三菱ケミカルHDは9月30日に、アルミナ繊維事業を米投資ファンドへ850億円で売却すると発表しました。
2021年4月に就任した三菱ケミカルHDのジョンマーク・ギルソン社長は、低炭素経済に適合する成長事業にポートフォリオを組み替えると宣言しており、今回の売却はその第一弾となります。
アルミナ繊維事業は自動車の排ガス処理に使われており当面の伸びが見込まれていましたが、なぜ手放すことにしたのでしょうか。
今回は三菱ケミカルHDのポートフォリオ変革について解説します。
なお本記事の内容は下記動画でも紹介しています。良ければこちらもご覧ください。
ジョンマーク・ギルソン社長の思惑
三菱ケミカルHDでは、2021年4月1日付でジョンマーク・ギルソン氏が社長に就任しています。
初の外国人トップであるギルソン氏は、昨年の就任会見で事業ポートフォリオの改革も述べており、”脱炭素の流れと合致しているか”が事業継続の判断材料になると言います。
というのも三菱ケミカルHDは社会の潮流や技術動向を見据えて2050年のあるべき姿を掲げており、その第一歩として2030年までの長期ビジョンを策定しています。
このビジョンをもとにポートフォリオの改革を行う姿勢を示しているのですが、事業評価のポイントの一つが低炭素社会と適合しているか否かとなっているのです。
実際に環境負荷低減を目指した事業への転換が加速しており、プラスチックのケミカルリサイクル技術などについては過去記事にまとめています。
ポートフォリオ転換の指標の一つが脱炭素の流れとのシナジーなのです。
アルミナ繊維事業
今回売却が決まったのが、三菱ケミカルや三菱ケミカルハイテクニカルが製造販売しているアルミナ繊維「MAFTEC」事業です。
MAFTECは独自の製法により作られる結晶質アルミナ繊維であり、1,600℃という超高温下でも安定した機能性を発揮する耐熱性が売りです。
主に自動車の排ガスを浄化するセラミック触媒担体を走行中の振動や衝撃から守るサポート材や製鉄所などの炉内断熱材として使用されています。
三菱ケミカルはアルミナ繊維で最大手であり、市場もデンカと米ユニフラクスを含めた三社の寡占状態となっています。
さらにマフテック事業の収益環境は、新興国での車需要の拡大を受けて比較的好調に推移していました。
香川事業所や新潟の拠点、関連社員を含めて約450人の規模間があります。
アルミナ繊維事業売却の理由
アルミナ事業は新興国の需要拡大を受けて堅調に推移すると考えられましたが、なぜ売却へと至ったのでしょうか。
これはジョンマークギルソン社長の掲げる、脱炭素化を意識したポートフォリオ改革が絡んでいます。
ガソリン車のニーズにより堅調なアルミナ繊維ですが、実は排気ガスを出さない電気自動車では使われないと考えられています。
したがって電気自動車が本格的に普及する2030年以降は需要が減少すると予想されるのです。
そこで三菱ケミカルHDとしては、まだ成長の見込める現段階が引き際と判断したようです。
実際に譲渡対象事業の資産は約285億円、負債が約39億円であることを考えると、売却額の850億円はかなりプレミアが付いた形となります。
好調な時に売却するから、お金がいっぱい手に入るんだね
三菱ケミカルHDは今回の売却で得た資金を、今後の成長分野への投資や財務改善、株主還元に充てる見込みです。
また売却先の米アポロ・グローバル・マネジメントは昭和電工のアルミ事業を買収するなど、素材・化学、自動車向け部品の支援に経験が深く、譲渡先としても最適と判断したようです。
(昭和電工の最新動向についてはこちらにまとめています。“小が大をのむ?”昭和電工による日立化成の買収)
脱炭素化に向けたポートフォリオの改革はまだ続くことが予想されますので、引き続き三菱ケミカルHDの動向には要チェックです。
追記;三菱ケミカルの石化分離については下記記事にまとめています。
脱炭素化を成長、変革の機会として捉えています。