業界の動向

真に稼いでいる企業とは、効率指標ROICから化学メーカーを解説【化学メーカー】

最近化学メーカーでも目にするようになったROIC、みなさまはご存知でしょうか。

なぜROICが優れているとされるのか、ROICから化学メーカーを読み解くとどうなるのか、最後にはROICが高い化学メーカーについて解説して行きたいと思います。

まずはそれぞれの指標について解説して行きます。

ROEとROAについて

ROIC、企業分析をする上で他の指標より優れているとも言われているのです。

まずはそれぞれの指標について解説して行きます。

ROE、ROA、ROICはいずれも企業の稼ぐ力を表す指標でReturn of 〇〇を意味しており、ROEは自己資本、ROAは総資産、そしてROICは投下資本に対してどれだけ稼いだかを表します。

就活生からするとなんのこっちゃかもしれませんが、会社の仕組みから簡単に説明しますと、そもそも株式会社は事業に必要な資金を外部から調達し、製品やサービスを通してお金を稼いでいます。

調達資金は株式を発行して株主から調達するような自己資本と金融機関から借り入れる他人資本の2種類に分けられ、調達した資金を元手に工場といった資産を購入、運用することで利益を生み出しています。

ちなみに他人資本には支払・返済の義務があり、他人資本の比率が高いと安全性が低いと見られます。

このように調達した資金や持っている資産に対して、どれだけ稼いでいるかが今回取り上げる指標となるわけですね。

たとえば会社の純利益を、株主等から調達した自己資本で割ったものがROE(自己資本利益率)であり、つまりは株主からもらったお金で企業がどれだけ稼いだかを表す数値となるわけです。

ROEの考え方

投資家というのは投資した金額に対して企業がどれだけ利益を上げられるかを意識するため、ROEは投資家が稼げる企業を分析するときに重視する財務指標の1つと言われています。

当然自己資本に対して稼ぐ能力の高い会社(=ROEが高い会社)に投資する方が利益を得られる可能性が高くなるため、ROEの高い企業には資金が集まりやすく、得た資金を元手に業績が向上する好循環が生まれやすくなります。

しかし投資家にとって理解しやすいROEにも落とし穴があり、ただROEが高ければ良いというわけでもないのです。

というのもROEは純利益が高まるだけでなく、自己資本が減少しても高くなってしまうのです。

具体的に化学メーカーを財務指標から読み解いてみましょう。

大手総合化学である三菱ケミカルGと旭化成の2022年3月期決算を見てみますと、売上高では業界1位の三菱ケミカルGが抜き出ていますが、旭化成は利益率で勝り、稼ぐ能力はやや高いと言えます。

しかしROEをみてみますと、より稼いでいる旭化成よりも三菱ケミカルGの方が高くなっています。

会社四季報 2022年3集夏号

稼ぐ指標であるROEが、なぜ営業利益率と乖離してしまうのでしょうか。

これが負債比率、いわゆるレバレッジの掛け方の違いによるものです。

この2社の財務状況をみてみますと、三菱ケミカルGは総資産に占める自己資本の比率が低く、資産に占める他人資本、つまり負債が多いことがわかります。

三菱ケミカルGは戦略的にM&Aを行い規模拡大を進めたため、足元では有利子負債が増加しているのですが、結果として三菱ケミカルGの方が自己資本が少なくなり、自己資本を分母とするROEでは利益率と逆転するのです。

会社四季報 2022年3集夏号

こうした経営状態は財務レバレッジが上がったなどと言い、ROEが高くとも借入のリスクも注視する必要がありますね。

このようにROEは他人資本を考慮に入れておらず、また負債比率を変えるテクニックで改善もできてしまうため、ROEとともに着目すべきとされている指標がROA、総資産利益率です。

ROAは自己資本と他人資本を合算した総資産に対してどれだけ稼いだかを表す指標であり、自己資本のみのROEと異なり、全体の資産により稼ぐ効率を表すものとなります。

先ほどの2社の例を出しますと、総資産は少ないもののより効率的に稼いでいる旭化成の方がROAは高くなっており、他人資本も含めた全体の資産でみると旭化成の方が利益効率が良いと言えるのです。

会社四季報 2022年3集夏号

このようにROEとROAは財務安全性の面などからセットで評価することが一般的であり、ROEが10%、ROAは5%を超えて入れば優良企業と言われます。

なおROEは投資家向け、ROAは経営者や債権者にも重視される指標となりますが、就活生は自身を企業に投資するようなもののため、両方見ておくと良いかもしれませんね。

ちなみに株式市場の評価である時価総額を見てみると旭化成の方が高くなっていることから、市場ではROEとROA、財務状況のバランスなどトータルで評価されていると言えますね。

会社四季報 2022年3集夏号

市場ではROEとROA、財務状況のバランスなどトータルで評価されていると言えますね。

一方三菱ケミカルGも大胆な構造改革を進めており、今後の成長に期待されます。

ROIC

さて、ここからが本番ですがROICとはなんなのでしょうか。

実はROEとROAよりも、純粋に企業の稼ぐ力を評価できると言われているのです。

ROICは投下資本利益率と言われ、文字通り投下資本に対してどれだけ稼いだかの指標となります。

投下資本とは事業を運営・成長する上で必要な資金や、工場や機械といった固定資産の合計とされ、つまりROICは実際にビジネスに使用した資産に対してどれだけ稼いだかの指標となるわけです。

加えて投下資本の元手は基本的には有利子負債や株主資本となるため、負債比率を変更してもROICには影響せず、事業の稼ぐ力を純粋に評価できる点がROICのメリットの1つとなります。

一方で資本構成の影響を排除したいだけならROAで良いのではないかと思うかもしれませんが、ROAでは事業に直接関係ない株式や余剰な現預金といった資産の影響が含まれてしまいます。

例えば安全性の面から現預金を多く保有している企業は、相対的にROAが減少してしまうこともあるのですが、ROICでは事業に直接関係ない資産を除くことで、資本に対しての利益創出の効率を純粋に比較可能となります。

出典

例えば化学業界きっての怪物企業、信越化学工業を見てみましょう。

前期の信越化学は売上2兆円に対して営業利益6763億円、利益率にして32.6%と驚異的な数字を叩き出しており、総合化学でも利益率の良い三井化学がくすんで見えてしまいますね。

会社四季報 2022年3集夏号

信越化学工業の強みの1つは徹底した経営の合理化にもあるのですが、稼ぐ効率の指標であるROEを見ると2社であまり差が出ない結果となっています。

信越化学はお金持ち企業のため、分母となる自己資本も大きくなってしまうことが要因で、そこで総資産を分母とするROAを見てみると信越化学は12.3%と高くなっていることが分かり、さらにROICでは27.2%と、信越化学が極めて効率的に稼いでいることが伺えます。

会社四季報 2022年3集夏号

このようにROICでは、企業の利益創出の効率を純粋に比較可能と言われているのです。

これまでは売上や利益の絶対額を重んじる企業が多かったのですが、昨今のコーポレートガバナンス意識の高まりを受けて、ROICという効率性指標を採用する企業が増えているようです。

この動きは化学業界においても見られており、三菱ケミカルGは早期からROICを経営管理指標に導入しています。

三菱ケミカルHD(当時)は事業部門ごとにROICの目標値を定め、最低限の基準値を下回り続けたら事業撤退を検討するなど、各事業部横断の経営指標を採用し、資本効率を意識した経営を進めてきました。

※少し古い記事の内容です。持株会社制は区切りにしています

このように事業部門ごとに目標値を設定できる点もROICの利点なのです。

ROEでは事業別に自己資本を算定することが困難なため、業績管理への使用が難しかったのですが、ROICでは事業に用いられている資産を特定・配分処理することで、事業評価への導入が可能となるのです。

現在も大胆な構造改革を進めている三菱ケミカルGですが、このような事業評価も参考しているのかもしれません。

なお三菱ケミカルGにおけるROICの推移を見てみると、まだ低調に推移していることが伺えます。

三菱ケミカルG 2022年3月期 決算短信

2021年度はROEで見ると13.2%と好調にも見えるのですが、これはアルミナ繊維事業の売却益を含んでおり、本業の利益効率であるROICは5%以下、アルミナ繊維売却による減益で本年も前期並を見込んでいるのです。

三菱ケミカルの中平優子CFOは「(ROICが)低い水準にある現状に危機感がある。利益を稼ぐのに必要な投下資本が大きすぎて非効率だ。ROICの観点を踏まえ、事業や設備投資を厳しく選別して資本効率を全社で引き上げ、26年3月期までにROICで7%以上をめざす」としています。

資本効率を全社で引き上げ、26年3月期までにROICで7%以上をめざす」としています。

「企業価値の最大化を意識していくことの意思表示」(昭和電工 高橋社長)としています。

他にも旭化成や三井化学が事業別にROICの導入を進めており、投下資本の効果や成長を事業ごとに評価することで、これまでの規模の拡大だけではなく、経営効率を意識したより効率的な利益創出を目指すものとみられます。

まだROICは経営指標に導入していない企業も多い印象ですが、今後は投資家から求められるようになりそうですね。

化学メーカーのROICについて

最後に、化学メーカーのROICを比較して終わりにしましょう。

なお説明できていませんでしたが、ROEやROAでは分子に純利益を用いるのに対して、ROICでは税引後営業利益を使用します。

ROEは株主向けの財務指標なので、配当金の原資となり企業全体で稼いだ純利益が用いられているようですが、ROICは事業で使用した投下資本に対して、事業で得られた利益を比較するため税引後営業利益を用いているほか、株主と債権者の両方から調達した資金を使用しており、利益もそれに対応したものを用いている理由があるそうです。

話が逸れましたが、ROICの高い化学メーカーを見てみましょう。

条件

上位は日産化学と信越化学の安定感ある2社で、東ソーや日東電工、日油が続きます。

この辺りは稼ぐのが上手な企業ですので、イメージ通りかもしれませんね。

ちなみにこれら企業はこちらの記事でも解説しています。

なおROEとROICで上位5社を比較しますと、ROEでは日油や信越化学といった資本力のある企業が下がる印象で、それぞれ指標の意味するところを認識して企業を評価していく必要がありますね。

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今回は総合化学メーカーと呼ばれる三菱ケミカルG、住友化学、三井化学、加えて旭化成、東ソーの5社を解説します。 事業内容も比較していますので、就活、転職、株式投資のご参考に良ければ最後までご覧ください。

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Youtubeのコミュニティに寄せられたコメントをテーマに取り上げ、化学業界を見通してみる企画です。

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