業界の動向

2023年の振り返りと、2024年の化学業界について【コメント返信】

視聴者の皆様と、2024年の化学業界を見通してみる企画です。

2024年は、化学業界にとって大きな転換点となりえる、重要な年ではないかと考えています。

その理由なども解説していきます。それではどうぞ。

これまでの化学業界の振り返り

2024年の見通しの前に、ここ数年の振り返りから。

まずこちらが、大手総合化学5社の営業利益の合計を、四半期(三ヶ月)毎にプロットしたもので、

三菱ケミカルG、旭化成、住友化学、三井化学、東ソーの営業利益推移
元データ バフェットコード

2020年から2023年にかけて、富士急ハイランドのええじゃないかを思わせる浮き沈みが見て取れます。

富士急ハイランド/ええじゃないか

全くええことはないんですが、ここ数年いったい何があったのか、順に解説します。

まず2020年はみなさまご存じの通り、コロナ禍で人や物の交流が制限され、

需要面から経済が停滞、外部環境の影響を如実に受ける化学業界も苦戦を強いられました。

しかし2021年、世界経済の回復を背景に石油化学製品の市況が高騰、総合化学を中心に大幅増益で、

さらに巣ごもり需要も追い風となり、電子材料などスペシャリティケミカルも活況、

化学業界では最高益を記録する企業が相次ぎました。

ウハウハ状態ではあったものの、2021年はコロナ禍の反動や需要の先食いを受けた追い風参考記録で、

実力以上の収益となっている企業も多い印象です。

そして流れが変わり始めた2022年、ウクライナ戦争を発端に原燃料が急騰しました。

製品値上げや円安効果はありつつも、それを上回る勢いで製造コストが上昇、

2022年の流行語は増収減益か、というくらいに、化学メーカー各社は利益が圧縮されてしまいました。

そして2023年、物価の高騰に起因して国内では消費が停滞、

インフレ抑制を図った欧米の利上げによる投資抑制、お隣の中国でも経済が停滞するなど、

世界経済の減速が鮮明となり、石油化学を中心に景気が悪化してしまいました。

加えてコロナ禍の巣ごもり消費が需要の先食いであったことなどから、スマホなどエレクトロニクス市場も弱含み、

半導体やディスプレイ材料といったスペシャリティケミカルも低迷を余儀なくされました。

結果として、2023年はコロナ禍と変わらないくらいの利益水準となっており、

化学メーカーにとっては受難の年でしたね。

いったいこれからの化学業界はどうなるのか、視聴者の皆様と見通していきたいと思います。

また私の意見は、最後に述べさせていただきます。

就活市場について

昨今の化学業界の地合いの悪さを受けて、

弊チャンネルでも就活生に不安を感じさせることもあり、申し訳なく思っています。

確かに化学業界は地合いが悪く、企業の採用数も、業績に左右される点は否定できません。

ただ全体として、就活市場は例年と大きく変わらないのではないかと思います。

ごりお

私は技術畑なので、就活市場については、参考程度に聞いてもらえれば幸いです。

リクルートワークスが公表する、去年の大卒求人倍率は1.71倍、

数字が高いほうが仕事を見つけやすいのですが、徐々にコロナ禍前の水準に近付いています。

化学業界に関しても、有効求人倍率は1倍を超えて、横ばいで推移しており、

求人倍率については、意外と堅調な状況となります。

堅調さの背景にあるとされるのが、少子高齢化による構造的な人手不足で、生産年齢人口は年々減少しています。

実際に化学業界の雇用人員判断D.I.をみてみると、これはマイナスなほど人手が不足していることを表しますが、

全企業で-20%前後、大企業から中小企業まで人手が不足していると感じているようです。

今年の有効求人倍率は4月にならないと分かりませんが、

採用人数が例年と比べて、大きく悪化することはないのではと思います。

では、どういう企業がおすすめかというと、

就活生の皆様が希望する年収、勤務地、職種、ワークライフバランスに職場の雰囲気などと、企業とのマッチングが一番大事ですが、

やはり成長している企業・分野に入る方が、ポジティブな機会が多くて良いのではないかと思います。

調子のよい企業などは、弊チャンネルでも発信していますし、

就活生向け情報はブログで投稿していますので、そちらも参考にしてみてください。

就活生の皆様を、応援しています。

AGCについて

AGCについて、これはたくさんリクエストをいただいていましたね。

最近では、広瀬すずを起用したCMで、ご存じの方も多いのではないでしょうか。

AGC 個人投資家向け説明会資料より

AGCは旧社名の 旭硝子からも分かるように、東証の分類上ガラス・土石セクターに属し、化学とは異なります。

ただ、その売上高は2兆円を超える大手企業、ガラス業界では多くの製品群でトップシェアを誇ります。

そんなガラス界の覇者AGCですが、実はガラス業界に属しながらも化学品事業を有しており、

その売上高はおよそ全体の3分の1、ライフサイエンスも含めれば4割と、化学品が半分近くを占めているのです。

化学系事業の売上規模はおよそ7000億円で、化学業界ではカネカやクラレに並びますね。

また利益面における化学品の存在感はさらに顕著で、セグメント別営業利益の推移をみてみると、

緑色の化学品の比率は年々増加し、ここ数年は利益の大多数を稼ぐなど、すでに収益の柱として成長しています。

祖業のガラスは内需の減少や新興国の台頭で競争が激しく、また市況の影響も受けやすかったたため、

AGCは化学品事業をクロール・アルカリ チェーンからフッ素化学品、ライフサイエンスへと多角化を進めてきたのです。

では、今後のAGCはどうか。

AGCはエレクトロニクスやライフサイエンス分野といった、資本・炭素効率の良い事業を拡大させる戦略のようで、

化学品では、市場が成長するバイオ医薬CDMOや半導体材料への期待も高まります。

ただ気になるのが、コメントでも指摘のあった欧州でのPFAS規制。

PFASとは、完全にフッ素化されたメチルまたはメチレン炭素原子を、少なくとも一つ含むフッ素化合物と定義され※、

おおざっぱに言えば、PFASはフッ素化合物全てを含めた総称となります。

PFASは、強固なフッ素-炭素結合をもつことから化学的に非常に安定で、

優れた耐性を示すため、幅広い産業で用いられています。

ただその安定性がゆえに、人や環境への残留性も高く、2023年、欧州はPFASを幅広く規制する制限案を打ち出したのです。

また米3Mは、2025年にPFASの生産や使用を全廃すると宣言するなど、業界地図にも変化が生じています。

出所:吉田SKT HP

これまでもPFOAやPFOSといった、リスクが確認された一部のPFASは世界的に規制されていましたが、

上記のような化合物の総称がPFAS
※経済協力開発機構(OECD)の定義
出所:日本バルブ工業会

今回は一万種を超えるPFASに、一括で規制をかけようとしているのです。

PFASって一万種以上あんねんで
元画像

日本ケミカルプロダクト協議会の試算では、欧州規制によっておよそ1兆円の影響を受けるとしており、

1600億円の規模がある、AGCのフッ素化学品も影響は免れないと考えらえれます。

このようにPFASを手掛けるメーカーには難しいかじ取りが迫られているのですが、

AGCについては、PFASから撤退するのではなく、現実解を探る方針とみられます。

というのも、欧州のPFAS規制はやや乱暴なところがあるのも事実で、

十分な科学的・合理的根拠がないまま、PFASを一括で規制している点が疑問視されています。

AGCとしては、科学的にリスクが示されたPFOA、PFOSの販売・製造はすでに手掛けておらず、

これまでもリスクを先読みし、PFASにかかわる物質の、環境負荷の最小化に取り組んできたとしています。

半導体や電池業界など、高度化する要求水準にこたえるため、PFASが欠かせない産業もあるので、

AGCはPFASの重要性を示しつつ、正しい認識を持ってもらえるよう、

欧州規制にパブリックコメントを提出するなど、活動を進めているようです。

AGCはフッ素化学品事業でグローバルニッチ戦略を掲げ、独自の地位を築いており

売上高も2030年には、2倍となる3000億規模を目標にするなど、

成長も期待される分野なので、神経をとがらせている面もあるかと思います。

ただ米3Mなどは、PFAS汚染で自治体に多額の賠償金を支払うことで合意するなど、

賠償リスクや風評被害が生じる可能性も否定できないため、慎重なかじ取りが求められますね。

個人的には、PFASは無くせるところは無くしていけばよいと思うのですが、

代替が難しい分野もあると思いますので、

リスクとリターンを鑑み、ある程度譲歩した規制となることに期待したいです。

個人的意見

最後に、私の見通しを述べさせていただきます。

2024年は化学業界にとって、ひとつの転換期になるのではないかと考えています。

ホットな話題でいえば、石油化学と半導体材料でしょう。

大手総合化学では、赤字に陥る石油化学事業の構造改革が喫緊の課題で、

2024年度中に、ある程度再編の方向性が示されると考えられます。

またカーボンニュートラルへのタイムリミットも迫っており、

CO2多排出産業である石油化学には、再編と併せて、そろそろ具体的な投資判断が求められています。

加えて社長が交代する三菱ケミカルGや、抜本的な立て直しが求められる住友化学では、新中計も公表される予定となるなど、

大手総合化学各社の、長期的な成長性を判断するうえで、重要なイベントが目白押しなのです。

また低迷していた半導体材料では、在庫調整が進み、回復の兆しが見えているようです。

調整の早かった後工程材料や、長期在庫に向かないフォトレジストはいくらか早い回復が期待されますが、

対して、半導体サプライチェーンの最上流に位置する多結晶シリコンなどは、回復に時間がかかるとみられます。

このように手掛ける材料によって、企業の回復時期も異なると考えられますので、各社の動向は要チェックですね。

これからも,化学業界の動向、メーカーを解説する予定ですので、​

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​ここまでご視聴ありがとうございました。​また次回の動画でお会いしましょう。​

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今回は総合化学メーカーと呼ばれる三菱ケミカルG、住友化学、三井化学、加えて旭化成、東ソーの5社を解説します。 事業内容も比較していますので、就活、転職、株式投資のご参考に良ければ最後までご覧ください。

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