やそうとしても、そもそも発電できる場所がないのです。

 また太陽光発電や水力発電は土砂崩れといった災害のリスクや生態系の破壊なども絡むため、日本においても水力発電や太陽光発電はもう設置場所がないとも言われています。

送電網の整備が必要

 通常の火力発電所は、電力消費量の多い都市近辺に作られます。長距離の送電網が必要ないことや、燃料の輸送が容易なことが理由です。

 しかし再生可能エネルギーに関しては発電に適した場所が限られているため、その場所を選ぶことはできません。

 したがって発電所から電力消費地である都市部へ送電する必要があり、そのためには新しい送電線を引くことになるのですが、それは長ければ長いほどコストアップにつながってしまいます

発電容量の問題

 人口の増加や経済発展により将来的にはもっと多くの電力が必要となり、さらに電気自動車や工場の電化が進むと膨大な量の電気を消費するようになります

 現在使用している電力に加えて、この増加分まで再生可能エネルギーだけでまかなおうとすると、電力の生産は到底間に合わないと考えられます。

 というのも、再生可能エネルギーは火力発電と比較して面積あたりに得られる電力量が少ないのです。

1㎡あたりに得られるワット数
化石燃料500-10000
原子力500-1000
太陽光5-20
水力5-50
風力1-2
バイオマス<1

 太陽光発電の高効率化なども研究されていますが、一般的な太陽光発電の発電効率は25%以下と低く、高いものでも30%程度とまだまだ従来の発電方法に置き換わるものではありません。

 また電力の供給が不安定な再生可能エネルギーは、理論の発電量よりも過剰に設備を増やす必要があり、はるかに多くの土地が必要となります。

コストが高い

 石化資源を使用した電力と比較して、再生可能エネルギーを用いた電力はコストアップになります。

 これまでも述べたように、再生可能エネルギーではより多くの発電設備を備える必要があり、場合によっては蓄電所や送電網を整備する可能性もあるため、そのコスト分も上乗せされてしまいます

 またそもそもですが、化石燃料が非常に安いというのも再生可能エネルギーにおけるコストアップの一要因です。

 化石燃料はすでに世界規模の巨大な産業として存在し、化石燃料の採掘、加工、輸送と価格を低く抑えるインフラが整備されているのです。

 加えてガソリンなどの燃料は非常に高いエネルギーを蓄えており、極めて優秀な資源でもあります。

 このように化石燃料が安価で高性能というのが、切り替えが困難な理由にもなっているのです。

ただし化石燃料は温室効果ガスを排出する欠点が軽視されているため、安価に使用されていると言う面もあります。

将来的に期待される技術

 再生可能エネルギーの課題を挙げてきましたが、これらをブレイクスルーする期待の技術についても紹介します。

洋上風力発電

 洋上風力発電はその名の通り、海などの水域に風力発電設備を設置したものです。

 世界の主要な都市は海岸の近くにあることが多く、送電網の整備が比較的楽で陸上よりも安定して風が吹く点がメリットです。

 一方で現在洋上風力発電は世界の発電量の1%にも満たず、ほとんどがヨーロッパとなっています。

 島国の日本にも適地はたくさんあることから、発電量の向上・海上に設置する技術開発を進めることでコストが下がれば普及するかもしれません。

 しかし土地の確保の問題、観光や漁業などへの影響などが懸念されますね。

水素燃料

 やや発電とは異なりますが、水素は石油に代わるクリーンな燃料として期待されています。

 再生可能エネルギーは安定供給が難しいため、発電した電気を蓄えておく蓄電設備が必要になると解説しました。しかし膨大な量のバッテリーが必要になるためコスト高に繋がり、バッテリーもこれ以上の高性能化は難しい段階まで来ているのが現状です。

 そこでエネルギー貯蔵の新たな候補となるのが水素です。再生可能エネルギーで生成した電気を用い、水の電気分解により水素を製造することでエネルギーを水素の形で貯留・運搬できます。

 生成した水素は燃料電池として電気を取り出すことができ、燃料電池は水しか生成しないクリーンな発電方法なのです。

 しかし再生可能エネルギー→電気→水素→電気と水素を経由するため、損失が大きく効率が低下してしまいます。

 また水素は気体であるため、その運搬や貯留も技術革新が必要です。

 なお水素燃料については、下記記事で詳細をまとめています。

炭素回収

 これまでは二酸化炭素を排出しない再生可能エネルギーについて解説を進めてきました。

 しかし完全に火力発電をゼロにするのは難しいため、化石燃料を使用した火力発電は使用しながらも、発生する二酸化炭素を空気中に排出する前に回収する取り組みも進められています。

 こちらについては産学官ですでに多くの研究がなされて来ましたが、コスト面が釣り合わないため実用化されて来ませんでした。

 現在脱炭素化流れから再び注目されており、日本が世界の脱炭素化を牽引するチャンスです。
 詳しくは下記記事にまとめていますので、こちらをご覧ください。

核融合発電

  原子力発電は温室効果ガスを排出しないエネルギー源でありながら、安定して電力を供給することができます。

 しかし原子力発電所を作るには莫大な予算が必要ですし、核分裂の際に発生する放射性物質が長期にわたり環境を汚染するため、人為的ミスや自然災害により大事故に繋がり兼ねません。

 その課題を克服するかもしれない技術が核融合発電です。

 核融合発電は太陽がエネルギーを生むのと同じプロセスであり、原子核を融合させることでエネルギーを得ます。

 水素原子を5000万℃まで加熱すると、素粒子が高速で移動し、互いにぶつかり融合、ヘリウムと莫大なエネルギーが発生するというもので、原材料が水素のように広く入手可能であり、放射性廃棄物の半減期も短く、放射線量も低い点が魅力です。

 現状では技術的に実用化は程遠いですが、カーボンニュートラルの達成には必要不可欠な技術かもしれません。

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