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ノーベル化学賞"量子ドット"について、仕組みや関連メーカーを分かりやすく解説

2023年のノーベル化学賞、”量子ドットの発見と合成”で米マサチューセッツ工科大学ムンジ・バウェンディ教授ら三人が受賞しました。

量子ドットってなんやねん、聞いたことないわ、という方がほとんどかと思いますが、

すでに身近な製品で実用化されており、日本の化学メーカーがその素材を供給していたりもします。

本記事では量子ドットの実用化例を中心に、解説したいと思います。

量子ドットとは

まず量子ドットとは何か、ここでは簡単に説明すると

粒径が数 nmから10 nm程度 と極めて小さい、特有の光学特性を持つナノ粒子です。

量子ドットのイメージ図
(オーシャンフォトニクス株式会社HPより)
原子10-50個程度からなるとされる

素材としてはセレン化カドミウム(CdSe)といった複数の元素からなる化合物半導体と呼ばれるもので、

この化合物半導体の結晶をシングルナノスケールといった微細な粒子にすることで、独特な性質を示すようになります。

化合物半導体(住友電工HPより)

イメージしやすいのが色変換、量子ドットは青色など特定の光を吸収して、赤や緑といった光へ変換することができるのです。

出典 量子ドットによる高色域技術
(映像情報メディア学会誌)

そして量子ドットの特徴となるのですが、この色の変換は、粒子サイズへ依存するのです。

ここが通常の塊(バルク)と量子ドットの違いですね。

量子ドットのサイズ依存性
(オーシャンフォトニクス株式会社HPより)

原理に興味ある方へ

結晶サイズが励起子のボーア半径程度となると、励起子の閉じ込めによりエネルギー順位が離散化する量子閉じ込め効果や、

電子正孔のクーロン相互作用、電荷分極によるポテンシャル変調の影響により、電子や正孔のエネルギー順位が結晶サイズ依存性を示すようになります。

ナノスケールにおける状態と挙動
(出典Imidas

量子ドットのサイズとエネルギー準位の関係については、ナノ結晶サイズが小さくなるにつれて半導体のバンドギャップは大きくなる、つまり発光スペクトルが短波長シフトすることになります。

量子ドットの結晶に励起光が入ると、結晶内の電子が光のエネルギーを吸収。
その電子が元の状態に戻ろうとする際に発生する“エネルギーギャップ”の幅で、赤や緑色に結晶が発光(波長変換)される。(図Merck HPより)

ただその変化の度合いがナノ結晶ごとに異なり、電子や正孔の有効質量の違いなどを反映しています。

また量子ドットの液中での分散状態や、固体膜形成時の間隔調整などなどからリガンドと呼ばれる有機化合物も用いられ、

リガンドが量子ドットの物性に担う役割も大きく、その制御技術も重要です。

つまり量子ドットは組成や量子サイズ効果を活用することで多様な物性を示し、

超高効率太陽電池への応用、生体イメージングなどその適用領域も多岐にわたっているのです。

では具体的に適応例や、企業での開発事例などを見ていきましょう。

ディスプレイ分野

適用例

量子ドットの実用化例として、やはりディスプレイが挙げられます。

先ほども解説した通り、量子ドットはサイズを調整することで光(波長)の幅広いチューニングが可能となるため、

ディスプレイ材料として極めて有利な特性を有しているといえます。

例えば、この特性を利用した製品が液晶ディスプレイのバックライト部材です。

従来の液晶ディスプレイでは、白色のバックライトとRGBのカラーフィルターでカラー表示しています。

実はこの白色バックライトは、青色LEDと黄色蛍光体を組み合わた疑似白色LEDが主流となっており、

構造がシンプルでコストに優れるも、赤から緑の光がブロードで色純度がいまいちでした。

一方量子ドットを用いた液晶テレビでは、青色LEDのバックライトと量子ドットシートを組み合わせて白色光を作ります。

量子ドットはサイズを調整することで任意の光へ変換することが可能、またサイズを統一することで色純度が高い点も特徴です。

したがって青色のバックライトが量子ドットシートに当たると、シャープな緑色、赤色が生成され、

バックライトの青色と合わせて、色純度の高いRGBで構成された白色光が得られるのです。

色純度が高いとは純粋な原色(赤、緑、青)の波長に近いことで、ピュアな色が取り出せるため、

色鮮やかなで高色域なハイエンド液晶ディスプレイとして開発、販売されていますね。

量子ドットを用いた液晶ディスプレイの色再現領域の例
出典 知っておきたいキーワード 量子ドット(都築俊満)

量子ドットは液晶テレビ以外にも、有機ELテレビへの展開も進められ、サムスンは量子ドット有機EL(QD-OLED)で市場参入、

最先端のマイクロLEDディスプレイの色変換にも量子ドットは使用されるとみられます。

青色の有機EL光源を量子ドットによって赤色と緑色に変換する。
青色のバックライトを100%変換する必要があり、量子ドットの使用量は増える。

また究極のディスプレイと言われる自発光型ディスプレイにも欠かせないなど、量子ドット材料のさらなる需要増に期待がかかりますね。

関連企業

ではそんな量子ドットに関連した企業を解説します。

量子ドットメーカーとしては、米NanosysやQD visionから事業買収したサムスン、ほか独merck、日系企業ではNSマテリアルズ、昭栄化学工業あたりが挙げられます。

開発のトレンドとしては重金属であるカドミウム(Cd)を用いない量子ドット設計で、大手である米ナノシスや韓サムスンが手掛けるInP系が主流になるとみられます。

当初量子ドットには色純度や変換効率、輝度の点からCdが用いられていましたが、環境に優しいCdフリーのニーズが高まっているようです。

カドミウムはRoHS指令で規制されている。
RoHS(読み方:ローズ)指令とは、電気・電子機器に含まれる特定有害物質の使用を制限するEU(欧州連合)の規制です。

続いて日系企業も解説しておきますと、NSマテリアルズは産総研発のベンチャーで、ディスプレイ用量子ドットと量子ドットシートを手掛けるメーカーでしたが、

2023年8月に凸版印刷へ事業譲渡していました(コロナ禍でダメージを受けていたよう)。

NSマテリアルズHPより

また昭栄化学工業は電子材料を手掛ける化学メーカーで、量子ドットでは後発であったものの事業化を進め

2019年に米ナノシスから製造受託を受けており、そして2023年9月にナノシスを買収した公表されています。

ナノシス社からのプレスリリース

ディスプレイ市場の中心地であるアジアへ生産を移すことで、コスト低減や市場拡大を狙うとしていますが、

情報が少ないので、もう少し精査する必要がありますね。

最後に素材メーカーとしては、日本化学工業が量子ドット用リン原料でトップメーカー、世界シェアの7~8割を握るとされています。

TMSP  Tris(trimethylsilyl)phosphine
InP量子ドットを製造する際のリン源として一般的に用いられる。
出典日本化学工業HP

原料となるホスフィンガスは自然発火し、毒性もあるのですが、

日本化学工業は安全に取り扱うノウハウを持ち、原料から誘導品まで一貫製造できる数少ないメーカーです。

日本化学工業HPより

日本化学工業は量子ドット用リン原料の需要増を見越して2023年に増強を完了、生産量を従来比5倍まで引き上げており

今後投資の収穫期に入るのか、中長期的な成長に着目です。

その他の適用事例

量子ドットはディスプレイの他にも、太陽電池や生体イメージングへの適用も研究されています。

既存の太陽光電池は、赤外光付近の活用が得意ではありませんでしたが、

量子ドットを利用して光電変換領域を赤外領域まで拡張することで、太陽光のフル活用が見込まれています。

太陽光発電の仕組みHPより

コロイド量子ドット太陽光電池を用いることで、理論変換限界効率は従来の二倍以上、70%近くまで向上するともされています。

メーカーとしては、富士色素グループ発のベンチャー、GSアライアンスが量子ドットを用いた太陽電池に加え、

人工光合成、また光る肥料を開発するなど独自性のある取り組みを進めていますね。

量子ドットはその可能性が探求され始めた段階、今後適用領域が広がると期待されますね。

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