業界の動向

生成AIが化学メーカーに与える影響とは

今回は生成AIと化学業界についてです。

彗星のごとく現れ、またたく間に世間を席捲、昨今の株式市場をも牽引する生成AI。

世はまさに大半導体時代の様相を呈していますが、これは化学メーカーにとっても他人事ではありません。

生成AIの波に乗る企業はどこなのか、考察していきます。

生成AIとは

本編は2部構成で、前半は生成AIが化学メーカーのビジネスモデルへ与える影響、

後半は日本の化学メーカーが得意とする半導体材料への影響、それぞれを深堀りたいと思います。

では本編に入る前に、まず生成AIについておさらいしておきましょう。

生成AIは人間の指示を受け、学習済みのデータを用いて文章や画像などを作成するAIの総称です。

高度で専門的な知識やスキルがなくとも、簡単にテキストやイラストを作成できる点が特徴で、

この点から生成AIは従来のAIと比べ、幅広い用途での使用が見込まれていますね。

その中でも有名なものは、Open AIが公開したChat GPT。

みなさまも文章の要約や英語の添削、アイデアの壁打ちなどで使用したことがあるのではないでしょうか。

Chat GPTは、従来のチャットボットのようなプログラム内の返答ではなく、会話形式で対話でき、

人と自然に会話するように、そして人よりも賢いと思わせる文章を返してきます。

※直前の文章に確率的に続きそうな文章をどんどんつなげていく単純な仕組み.。
文章作成には大規模言語モデル(LLM)と呼ぶ基盤技術が必要で、Chat GPTは桁違いのパラメーターを学習させた。

すでに畏敬の念を感じさせる生成AIですが、恐ろしいのはこれからで、

この分野の技術進歩は著しく早く、今後さらに高度なものになる可能性もあるのです。

内閣府の「AI戦略会議」では、AIがもたらす自由と変革は産業革命よりも大きいと分析するなど、

生成AIによって、今後のビジネスモデルが抜本的に変わる可能性も秘めているのです。

実際のところ課題もあり、期待が先行している面もあるとみられますが、

構図が転換するタイミングは、チャンスをつかむ企業が躍進するきっかけとなり得ます。

次に、生成AIが化学メーカーへ与える影響を考察したいと思います。

モノづくりへの活用

誰でも使えていろいろできるがゆえに、どう使えばよいか分からなかった生成AIですが、

登場から一年余りがたち、その利用の目的も明確化されつつあります。

日刊工業新聞社のアンケートによると、4割の企業が生成系AIの活用に着手しているなど、

その普及も定着段階に入ったのではないでしょうか。

しかし、依然として使用を禁止している企業も存在します。

ここでは生成AIがもたらすメリットとリスクを挙げながら、

化学メーカーのビジネスモデルがどう変わるのかを取り上げたいと思います。

生成AIがもたらすメリット

まず生成AIを活用するメリットとして、よく挙げられるのが業務効率化です。

そんなこと言って、これまでも企業では自動化ツールを導入するなど、業務プロセスの効率化を図ってきた、

今さら生成AIにつけ入るスキがあるのか、とも思うかもしれません。

クラウドコンピューティング、
データアナリティクス、5G、IoTなどなど

しかし生成AIの登場により、文章作成など、従来では人の介入が必要な業務まで代替が可能になると考えられています。

生成AIは自然言語対話や汎用性の高さから、人っぽいことができてしまうのですね。

また生成AIは単独で用いるだけでなく、ほかのツールやシステムとの連携も期待されています。

例えば企業内データのインターフェースとして生成AIを活用することで、

社内に散在するデータ・システムの一元アクセスも可能となるのです。

実際の活用事例として、先日DX戦略説明会を開催した住友化学の例を紹介しますが、

文章やプログラムの作成に同社版の生成AIを活用することで、従来よりも30%の作業効率化を実現したとしていますね。

出所:住友化学DX戦略会議

また今後は、大量の社内データから有益な情報を見つけ出す、ナレッジマイニングの導入を進めるとしています。

このように、まずは生成AIと企業システムの連携による、業務効率化や情報活用の促進が検討されていますね。

こうした取り組みに加えて、化学メーカーのようなモノづくり企業では、

製造・研究の両面においても生成AIの活用が期待されています。

製造面では、日本の強みである現場の技術をAIに落とし込むことで、人手不足の解消や生産能力の最大化が期待されます。

また研究面での期待も大きく、AIは人よりも圧倒的に多くの文章を迅速に処理可能であるため、

文献の読み込みや調査、複雑化する規制動向の把握や理解の支援に役立つと期待されます。

また化学の分野は素材や条件の組み合わせであるため、AIを活用した最適化支援も考えられます。

工場のオペレーションや研究の調査・検討もAIが担うようになれば、

人間に残されたことは最終決定や責任を取ることくらいかもしれませんね。

生成AIのリスク

このように新たな可能性を秘めた生成AIですが、それでも使用を見送る企業も存在します。

現状では活用方法の曖昧さやセキュリティへの理解が十分でなく、

情報漏洩や信ぴょう性、ルール形成、倫理との整合性などがリスクとみられます。

特に信ぴょう性については、学習済みデータの正確さと有用性に満足できないほか、

もっともらしいが正しくない、ハルシネーションが生じることも懸念点でしょう。

こういった情報漏洩や信ぴょう性の観点から、生成AIのオープンソースを使うだけでなく、

自社のデータを学習・連携させた安全な環境を構築できるかが競争力を左右するとみられますね。

また利用者にも前提条件や出力結果を判断する専門性を育むなど、

まずは正確性と有用性を確実にする基盤の整備が必要ですね。

現状と今後

最後に現状のまとめと、今後の展望についてです。

現状はリスクとメリットを鑑みながら、基盤の整備と特定業務への利用の促進が図られている状況とみられます。

ただ米国に比べると日本でのデジタル経営の実践は遅れているほか、

日本では社内効率化、米国では会社規模拡大や利益増など攻めの姿勢と、活用にも差がみられます。

※米国ではデジタル経営の実践が53%を上回るが、日本は26%にとどまる(JEITA)

生成AIは単なる技術導入ではなく、ビジネスモデルの根本的な変革となり得るため、

これまでの体制でAIを取り込むのは難しい面もあるのかもしれません。

まずはコスト削減でノウハウを蓄積しつつ、

日本メーカーの得意とする改良を重ねることで、より精度を高め、AIを戦略資産にまで昇華、

将来的には利益創出に移行することを期待したいですね。

半導体材料

さて、前半では生成AIの活用について解説しましたが、生成AIに欠かせないのが半導体です。

生成AIの躍進の裏には、当然半導体の進化があるため、

半導体材料を手掛ける日系化学メーカーにとって、ビジネスチャンスとなり得るのです。

後半は半導体材料メーカーの観点から、解説していきたいと思います。

生成AIに用いられる半導体

まず生成AIにかかわる半導体の特徴について解説しますが、

生成AIサーバーはGPU(画像処理半導体)という並列処理に適した半導体が多用されています。

処理に求められる行列演算が画像処理に近いらしいです。

この分野においては現状エヌビディアが独占的な地位で、したがって株価も爆上げだったわけですね。

ではエヌディビアの生成AI向けGPUの特徴は何か。

その製造プロセスには先端ノードのものが用いられ、TSMCの4ナノプロセスが採用されているようです。

(最先端のN3プロセスは見送られたようです)

これ自体は先端材料を得意とする日系企業にとっては追い風と予想され、

足元では冷え込む半導体市場の、成長ドライバーとなると良いですね。

また生成AIには、縦方向にチップを集積させる、最先端のパッケージ技術が採用されている点も特徴です。

というのも、生成AIではメモリー容量や帯域幅が重要となり、

メモリーにはGPUに付帯するHBMが用いられるなど、三次元実装技術の採用が加速しています。

HBM構造参考図
HBM=DRAM ダイ+Logic ダイ with TSV(Through Silicon Via)
出所:東京エレクトロンデバイス株式会社

カレーの上にカツ乗っけて、カレーの良さ最大限に引き出しますやん、みたいな感じです。

このように、従来の前工程の微細加工技術にとどまらず、後工程材料も注目されており、

こうした三次元実装技術に強みを持つ企業としては、レゾナックが挙げられます。

レゾナックは、後工程材料で幅広いラインナップを持ち、最先端のAI半導体にも積極的に投資していますね。

最近解説しているため、今回解説は譲りたいと思います。

ほかでいえば、三次元実装ではあらかじめチップを薄くする必要があるため、

研削用テープを手掛けるリンテックなども追い風となるかもしれません。

また現状はエヌディビアが独占するAI半導体ですが、グーグルやマイクロソフトなども内製チップの開発を積極的に進めています。

汎用チップからカスタムチップへの移行が広がれば、フォトマスク需要などにも波及が期待されるのではないでしょうか。

需要は未知数

ただ、生成AIがボリュームに与える影響は未知数で、時間ももう少しかかるとみられます。

というのも、AIデータセンターに使うGPUは先端ロジックの6%程度に過ぎず、

AI向けサーバー単体では、スマホやパソコンのように大きな需要を生み出す力に欠けるとみられます。

したがって、生成AI関連需要が民生機器へ波及するかどうかが一つの焦点ですが、

現状では、処理する半導体が搭載された電子機器は一部にとどまっています。

というのも、既存の端末でも、クラウドを使った計算機能をもとに高度な生成AIサービスを利用できるため、

現在よりも高い演算性能が、日常的に使う端末にどれだけ求められるかは未知数なのです。

とはいえ、スマートフォンでもオンデバイスAIが登場し始めており、

今後どういった使用体験をもたらしてくれるかが、普及のカギとなりそうです。

まとめ

以上が、生成AIについての解説でした。

かなり期待されていますが、まだ発展途上の段階にあり、

半導体の全体的な需要へ本格的に貢献するには、やや時間がかかるかもしれません。

ただ生成AIの活用でいえば、企業のビジネスモデルに与える影響は予想がつかないところもあります。

モノづくりを得意とする全ての化学メーカーにとって、伸びしろが多いと感じられます。

なお、Chat GPTによる、本動画の要約をnoteに投稿しました。

個人レベルでも、どのような使用が可能か、探索していきたいですね。

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