業界の動向

プラスチックよどこへ行く 廃プラ問題と日本のリサイクル事情

 ここ数年で顕在化してきている"プラスチックゴミの問題"。

 海洋プラスチック問題に端を発し、中国廃プラスチック輸入禁止バーゼル条約などを契機に国際的にプラスチック廃棄物に関心が高まっています。

 プラスチック廃棄物問題や、日本のリサイクル事情について解説します。

海洋プラスチック問題について

 廃棄プラスチックが社会問題として大きく取り上げられるようになった要因として、海洋プラスチック問題が挙げられます。

 ウミガメがストローを詰まらせるショッキングな映像で広く認知されるようになりましたが、不適切に処理されたプラスチックが海の生物や環境に被害を及ぼすと問題になっているのです。

 2019年にはG20大阪サミットにおいて、2050年までに海洋プラスチックによる追加的な汚染をゼロにすること目指す"大阪ブルーオーシャンビジョン"が共有されています。

 産業界においても、官民連携して「クリーンオーシャンマテリアルアライアンス(CLOMA)」が設立されており、プラスチックサプライチェーンの川上から川下に至るまで業界の枠組みを超えて海洋プラスチック廃棄物の削減に取り組んでいます。

 このように軽くて丈夫であり、さらに安価で加工しやすいため大量生産されているプラスチック製品ですが、プラスチック廃棄物の回収・削減に向けて、過剰な使用の抑制や循環性の向上、素材の代替等について見直す機運が高まっているのです。

 2020 年のレジ袋有料化やスタバのプラストロー廃止など、脱プラスチックに向けた取り組みは身近なところでもみられるようになりました。

 海洋プラスチック問題については、下記記事でも紹介しています。

プラスチックの輸出規制

 また海洋プラ問題とは別の問題も生じました。2017年、最大の廃プラ輸出先であった中国が廃棄プラスチックの輸入を規制したのです。

 そもそも日本は廃棄プラスチックの多くを海外に輸出していたのですが、これにより一時的に廃棄プラスチックが行き場を失う問題も生じています。

 日本は東南アジアなどへ廃プラを輸出することで廃プラ問題をやり過ごすことができたようなのですが、さらに2019年にはバーゼル条約改正により国際的に汚れた廃プラの輸出が規制されました

 このように廃プラの輸出に関する規制は年々厳しくなっており、廃プラを国内でリサイクルする必要性が高まっていると考えられます。

日本のリサイクル事情

 昨今の廃棄プラスチックを取り巻く問題は持続可能社会の構築も関わるようになり、これまでのプラスチックを大量生産・大量廃棄する仕組みから石化資源の消費を抑制し、ゴミの量も減らすプラ資源循環型経済への転換が求められています

 そして資源を循環させる上で欠かせない技術がリサイクルであり、日本の廃棄プラスチックの8割以上は有効活用されています。

 実は一口にリサイクルといっても種類があり、大きくマテリアルリサイクル、ケミカルリサイクル、サーマルリサイクルの三つに分けることができます。

 

一般社団法人 プラスチック循環利用協会

 一般プラスチックゴミの処理内訳を見てみると、59%がサーマルリサイクルと過半数を占めていおり、マテリアルリサイクルは17%程度、ケミカルリサイクルについては現状6%しかありません。

一般プラスチックごみの処理内訳
(一般社団法人 プラスチック循環利用協会)

 一見すると廃棄プラスチックも高い割合で有効活用されているように見えますが、実はこの内訳が日本のリサイクルの大きな課題を表しているのです。

 その課題を明らかにするため、これらリサイクルの違いについて解説します。

サーマルリサイクル

 まずサーマルリサイクルですが、これは読んで字のごとく廃棄されたプラスチックを熱資源として利用するものです。

 ゴミとして集められたプラスチックはゴミ焼却炉で燃焼されますが、その際に発生する熱を使って発電したり、温水プールの熱源などとして活用するものになります。

 また石油を原料とするプラスチックは燃えやすいため、燃えにくい生ゴミを燃やす際にも役立ちます。

 さらに分別を必要としない点もメリットです。

 そもそもプラスチックは熱変形可能な石油由来の高分子化合物の総称なのですが、実はポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどたくさんの種類があり、それぞれ異なった性質を示すため、用途に応じて使い分けられているのです。

経済産業省 識別表示の義務より

 したがってプラスチックを素材としてリサイクルしようとするとプラスチックをさらに素材ごとに分別する必要がありますが、プラスチックには普通の人には見分けがつかないものや複合素材となっているものが多々あります。

 そのため廃プラを素材として再利用しようとすると分別するのに手間がかかり、効率も良くないのです

 一方プラスチックは種類によらず基本的によく燃えるので、サーマルリサイクルであれば分別する必要がなく、その簡便さから広く普及しているようです。

 とはいえプラスチックを焼却処分しているためリサイクルと言いながら資源は循環せず、焼却の過程では二酸化炭素も排出されてしまいます。

サーマルリサイクル

 したがって海外ではエネルギーリカバリーと呼ばれ、リサイクルとみなされていません。

 このように日本のリサイクルの大多数が焼却処理であるサーマルリサイクルであるため、再利用可能な資源まで焼却処分しており、資源を効率よく扱えていないことが大きな課題となります。

 限りある資源を有効活用するには、廃棄プラスチックを可能な限り素材として再利用することが望まれるのです。

マテリアルリサイクル

 そこでプラスチックを素材として再活用する手法がマテリアルリサイクルです。

 廃棄プラスチックをエネルギーへ転換するサーマルリサイクルに対し、マテリアルリサイクルでは廃棄プラスチックを新たな製品に再利用しています

 マテリアルリサイクルでは素材ごとに廃棄プラスチックを回収する必要があるのですが、素材別内訳を見てみると、PET、特にペットボトルが多くリサイクルされていることがわかります。

一般社団法人 プラスチック循環利用協会

 ペットボトルは単一素材であることが多く、回収スキームも構築されているためマテリアルリサイクルが90%程度、熱回収も加えるとほぼほぼ有効に資源化されているのです。

 具体的にペットボトルのリサイクル工程を見てみると、回収されたペットボトルは分別、洗浄を経てフレークやペレット状に加工されます。

 このフレークをトレーや繊維などの材料に使用することでマテリアルリサイクルが達成されます。

 廃棄されるプラスチックを減らし石化資源の消費も抑制できることから、リサイクルによりCO2排出量も42%削減できるようです。

PETボトルリサイクル推進協議会

 昨今は脱炭素が叫ばれてはいますが、プラスチックは生活と切り離せない存在なためマテリアルリサイクルを駆使しながらプラスチックを有効活用していくことが重要なのです。

 なおペットボトルのリサイクルについては、下記記事でも触れています。

 しかしマテリアルリサイクルにも課題があり、ダウンサイクルになりやすいのです。

マテリアルリサイクルの課題

 リサイクルにおいては、プラスチックを再び同じ製品へ戻すことが理想とされています。そうすることで資源が製品内で循環し、新たな石化資源の消費を抑えることができるのです。

 しかしペットボトルを見てみると、再びペットボトルにリサイクルされるのは15%にとどまっており、残りは繊維などの別製品へ利用されているのです。

 こういった製品はリサイクルの仕組みが構築されておらず、使用後は焼却処分されることも多くなってしまいます。

 このように別製品へと使用されるリサイクルはダウンサイクルやカスケードリサイクルと呼ばれ、最終的には焼却処分されるため資源が循環しない点が課題になります

カスケードリサイクル

なぜマテリアルリサイクルでは別製品になってしまうの?

 マテリアルリサイクルがダウンサイクルとなる要因は、品質の劣化です。

 マテリアルリサイクルでは分別や洗浄こそ行いますが、プラスチックに劣化や不純物が蓄積するため、リサイクルされたプラスチックは新品と物性がやや異なり、同じ製品へと再生することが難しいようです

 これはペットボトルに限らず、マテリアルリサイクルされたプラスチックは安定生産や食品用途に向かないため、パレットやベンチなどの原料に使用されたり海外に輸出されているのです。

 このように理想的な資源循環を達成するにはプラスチックを同じ製品戻す必要があるのですが、実際は低品位品への転用が多くなっているます。

ケミカルリサイクル

 ケミカルリサイクルとは、廃棄プラスチックを化学的に処理するリサイクル方法です。

 マテリアルリサイクルは破砕・溶融など物理的な処理を施していましたが、ケミカルリサイクルでは化学的に、分子レベルで変換されま す。

 ケミカルリサイクルにはいくつかの手法があり、例えば昭和電工では廃棄プラスチックをガス化しているのです。

 昭和電工KPRでは炭化水素であるプラスチックをガス化し二酸化炭素と水素を生成、水素はアンモニアに、二酸化炭素は炭酸ガスなどとして使用することができます。

 他にも製鉄所で還元剤として使用するのもケミカルリサイクルとされていますが、プラスチックを循環させるという意味では、再びプラスチックに戻すことが好ましく、したがって化学メーカーが技術確立を目指しているのが、プラスチックを原料に戻すリサイクルです。

化学メーカーが目指すケミカルリサイクル

 これはプラスチックを化学的に分解して出発原料に戻し、得られた原料を再び合成することでプラスチックに戻すものです。

 この手法であれば、プラスチックを新品同等の品質にリサイクルすることもできるのです。

確かに分子レベルで分解して再び合成すれば性能は戻りそうだけど、どうしてそんなに手間をかける必要があるの?

 これにはプラスチックの構造が関与しています。

 プラスチックは図で示すような糸まり状の高分子化合物であり、モノマーと呼ばれる低分子化合物がつながりあい、ひも状となったものなのです。

 したがってケミカルリサイクルではプラスチックを原料であるモノマーに戻すことが目標になります。

 そしてひも状の高分子が絡み合うことなどでプラスチック特有の性質が発現していますが、同時に、この性質がプラスチックのリサイクルを難しくしているのです。

 つまり廃プラのマテリアルリサイクルにおいて分子量や結晶性、分子配列などの復元が難しいのですが、ケミカルリサイクルであればプラスチックの品質を新品同等に戻すことも可能になるです。

 この技術、今のところほとんど実用化されていないのですが、各社が技術開発を進めています。

 詳しい取り組みについては長くなりましたので、下記記事にまとめました。よければこちらをご覧ください。

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Youtubeのコミュニティに寄せられたコメントをテーマに取り上げ、化学業界を見通してみる企画です。

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